薬剤師の早わかり法律講座 公開日:2016.08.31 薬剤師の早わかり法律講座

法律とは切っても切れない薬剤師の仕事。自信を持って働くためにも、仕事に関わる基本的な知識は身につけておきたいですね。薬剤師であり、現在は弁護士として活躍中の赤羽根秀宜先生が、法律についてわかりやすく解説するコラムです。

第8回 疑義が解消されていない調剤は患者さんの不利益に

前回のポイント】

  • 疑義照会せずに調剤して健康被害が発生したら、薬剤師は法的責任を問われる
  • 医師が適切に対応してくれず、疑義が解消しない場合には、疑義照会義務を果たしたとは言えない
  • 処方の過誤を正し、医薬品使用の適正を確保するのは、薬剤師の仕事!

薬剤師が疑義照会義務によって負う責任

処方せんの疑義を解消しないまま調剤し、患者さんに健康被害が起こってしまったら、調剤した薬剤師は疑義照会義務を果たしていないとして、注意義務違反(過失)が認められます。おそらく損害賠償責任を負うことになるでしょう。
もちろん疑義に応じなかった医師も責任を問われますので、医師と薬剤師が連帯して損害賠償責任を負うことになります。参考までにお話しすると、保険医には、以下のとおり疑義照会に適切に応じる義務があります。

保険医療機関及び保険医療養担当規則
(処方せんの交付)
第二十三条  保険医は、処方せんを交付する場合には、様式第二号又はこれに準ずる様式の処方せんに必要な事項を記載しなければならない。
2  保険医は、その交付した処方せんに関し、保険薬剤師から疑義の照会があつた場合には、これに適切に対応しなければならない。

疑義照会義務を果たさずに健康被害が発生した場合、薬剤師は損害賠償責任だけではなく、刑事責任や行政責任に問われる可能性もあります。

「医師が疑義照会に応じないのに、薬剤師も責任が問われるのはおかしい」という意見もあるかもしれません。
しかし、医師が理由もなく疑義照会に応じないとしても、患者さんにその不利益を負わせてよいことにはなりません。患者さんに健康被害が起こる可能性があるにも関わらず、「医師が言うからしょうがない」と調剤してしまったら、薬剤師は患者さんに対して「この患者さんに健康被害が起きてもしょうがない」と判断していることになってしまいます。

どうしても疑義照会に応じてもらえなかったら

薬剤師は独立の専門職であり、医師を介して患者さんに責任を負っているわけではなく、患者さんに直接、独立の責任を負っています。患者さんに健康被害が起こる可能性を認識しながら調剤したとしたら「薬剤師の職務を放棄した」と言われても仕方がありません。また、医師と薬剤師の関係も重要であることは間違いありませんが、患者さんの生命身体がそのために侵されていいはずはありません。薬剤師は医師のために調剤をするのではなく、患者さんのために調剤をしているのであり、あくまで患者さんのために最善を尽くさなければならないのです。

医師がどうしても疑義照会に応じず、納得できる説明もなく、健康被害が起こるおそれのある処方が変更されない場合には、薬剤師は調剤を拒否することができます。薬剤師には調剤の応需義務がありますが(薬剤師法21条)、このような場合には「正当な理由」があると解されています。

また薬局開設者には、「薬剤の適正な使用を確保することができないと認められるときは、当該薬剤を販売し、又は授与してはならない。」(医薬品医療機器等法第9条の3第3項)という義務もあります。
しかし、調剤拒否は患者さんのためにもなりません。できる限り、医師に対して疑義照会に応じてもらう努力をする必要があるでしょう。

赤羽根 秀宜(あかばね ひでのり)

昭和50年生。中外合同法律事務所所属。
薬剤師の勤務経験がある弁護士として、薬局や地域薬剤師会の顧問を務め、調剤過誤・個人情報保護等医療にかかる問題を多く取り扱う。業界誌等での執筆や講演多数。

赤羽根 秀宜(あかばね ひでのり)

昭和50年生。中外合同法律事務所所属。
薬剤師の勤務経験がある弁護士として、薬局や地域薬剤師会の顧問を務め、調剤過誤・個人情報保護等医療にかかる問題を多く取り扱う。業界誌等での執筆や講演多数。

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