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西洋医学とは異なる理論で処方される漢方薬。患者さんから漢方薬について聞かれて、困った経験のある薬剤師さんもいるのでは? このコラムでは、薬剤師・国際中医師である中垣亜希子先生に中医学を基本から解説していただきます。基礎を学んで、漢方に強くなりましょう!

第29回 五行学説の中医学への応用 (3)人体の病理に応用:相生関係の伝変

前回は、五行学説の中医学への応用のうち、(2)「五行と人体の生理」についてお話ししました。五行学説は、健康な生理状態だけでなく、異常な病理状態における五臓同士の相互影響についても説明できます。今回は(3)「相生関係の伝変」について学んでいきましょう。

五行の相乗・相侮を用いて、臓腑間・経絡間の病理状態を分析

五臓同士は生理的に連絡し合いバランスをとっているため、病理的にも互いに影響し合います。一つの臓が発病すると他の臓にも影響し、さらに順々に他の臓にも伝わっていきます。これを、「伝変(でんへん)」といいます。

ちなみに、これからさまざまな中医学特有の言葉がでてきますが、読み方は自由です。中医学を学び始めると「正しい読み方を知りたい」という声を聞きますが、正しい読み方は中国語(の発音)になります。日本語での読み方は通じる範囲であれば何でもOKで、これでなければ絶対にいけないということはありませんので、特にこだわらないで大丈夫です。

さて、病気の伝わり方には、大きく分けて「相生関係の伝変」と「相剋関係の伝変」の2種類があります。今回は「相生関係の伝変」についてみていきましょう。

1、相生関係における病気の伝わり方

第24回でお話ししたように、相生関係は「母と子の関係」に例えられます。したがって、病気の伝わり方も、「母から子へ」と「子から母へ」の2種類になります。

相生関係(母子関係)における伝変
「母→子」
母病及子:母の病は子に及ぶ
病状は浅くて軽い傾向
「子→母」
子病犯母:子の病は母を犯す
病状は深くて重い傾向

「母病及子」とは:
病気が母にあたる臓から、子にあたる臓へ伝わることを表します。
例えば、「脾(母)」と「肺(子)」の関係を思い浮かべながら、日本人に比較的多くみられる胃腸虚弱を考えてみましょう。慢性的に消化器系が弱い人の中には、声が小さく弱い・呼吸に力がない・慢性鼻炎による鼻水・慢性的な咳や痰などの症状がみられることがあります。胃腸系の弱さとこれらの症状は深く関係している、と中医学では考えます。

中医学では、脾胃(消化器系)は飲食物を消化・吸収し、「気血(きけつ)を生み出すもと」とされます。しかし、長期間にわたって「脾気(ひき:脾の気)」の機能が低下すると、「気」がつくられず「肺」へ行きわたらないため、そのうち「肺気(はいき:肺の気)」も低下します。消化器系の機能低下とともに、呼吸器系も機能低下してしまうのです。

また、消化器系が弱いと、脾の機能のうちの一つである水分代謝がうまく出来ず、「痰飲(たんいん)」と呼ばれる、余分な水分の停滞が生まれます。この余分な水分の停滞は、鼻水、あるいは、咳とともにでる痰として体外へあふれ出ます。そのため、中医学では、「脾は生痰の源、肺は貯痰の器」などといわれます。

また、逆に肺の機能低下により、脾の機能低下も引き起こされます(これは、次にお話する、「子病犯母」にあたります。)

「子病犯母」とは:
病気が子にあたる臓から、母にあたる臓へ伝わることを表します。
「心(子)」と「肝(母)」の関係を例に思い浮かべながら、考えてみましょう。臨床でよくみられるのは、「心肝血虚(しんかんけっきょ)」と呼ばれる状態です。

「心肝血虚」とは、さまざまな原因により心血(しんけつ)が不足し、それが肝に及んで肝血(かんけつ)も不足し、結果として肝も心も血が不足した状態になってしまうことを表します。心血の不足と肝血の不足は相互に影響し合って進展します。

例えば、長期間にわたって思い悩みすぎたとき、親しい人が亡くなるなどの精神的な消耗が激しいとき、急性あるいは慢性的な出血、胃腸虚弱、慢性病などがあるときに、起きやすい状態です。顔色が淡白や青白、舌や唇の色が薄い、不眠、多夢、動悸、不安感、健忘、めまい、夜盲症、両眼の乾き、筋肉のひきつり、爪が割れやすい、などの不調が表れます。

次回は、「病気の状態・相剋関係の伝変」についてお話しします。お楽しみに!

参考文献:

  • 戴毅(監修)、淺野周(翻訳)、印会河(主編)、張伯訥(副主編)『全訳 中医基礎理論』たにぐち書店 2000年
  • 王新華(編著)、川合重孝(訳)『基礎中医学』たにぐち書店 1990年
  • 小金井信宏『中医学ってなんだろう①人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年
  • 平馬直樹、兵頭明、路京華、劉公望『中医学の基礎』東洋学術出版社 1995年
  • 関口善太『やさしい中医学入門』東洋学術出版社 1993年
  • 王財源『わかりやすい臨床中医臓腑学』医歯薬出版株式会社 1999年

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、国際中医薬膳師、管理薬剤師。

薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。 東京薬科大学薬学部卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学、イスクラ中医薬研修塾、国立北京中医薬大学日本校にて中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS 猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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