薬剤師の早わかり法律講座 薬剤師の早わかり法律講座

法律とは切っても切れない薬剤師の仕事。自信を持って働くためにも、仕事に関わる基本的な知識は身につけておきたいですね。薬剤師であり、現在は弁護士として活躍中の赤羽根秀宜先生が、法律についてわかりやすく解説するコラムです。

第2回 薬歴を残すことの意味

1. はじめに

2015年、とある薬局において、薬歴が未記載だったという報道がありました。薬剤服用歴管理指導料を算定していながら未記載だったということで、社会的にも大きな話題になったため、記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。
今回は、薬歴を残すことの法的な意味を少し考えてみたいと思います。

2. 薬歴を残すことの意味

そもそも、なぜ、薬歴を残すのでしょうか。
薬歴を残すことの一番の意味といえば、本来の目的である「患者の薬学的管理のため」ということになるでしょう。正確に情報を残しておくことで、患者が次回来局した際にはその情報を元に服用状況や副作用の確認を行い、新たな提案などができます。そのために薬歴の記載方法はいろいろ考えられているのだと思います。

もう一つの大きな意味は、報道で話題になったこととも関わりますが、薬剤服用歴管理指導料を算定するためということになるでしょう。当たり前ですが、薬歴を記載せずに薬剤服用歴管理指導料を請求していれば、それは大きな問題です。

3. 薬歴を残す法的義務

薬歴を残すことが患者のためになることは前記のとおりですが、薬局や薬剤師には薬歴を記録保存しておく法的義務はあるのでしょうか。当然のことながら、薬剤服用歴管理指導料を算定している以上は、薬歴を残さなければなりません。では、算定さえしなければ薬歴は残さなくてもいいのでしょうか。

調剤録は法的に残す義務があります(薬剤師法28条、保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則5条)。しかし調剤録にはご存じのとおり服薬状況の内容などは記載しませんので、「薬歴」とは異なります。

その他、薬歴を「残す義務がある」とされる根拠としては、保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則第88条第22項の「保険薬剤師は、調剤を行う場合は、患者の服薬状況及び薬剤服用歴を確認しなければならない」という条文があげられます。ただしこれも「確認しなければならない」となっており、薬歴を残す義務があるとまでは言えません。同様に医薬品医療機器等法第9条の3第2項で、薬局開設者には薬剤師に患者の情報を確認させる義務が課せられていますが、ここでも「確認させなければならない」とあり、薬歴を残す義務まではありません。
以上のとおり、実は、薬歴の記録や保存については、法的に明確な義務はないのです。

では薬歴を残すことは、法的にまったく意味がないのでしょうか。

2014年に薬剤師法が改正になり、調剤時には、情報提供に加えて必要な薬学的知見に基づく指導義務が求められるようになりました。今まで以上に、個々の患者に合わせた具体的な指導が必要だと考えられています。

薬剤師法
(情報の提供及び指導)
第二十五条の二 薬剤師は、調剤した薬剤の適正な使用のため、販売又は授与の目的で調剤したときは、患者又は現にその看護に当たつている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない。

また先ほど申し上げたとおり、薬剤師には患者から併用薬や薬剤服用歴などを確認する義務もあります。

これらの義務は患者と向き合う限られた時間のなかで行う必要があるわけですが、薬歴を残していない場合は毎回、毎回、患者の情報を確認し、それに合った指導をしていかなければなりません。理論的にはそのようなやり方も可能ですが、患者も同じようなことを毎回確認されるのは煩わしく感じるでしょうし、時間的にも現実的ではありません。
しかし薬歴がきちんと残っていれば、こうした余計な時間や手間をかけることなく、薬歴に基づいた具体的な「指導」や情報の確認が可能になると考えられます。

薬剤師によるこのような指導等は法的義務です。もしもこれらができておらず、万が一患者に健康被害が生じれば、薬剤師や薬局は責任を問われてしまいます。この法的義務を実際の業務で尽くすためには、「薬歴は必須」と考えるべきではないでしょうか。

またこのような指導業務において患者とトラブルになるケースでは、「言った・言わない」が争点になることが多くあります。そのようなトラブルを防ぐためには書面に残しておくことが重要です。薬歴がきちんと残っていれば、裁判などの法的な紛争になったときにも重要な証拠になりますし、トラブルになった時点で薬歴を提示することで、患者に納得してもらうことにもつながります。このような点からも薬歴を残しておくことは重要な意味をもっています。

もっとも、形式的に同じような薬歴を残しておくだけでは問題があるでしょう。薬歴は、薬剤師が一方的に残している記録です。一方的に記録に残すのですから、信用性があるものでなくてはなりません。毎回同じことが書いてある薬歴では、信用性が低くなってしまうこともあるでしょう。そのときに起こったことがきちんと書いてあると推認できるような具体性があり、連続性のある薬歴である必要があります。このような具体的かつ連続性がある薬歴は、副作用や薬物治療のための経過観察を実際にしていなければ残すことができませんので、薬物治療に役立つことにもなります。

4. 最後に

以上のとおり、薬歴を残す法的な義務は明確にはありません。しかし薬剤師の指導等の法的義務を尽くすためには必須だと考えられます。また適切に薬歴を残すことは適切な薬物治療に寄与すると同時に、トラブルや紛争対策にもなるのです。業務において薬歴を残すことは大変ですが、薬歴はリスクマネジメントにもなると考えて、ぜひ、きちんと残す意識をもっていただければと思います。

赤羽根 秀宜(あかばね ひでのり)

昭和50年生。中外合同法律事務所所属。
薬剤師の勤務経験がある弁護士として、薬局や地域薬剤師会の顧問を務め、調剤過誤・個人情報保護等医療にかかる問題を多く取り扱う。業界誌等での執筆や講演多数。

赤羽根 秀宜(あかばね ひでのり)

昭和50年生。中外合同法律事務所所属。
薬剤師の勤務経験がある弁護士として、薬局や地域薬剤師会の顧問を務め、調剤過誤・個人情報保護等医療にかかる問題を多く取り扱う。業界誌等での執筆や講演多数。

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