薬剤師の早わかり法律講座 更新日:2016.04.26公開日:2016.01.13 薬剤師の早わかり法律講座

法律とは切っても切れない薬剤師の仕事。自信を持って働くためにも、仕事に関わる基本的な知識は身につけておきたいですね。薬剤師であり、現在は弁護士として活躍中の赤羽根秀宜先生が、法律についてわかりやすく解説するコラムです。

第1回 調剤過誤発生。薬剤師の責任は

1. はじめに

薬剤師の皆さんは、「調剤過誤」を起こしてしまい患者に健康被害があれば、法的責任を負うことはご存じだと思います。しかし、具体的にどのような法的な責任を負うのかは、わかりにくいところもあるのではないでしょうか。この法的責任の理解が曖昧なため、過度に不安になり、患者に適切に対応ができない事例を多く見ます。この機会に、調剤過誤時の法的責任を整理しておきたいと思います。

2. 調剤過誤による法的責任

薬剤師が調剤過誤を起こしてしまった場合の法的責任としては、①刑事責任、②行政責任、③民事責任、があります。これらの責任については、交通事故を思い浮かべるとわかりやすいでしょう。交通事故を起こした加害者が被害者に対し、金銭賠償するのが「民事責任」、自動車運転過失致死傷罪(刑法211条2項)等により刑罰を受けるのが「刑事責任」、運転免許の停止や取り消しをされるのが「行政責任」ということになります。

3. 刑事責任

まずは、刑事責任についてみていきたいと思います。
刑事責任とは、犯罪を犯した者が刑罰を受けなければならないという重い責任です。具体的には、調剤過誤を起こした薬剤師は、「業務上過失致死傷罪(刑法211条1項)」に問われる可能性があります。

(業務上過失致死傷等)
第二百十一条  業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

近年では、自動分包機の設定ミスでウブレチド錠を誤投薬しまったうえ、その事実を知ったにもかかわらず患者に服用中止の指示等をせず、患者が死亡してしまったという事件がありました。この事件で調剤に関わり、報告をしなかった管理薬剤師は、業務上過失致死罪で起訴され、禁錮1年執行猶予3年の判決がなされました。この他にも、ワーファリンの過量投与によって患者を死亡させたとして、調剤および監査をした薬剤師がそれぞれ業務上過失致死罪で略式命令により50万円の罰金刑に処せられた事例などがあります。
もっとも調剤過誤があった場合に、すべてのケースで刑事責任を問われるわけではありません。一般的には上記の事件のように被害が重大であったり、過失の態様(ありさま・様子)が悪質であったりすると、刑事事件になる可能性が高くなるといえます。

4. 行政責任

薬剤師は上記事件のように罰金刑以上の刑に処された場合、免許の取り消しや業務停止等の行政処分を課されることがあります(薬剤師法8条、5条)。ただし、罰金以上の刑に処された方すべてが行政処分の対象になるわけではありません。このような行政処分は、厚生労働省が事件として把握したものを医道審議会にかけ、医道審議会において処分が必要と判断された場合に処分されることになります。その他にも「薬剤師としての品位を損するような行為」があった場合も行政処分がなされることがあります。
上記のウブレチド事件では管理薬剤師は業務停止1年間、ワーファリンの事件では、調剤した薬剤師および監査した薬剤師両名とも業務停止6ヶ月間の処分がなされました。

5. 民事責任

最後に民事責任についてご説明します。先述の刑事責任・行政責任は、あくまで国や行政に対する責任です。患者との関係での法的責任は、民事責任になります。この民事責任の意味とは損害賠償責任、すなわち金銭の支払い義務です。もちろん金銭を支払えばそれでいいということではなく、誠意を持って対応する必要はあります。しかし、最終的には金銭で解決するしかないことを意識しておくことは重要です。
実際のところ被害者である患者さんやご家族とやり取りをするなかでは、「金銭で解決するしかない」ということを理解してもらうことが第一のハードルになることもあります。また、法的責任を問われて金銭の支払いを行っても、患者が亡くなった場合や後遺症が残った場合などは当然ですが全面的な解決はできません。このような法的責任の意味からも、健康被害が起こり得る調剤過誤は「予防がもっとも重要」ということがおわかりいただけるのではないでしょうか。

6. 最後に

以上のとおり、調剤過誤によってさまざまな責任が発生します。万が一のため、また起こさないようにするためにも、法的な「責任」の意味を理解しておくことが大切なのではないでしょうか。このような責任は調剤した薬剤師だけが負うのではなく、薬局開設者や管理薬剤師も負う可能性があります。そのため、調剤過誤が起こったときは速やかに開設者や管理者に報告するという意識が重要ですし、開設者や管理者はミスが起こらない、服薬指導などの業務を行いやすい業務体制を整えることも重要になるのです。

赤羽根 秀宜(あかばね ひでのり)

昭和50年生。中外合同法律事務所所属。
薬剤師の勤務経験がある弁護士として、薬局や地域薬剤師会の顧問を務め、調剤過誤・個人情報保護等医療にかかる問題を多く取り扱う。業界誌等での執筆や講演多数。

赤羽根 秀宜(あかばね ひでのり)

昭和50年生。中外合同法律事務所所属。
薬剤師の勤務経験がある弁護士として、薬局や地域薬剤師会の顧問を務め、調剤過誤・個人情報保護等医療にかかる問題を多く取り扱う。業界誌等での執筆や講演多数。

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