薬剤師の早わかり法律講座 薬剤師の早わかり法律講座

法律とは切っても切れない薬剤師の仕事。自信を持って働くためにも、仕事に関わる基本的な知識は身につけておきたいですね。薬剤師であり、現在は弁護士として活躍中の赤羽根秀宜先生が、法律についてわかりやすく解説するコラムです。

第3回 まれにしか起こらない副作用

1. はじめに

薬剤師には医薬品の副作用による健康被害を防ぐ責務がありますが、副作用にはさまざまなものがあり、中にはまれにしか起こらないものもあります。今回は、薬剤師の副作用に関する患者さんへの指導等について検討してみたいと思います。

2. 情報提供及び指導義務

ご存じのとおり薬剤師は調剤した際、薬剤の適正な使用のため、患者さんなどに必要な情報提供及び指導を行う義務を負っています。

薬剤師法
(情報の提供及び指導)
第二十五条の二  薬剤師は、調剤した薬剤の適正な使用のため、販売又は授与の目的で調剤したときは、患者又は現にその看護に当たつている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない。

この指導義務は適正な薬剤使用のために行うものですので、用法用量だけではなく、副作用などの服用上の留意点も患者に伝える必要があります。この義務は適正使用や薬害防止等の観点から課されており、医薬品の専門家である薬剤師にとって重要な義務の一つといっていいでしょう。

3. まれにしか起こらない重篤な副作用についての裁判例

それでは、数万人に一人にしか起こらないような重篤な副作用についても、患者さんに伝える必要はあるのでしょうか。
薬剤師がこのような義務を負っているとすれば、まれにしか起こらない副作用についてなんら説明せず、そのために副作用の発見が遅れ、患者さんに健康被害が起これば、薬剤師は責任を問われることになります。
これについては、参考になる裁判例があります(高松高判平成8年2月27日 判例タイムズ908号232頁)。

事案の概要は、医師がアレビアチンとフェノバールを併用投与していたところ、患者さんが退院後に中毒性表皮融解壊死症(TEN)を発症して死亡。患者さんの遺族が、投薬に際して医師に注意義務違反があったとして損害賠償請求をしたというものです。

裁判所は「その副作用の結果が重大であれば、発症の可能性が極めて低い場合であっても、副作用が生じた時には早期に治療することによって、重大な結果を未然に防ぐことができるように、服薬上の留意点を具体的に指導すべきである」とし、300万人に1人しか起こらないとされる中毒性表皮融解壊死症(TEN)についても、服用上の留意点を説明する必要があると判断しました。

そして、その説明方法については単に「何かあればいらっしゃい」という一般的な注意だけでなく、「痙攣発作を抑える薬を出しているが、ごくまれには副作用による皮膚の病気が起こることもあるので、かゆみや発疹があったときにはすぐに連絡するように」という程度の説明が必要だとしています。
この判決は医師に対するものですが、前記のとおり薬剤師には指導義務があるため、薬剤師にもこの判決は当てはまると考えられます。

4. 具体的な指導内容

この裁判例は副作用の留意点を具体的に伝える必要があるとしていますが、副作用の内容をすべて伝えることを要求しているわけではありません。重篤な副作用についてあまりにも詳細に伝えることは服薬アドヒアランスを低下させるだけであり、薬剤の適正使用にはつながりにくくなります。また、薬剤師に指導義務を課した意味がなくなってしまいます。薬剤師には患者さんに安心して服用してもらい、かつ、薬害を防げるような指導が求められるはずです。そのためこの裁判例も、「かゆみや発疹があったときにはすぐに連絡するように」と、初期症状を説明する具体例を示しています。

副作用が起こる場合、通常は初期症状が発生しますが、初期症状にはさまざまあるため医療の知識のない患者さんは異変を感じても、すぐに「薬のせいだ」と認識できない場合があります。とはいえ、副作用についてすべての初期症状を説明することは困難ですので、必ずしも全部を伝える必要はないはずです。
そもそも、このような初期症状を伝える目的は副作用の早期発見にあります。特徴的な初期症状をいくつか例示して説明することにより、症状が出た場合に患者さんが自分で副作用の可能性を疑い、「薬剤情報提供書を確認する」「医師や薬剤師に相談する」などの対応がとれるようにです。

この説明がどのような内容でどの程度必要かは、薬の種類、患者の状況、投与日数、従前の服用歴などによって変わり、一律に決まるものではありません。平成26年の薬剤師法の改正によって、薬剤師には従来の「情報提供義務」に「指導義務」が付加されました。この義務によって、今まで以上に個々の患者に合った具体的な指導が求められるとされています。

まさに、このような“まれにしか起こらない副作用”の指導などにおいて、薬剤師の専門性が求められているといっていいでしょう。裁判例も「投薬による副作用の重大な結果を回避するために、服薬中どのような場合に医師の診察を受けるべきか患者自身で判断できるように、具体的に情報を提供し、説明指導すべきである」としており、患者が副作用を早期に発見し、行動を起こせるようにするための指導を求めていると考えられます。

5. 最後に

薬剤師は副作用を最小限に抑えるなど、薬害防止を大きな任務の一つとして持っています。「数万人に一人に起こるものだから、それは仕方がない」としてしまったら、薬剤師の義務を果たしているとはいえません。副作用を発症した患者さんはその不利益を一人で負うことになり、重大な損害を被ることになります。この一人の負担をなくすために、または少しでも軽減するために、薬剤師は、多くの患者さんに適切な指導を行っていく必要があると考えられます。

赤羽根 秀宜(あかばね ひでのり)

昭和50年生。中外合同法律事務所所属。
薬剤師の勤務経験がある弁護士として、薬局や地域薬剤師会の顧問を務め、調剤過誤・個人情報保護等医療にかかる問題を多く取り扱う。業界誌等での執筆や講演多数。

赤羽根 秀宜(あかばね ひでのり)

昭和50年生。中外合同法律事務所所属。
薬剤師の勤務経験がある弁護士として、薬局や地域薬剤師会の顧問を務め、調剤過誤・個人情報保護等医療にかかる問題を多く取り扱う。業界誌等での執筆や講演多数。

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