薬剤師国家試験過去問 公開日:2018.07.10更新日:2019.04.19 薬剤師国家試験過去問

薬剤師国家試験は薬剤師なら誰もが必ず通った道。毎年、試験の難易度や合格率が話題になりますが、国試は“現役薬剤師”として基本的な知識を再確認するチャンス。橋村先生の解説で、国家試験の過去問を「おさらい」しましょう!

第26回 レジオネラやクリプトスポリジウム、
プールやスパからの感染症に注意しよう

温水管理のあるプールやスパが増えている中、夏の暑い時期になると使用頻度はかなり増加しますよね。水質は、「外観がキレイ=飲水可」ではありません。子供が無邪気にプールやスパの水を飲水しているところが見受けられますが、「消毒されているから大丈夫」とは言えません。どのような危険性が考えられるのか、薬剤師国家試験の過去問第102回問242-243から確認しましょう。

【過去問題】

第102回 問242-243から出題

問 242-243

学校薬剤師が小学校の水道水の水質検査を行った。結果は以下の通りであった。

一般細菌 36集落/mL
大腸菌 検出されず
塩化物イオン 27mg/L
全有機炭素(TOC) 1mg/L
pH 値 7.0
異常なし
臭気 異常なし
色度 0.5度
濁度 0.1度
遊離残留塩素 0.3mg/L

問242(実務)

学校薬剤師が採水の現場で測定すべき項目はどれか。2つ選べ。

  • 1一般細菌
  • 2大腸菌
  • 3全有機炭素
  • 4臭気
  • 5遊離残留塩素

問243(衛生)

この水道水の水質検査に関する次の記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

  • 1大腸菌は検出されていないが、一般細菌が検出されているので、水質基準を満たしていない。
  • 2塩化物イオン濃度は、し尿等の混入があると値が増加する。
  • 3全有機炭素(TOC)の測定値は、水道水中の還元性無機イオンの影響を受けにくい。
  • 4トリハロメタンの濃度が高いと色度、濁度のいずれも高くなる。
  • 5遊離残留塩素が水質基準を超えているため、このままでは飲料に適さない。

<解答>
問242:4、5
問243:2、3

解説

問242

水道水の水質検査の試験順序は以下の通りです。

  • 採水現場で直ちに測定するもの:水温、濁度、臭気、残留塩素など
  • 採水現場で測定することが望ましいもの:pH、一般細菌数、大腸菌数など
  • 試験室で直ちに測定するもの:塩化物イオン、全有機炭素、硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素など

以上より選択肢のうち、採水の現場で測定すべき項目は「臭気」「遊離残留塩素」になります。

問243

以下表1を念頭に置きながら、各選択肢を見ていきましょう。

表1
問題 水質基準
一般細菌 36集落/ml 100集落/ml以下
大腸菌 検出されず 検出されないこと
塩化物イオン 27mg/L 200mg/L以下
全有機炭素(TOC)※ 1mg/L 3mg/L以下
pH 7 5.8~8.6
異常なし 異常でないこと
臭気 異常なし 異常でないこと
0.5度 5度以下
濁度 0.1度 2度以下
遊離残留塩素 0.3mg/L 0.1mg/L以上

※平成30年4月1日から有機物等の検査項目から「過マンガン酸カリウム消費量」は削除

  • 1:
    一般細菌数の基準値は、1 mL中100集落以下。設問の水道水(一般細菌:36集落/mL)は水質基準を満たしています。
  • 2:
    し尿には塩化物イオンが含まれていて、水道水にし尿が混入すると塩化物イオン濃度の値は増加します。同様に、海水や工業廃水などの混入によっても塩化物イオンの値は増加します。
  • 3:
    水道水中の還元性無機イオンを燃焼させても二酸化炭素は生じないため、全有機炭素(TOC)は水中の有機物の量を表します。水道水中の有機物を燃焼させることで生じる二酸化炭素を測定します。
  • 4:
    トリハロメタン(フミン質の塩素処理副生成物)は、色度、濁度に影響を与えません。
    色度(※1)に影響を与える物質:フミン質、鉄化合物、 マンガン化合物など
    濁度(※2)に影響を与える物質:無機及び有機の浮遊物、微生物、泥土など
    ※1:水中に含まれる溶解性物質及びコロイド性物質による着色の程度
    ※2:水の濁りの程度
  • 5:
    遊離残留塩素の基準値は遊離残留塩素:0.1mg/L以上であり、設問の水道水の遊離残留塩素は0.3mg/Lのため水質基準を満たしている。

– 実務での活かし方 –

医師による届け出が必要な感染症(表2参照)のうち、プールやスパなどを介して感染が考えられる感染症は主に2つ、レジオネラ症とクリプトスポリジウム症が挙げられます。(表3参照)

表2
感染分類 届け出基準 代表的な感染症
1類感染症 要即届 出血熱類、ペスト、痘そう、ラッサ熱など
2類感染症 要即届 結核、ジフテリア、SARS、鳥インフルエンザ類など
3類感染症 要即届 コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌など
4類感染症 要即届 レジオネラ症、狂犬病、ボツリヌス菌、マラリア、ダニ媒介脳炎など
5類感染症 特定の感染症以外は7日以内 麻疹、風疹、百日咳、クリプトスポリジウム症、アメーバ赤痢など
表3
感染症 レジオネラ症(劇症型肺炎) クリプトスポリジウム症
病原体 細胞内寄生細菌であるレジオネラ属菌 胞子虫類に属する原虫
感染源 循環水使用のスパやプール、加熱しない加湿器など 水道水、プールなど
好発時期 7月 なし
潜伏期間 2-10日間 3-10日間
臨床症状 38度以上の高熱、胸痛、呼吸困難などから傾眠、昏睡、幻覚、四肢の振戦 水様性下痢、腹痛など
治療法 ニューキノロン系、マクロライド系、抗生物質 食餌制限、水・電解質の摂取

レジオネラ症は細胞内寄生細菌であるレジオネラ属菌による感染症であり、レジオネラ属菌は土壌や水環境に常在しています。治療としては宿主細胞に浸透するニューキノロン系、マクロライド系などの抗生剤が適応となります。
一般的にレジオネラ属菌は20~45℃で増殖が活発になり、一般細菌や従属栄養細菌の増殖、それを補食するアメーバが増え、最後にアメーバの中で増えるレジオネラ属菌が増殖します。そのため通常は換水や洗浄により環境を清潔に保ち、増殖する温度より低温あるいは高温にして温度管理すれば、レジオネラ菌による汚染を抑制できます。そのためレジオネラ菌が増殖しやすい温度になりがちな温水は、次亜塩素酸などにより適切な濃度管理による消毒処理を行う必要があります。
また、60℃以上ではレジオネラ属菌は殺菌されます。細胞性免疫機能が低下している場合では肺炎を起こす危険性が通常より高くなるので、特に留意する必要があります。高齢者や新生児、透析患者、糖尿病、AIDS患者はハイリスク・グループとなります。

クリプトスポリジウムは牛、豚、犬、猫、ねずみなどの腸管寄生原虫として認知されていました。人への感染は1970年代に発見されています。治療は原虫のため、基本的には食餌制限や水・電解質摂取などの対症療法となります。年間の報告数も10例前後のため、一般的な認知度は低いですが、主な臨床症状である水様性下痢は1日20回以上にも及ぶ極めて激しい症状となるため、注意が必要となります。

事例

表4に、主な感染症の原因菌に対する有効残留塩素濃度と飲料水、水泳プールにおける基準を表記しました。

表4
有効残留塩素濃度 対象菌種
0.1mg/L チフス菌・肺炎球菌・ジフテリア菌・サルモネラ菌・黄色ブドウ球菌・溶血性連鎖球菌など
0.1mg/L~0.2mg/L 飲料水水質基準
0.15mg/L~0.25mg/L 大腸菌など
0.4mg/L以上 アデノウイルス、レジオネラ属菌など
0.4mg/L以上1.0mg/L以下 水泳プールの水質基準
1mg/L以上 クリプトスポリジウム※

※99%不活化するのに必要な遊離塩素濃度は80mg/Lで、約90分間の処理時間が必要とされており、一般の浄水場で実施されている遊離塩素による消毒方法では不十分とされてきました。最近になって99%不活化CT値が1,600 mg min/L (pH 7.0、20℃)での不活化が生じることが明らかになりましたが,それでも遊離塩素濃度1 mg/Lで1,600分(約27時間)の処理時間が必要となるので、塩素消毒では十分な消毒効果は期待できません。

表4からも見て判断できるように、適正な残留塩素を維持していても消毒が完璧に遂行されているとは限りません。一般生活を過ごすにあたっては必要以上に注意をする必要はありませんが、プールでの遊泳やスパなど大量の水が関わった2-3日後に発現する下痢や発熱には注意が必要となります。特に幼児や小学生はプールで遊泳中にプールの水を飲水することがあります。消毒されているから飲水しても大丈夫!と見過ごさないようにしましょう。

橋村 孝博(はしむら たかひろ)

クリニカル・トキシコロジスト、スポーツファーマシスト、麻薬教育認定薬剤師資格を有する薬剤師。
明治薬科大学卒業後、大学病院、中堅総合病院、保険薬局に勤務。
愛知県薬剤師会 理事。緩和医療薬学会評議員。金城学院大学薬学部研究員。ICLSアシスタントインストラクター。

ファーマブレーングループ オフィス・マントル:http://mantle-1995.com

橋村 孝博(はしむら たかひろ)

クリニカル・トキシコロジスト、スポーツファーマシスト、麻薬教育認定薬剤師資格を有する薬剤師。
明治薬科大学卒業後、大学病院、中堅総合病院、保険薬局に勤務。
愛知県薬剤師会 理事。緩和医療薬学会評議員。金城学院大学薬学部研究員。ICLSアシスタントインストラクター

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