薬剤師のお悩みQ&A 公開日:2017.01.24更新日:2023.04.27 薬剤師のお悩みQ&A

第68回 藤本 和子先生

2011年の東日本大震災以降、災害医療の現場は支援する側・支援される側ともに大きく変化してきました。今回は、日本災害医療薬剤師学会の理事を務め、災害医療支援薬剤師の養成に尽力している藤本和子先生に再度ご登場いただきます。
現在の災害医療現場の仕組みや体制、今後災害医療に携わることを希望する薬剤師が活躍するための方法などについてうかがいました。
原稿/高垣育(薬剤師・ライター)

Q
被災地での救援活動に参加したいと思っています。どのような手続きが必要なのか、また、現場の指揮系統はどのようになっているのか教えてください。
支援する側は慌てないで! 救援活動は薬剤師会を通して参加を
支援する側は慌てないで! 救援活動は薬剤師会を通して参加を
薬剤師が被災地救援に参加する場合には

 
災害時、薬剤師は薬剤師3名で編成される薬剤師班に所属して活動します。
東京都の薬剤師が「薬剤師班」として活動するには、平時あるいは発災後に東京都薬剤師会や地区の薬剤師会への登録が必要となります。これには薬剤師会の会員である必要はなく、非会員でも参加することが可能です。
活動までの流れは、事前登録をしている場合と発災時に登録する場合で異なります。
 
事前登録している場合
地区薬剤師会の役員や防災委員は震度5強以上、災害薬剤師登録者は震度6弱以上の地震が起きた場合に、指定された場所に自主的に参集します。
発災後に登録する場合

  • ・発災から72時間まで…現地で地区薬剤師会が参集した薬剤師を薬剤師班へ登録します。
  • ・72時間以降…東京都薬剤師会または地区薬剤師会へ登録したい旨を申し出ます。

 
災害が起きるとつい気持ちがはやって、とにかく現地へと向かいたくなるかもしれませんが、個別に薬剤師が集まっても現地では系統立った活動はできません。必ず薬剤師会に登録してから救援活動に参加するようにしましょう。
 
また参集にあたっては、
①夜間の単独行動は避けて複数人で行動すること
②最低限の安全が確保されていると確認すること
③活動に必要な器材や備品、薬剤師の身分を証明する書類を持参すること
に留意します。
 

被災地における薬剤師の活動

 
被災地に入った薬剤師がどのような指揮系統のもとで活動するのかは、配置された活動場所によって異なります。
 
災害薬事センター
災害薬事センターは、医療救護所や避難所への医薬品などの供給を行う拠点です。
ここに配置された薬剤師班は、地区薬剤師会の会員から選ばれた「災害薬事コーディネーター」の指示に従って活動します。この指示は、毎朝実施されるミーティングでコーディネーターより出されます。
災害医療センターにおける主な業務は、
①医薬品などの供給に関する業務
②薬剤師班活動の調整に関する業務
③薬事関係者の調整に関する業務
となります。
 
緊急医療救護所・医療救護所
医療救護所全体の運営や行動については市区町村災害医療コーディネーターの指示に従います。医薬品等の供給・需要に関しては「災害薬事コーディネーター」に、調剤等に関しては薬剤師班の班長の指示に従って行います。班長は活動前に班内で定めておきます。
医療救護所では、
①災害用処方箋に基づく調剤・服薬指導、OTC医薬品の提供
②医薬品等の管理・災害薬事センターへの供給要請
③情報収集および医薬品・医療資器材などの確保
④トリアージ
が主な業務となります。
 
避難所
避難所における薬剤師班の役割は、「災害医療コーディネーター」と避難所管理責任者との協議によって、あらかじめ定められます。
これに基づき、薬剤師班の班長が指示を出し、班員である薬剤師はこれに従います。もし状況の急変などが起きた場合には、避難所管理責任者の了解を得たうえで対応します。
主な業務としては、
①定期的に避難所を巡回し、被災者の服薬状況調査や、服薬指導を実施する
②医師の判断・治療を必要としない軽症患者からのOTC医薬品などの求めがあった場合、これをよく確認したうえで医薬品を交付する
③避難所の衛生管理
があります。そのほかにも、薬が必要な人への服薬指導、トイレの衛生管理や換気・室温湿度管理などの医療救護班との連携、避難者の健康管理といった役割も担います。
 

被災地で活動するため、普段から心がけておきたいポイント

 
いざというとき、被災地で活動するために普段から心がけておきたいことの一つに、「日本全国に顔見知りを作っておく」ということがあります。学会後の懇親会など多くの医療スタッフが集まる場では、できるだけ多くの知り合いを作り、“横の連携・つながり”を強くしておきましょう。
災害支援で土地勘のない場所へ派遣されたときも、その土地に顔見知りの薬剤師や医療従事者がいれば、その人をきっかけに現地のスタッフと早くなじむことができたり、細かな情報なども手に入れやすくなります。
また、日頃から勤務先の同僚や上司の理解を得ておくことも大切です。自分がいくら知識や技術などを身につけて発災時に備えていても、職場の理解が得られていなければ、救援活動に駆けつけることが難しいからです。発災した場合に、自分がどのような活動をすることになるのかをあらかじめ職場の人たちに周知し、理解を得ておきましょう。

藤本和子先生プロフィール
共立薬科大学薬学部卒、薬学博士。共立薬科大学薬理学講座助手、生体内物質の微量測定を中心に脳内物質の研究に従事。2005年より薬剤師卒後教育の生涯学習センター専任教員、2009年より現職の慶應義塾大学薬学部生涯学習センター助教に就任し、既卒薬剤師に必要な学習提供の場を推進している。また、災害医療支援薬剤師の養成、およびSports Pharmacist活動を行っている。

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