薬剤師のお悩みQ&A 公開日:2016.07.04更新日:2016.07.01 薬剤師のお悩みQ&A

第58回 井手口直子 先生

仕事をしていると転勤、昇進といった社内での環境の変化や、転職、結婚といったライフステージの変化など、さまざまな転機に遭遇するのではないでしょうか。こうしたキャリアの転機が訪れたとき、1年後、3年後、5年後あるいはもっと先の自分は、どのようなスキルや知識を身につけて、どのような仕事をしていたいか考えたことがありますか。
今回は、薬剤師のキャリアについて井手口直子先生にお話をうかがいました。
原稿/高垣育(薬剤師・ライター)

Q
転勤、昇進、結婚、出産など“人生の節目”はたくさんありますが、“キャリアの節目”とは、いつ、どのようなときを指すのでしょうか。
「このままでいいのかな?」と思ったら、それが“キャリアの節目”
「このままでいいのかな?」と思ったら、それが“キャリアの節目”
今の自分を振り返り「このままでいいのかな?」と思ったときが節目

 
皆さんは“キャリアの節目”と聞いて何を思い浮かべますか?
「昇進」「転勤」といったポジティブなものから、「人間関係の悪化」「将来への不安」といったネガティブなものまで、いわゆる「転機」といわれるものを思い浮かべるのではないでしょうか。しかし、実はこのような大きな出来事だけではなく、「自分はこのままでいいのかな?」と思ったら、そのタイミングがキャリアの節目なのです。
 
そのときが来たら、次に示す表1を用いて「現在の自分の状況」と「将来の自分の希望・不安」を書き出してみてください。そして、現在の自分が向いている方向性と、将来の自分が進みたいキャリアの方向性を確認してみましょう。果たしてあなたは「現在の自分の状況」のまま進んで、将来実現したいことを達成できそうでしょうか。
 

表1 「現在の自分の状況」と「将来の自分の希望・不安」の例
現在 将来
ポジティブ 昇進
昇給
新しい業務
独立
収入アップ
やりがいのある仕事
ネガティブ 忙しい
部下との関係
昇給するかどうか
転勤に対する不安
仕事が増えてさらに忙しくなる

 

“キャリアの節目”にどんなアクションをとりますか?

 
キャリアの節目には、将来の自分のためにアクションを起こすことが大切です。
以前、薬剤師を対象にキャリアに関するアンケート調査を行ったところ、薬剤師がキャリアの節目に起こすアクションは「転職」「自己啓発(勉強、資格取得など)」が大半を占める結果となりました。
問題に直面したときに勉強をして知識を蓄えるという、勤勉な薬剤師らしい結果です。ただ残念なのが、せっかく蓄えた知識を会社や患者さんのために活かす段階までは及ばず、資格取得や自分自身の知識増に留まっている状況も少なくないことでした。
 
薬剤師には表2に示すように実務者として発揮すべき

  • リーダーシップ
  • コントロール
  • 顧客志向性
  • コミュニケーション
  • 意思決定

という5つの能力が欠かせません。
 

表2 薬剤師の実務者としての顔
能力エリア 項目
リーダーシップ 薬剤師としての役割と組織の方向性を理解し、他のメンバーへも影響を与えている
コントロール 仕事の優先順次(緊急性と重要性)が適切につけられ
人に振り分け、高いレベルで達成できる
顧客志向性 患者、来局者、医師、社内、社内の人間のニーズをつかみ常に満たそうと努力する
コミュニケーション 相手の気持ちを捉え、よく話を聞き、交流ができる。
自分の考えを適切に伝えることができる
意思決定 問題解決の際に情報を集め、分析判断して意思決定
行動に移せる

※井手口直子先生ご提供資料より

 
過去に私達が行ったアセスメント調査によると薬剤師は上記の表にある「顧客志向性」と、「意思決定」のカテゴリーの中の「問題分析力」が高い方が多い傾向にあることがわかりました。ただし後者の「意思決定」においては、分析した結果を行動に移す「問題解決力」が低い傾向がみられました。この特性こそが、問題が発生したときに「周囲を巻き込んで解決につなげる」といったアクションに結びつかない原因になっていると考えられます。
前述した「キャリアに関するアンケート」においても、現場に留まって改善策を講じるといった「組織改革を試みる」などの回答が低い傾向にあります。
 
これからの薬剤師にはこうした弱点を克服し、キャリアの節目でとるアクションの幅を広げていただきたいですね。そうすることでキャリアをより多彩にデザインし、これまで以上にやりがいある仕事に従事できるようになるのではないでしょうか。
 

井手口直子先生プロフィール
井手口 直子先生プロフィール
帝京平成大学薬学部教授。薬学博士。
著書に「薬剤師のためのコミュニケーションスキルアップ」(講談社、2010)、「薬学生、薬剤師育成のための模擬患者(SP)研修の方法と実践」(じほう、2009)などがある。
帝京平成大学: https://www.thu.ac.jp/index.html

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