“漢方”に強くなる! まるわかり中医学 “漢方”に強くなる! まるわかり中医学

知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。

第57回 ペットと中医学

漢方薬は、人間だけのものではありません。中医学(漢方薬・薬膳・推拿・鍼灸・気功)は、その歴史上、何千年も前から動物たちの健康維持や治療に用いられてきました。今回は、ペットと中医学についてお話ししたいと思います。

目次

1.数千年前から獣医によって中医学は使われている

周の時代(紀元前1046年頃~紀元前256年)の官制について紹介されている書物『周礼』によると、医師が「食医(王様の飲食の営養管理・衛生管理など)」「疾医(内科医)」「瘍医(外科医)」「獣医」の4つに分類されていたことが書かれています。このことから、約3000年前にはすでに獣医がおり、中医学が動物にも施されていたことがわかります。

現代においても、漢方薬局や一部の獣医師の間で、ペットなどの動物に中医学的な治療や病気予防がなされることがあります。参考文献に挙げた『犬・猫に効く指圧と漢方薬』は米国獣医師であるシェリル・シュワルツ氏により執筆された原著『Four Paws Five Directions : A Guide to Chinese Medicine for Cats and Dogs』の翻訳本であり、中国以外の国でも中医学が動物達の治療に用いられていることがわかります。

日本でも漢方薬メーカーがペット向け製品を発売したり、獣医師が中医学について学ぶ場があったりと、以前より認知されてきているように思います。興味のある方は、「獣医・中医学・東洋医学・学会」などでインターネット検索してみてください。

2.中医学的なからだの仕組みや病気のとらえ方は基本的にはヒトと同じ

犬や猫は人間と同じ哺乳類なので、人間がかかる病気はたいてい犬や猫もかかります。陰陽学説・五行学説・気血津液・五臓六腑経絡など、からだのシステムのとらえ方も、基本的には人間と同じで、犬や猫の経絡(けいらく・気血の通り道)図もそれぞれあります。

中医学に初めて触れた大学一年生の夏に、長春中医薬大学のそばにある本屋さんで、犬や猫の経絡図を目にしたときは本当に驚きました。

そして、四診を用いた診断方法、六淫七情といった病因・臓腑弁証などの弁証法を用いて弁証論治する点も基本的には人間と同じです。

動物は自分の言葉で訴えることができないので、小さい子どもの状態を親が代弁するように、飼い主は普段からペットの身体や性格を理解しておく必要があります。高齢や急変でどうにもならないこともありますが、ペットの“異常”に気づくためには、健康な“普段”の状態をよく観察し、信頼関係をしっかり築いておくことが大切です。

先述したように、犬や猫は人間と同じような病気や症状に悩みます。例えば、結膜炎やドライアイ、口臭や歯肉炎、胃腸トラブル、ストレスによる下痢、糖尿病、腎機能低下、肝機能低下、足腰痛、皮膚病、デキモノ……などさまざまです。

生薬を用いた動物用サプリメントなども作られていますが、人間用に製剤された漢方薬は安全性が高いため犬や猫にも使われます。

3.犬や猫は漢方薬を飲んでくれる?

野生動物はケガや病気をすると自分で薬草を噛んで口にふくみ治すといいます。犬や猫も、自分に必要だと本能で分かれば(野性的な本能を失わずにいれば)、自分からすすんで漢方薬を飲んでくれます

もちろん、動物に薬やサプリメントを選ぶときは人間に対してよりも、味や剤型など飲みやすさを意識して選ぶ必要があります。

一般的に犬は猫よりも漢方薬を受け入れてくれやすく、好きな食べ物で漢方をくるむとうっかり食べてくれます。猫はなかなか難しい子もいて、色々な方法を試して、その子に合った方法を探します。

ただし、本当に嫌がって漢方薬などの治療自体がストレスになっているときや高齢による大往生を迎えるであろうときは、ただただ、そばで見守ってあげることも大切かなと思います。言葉を話せない動物は「治療がつらいよ」とも言えないからです。

4.漢方薬は鳥の専門医も使う

実は漢方薬は鳥類にも使えます。鳥類と哺乳類は身体の構造が違いますが、状態によっては、鳥の専門医も治療に漢方薬を用います。実際私が飼っているセキセイインコを鳥の専門医に診てもらい、漢方薬が処方されたことが何度かありますし、私自身が漢方薬を用いたこともあります。私の実体験で、ペットのインコが漢方薬で改善した3つのエピソードを紹介します。

エピソード1 セキセイインコのAGY治療

生後7カ月の頃、AGY(マクロラブダス・メガバクテリア症:真菌による感染症で日本国内のセキセイインコ・オカメインコの多くが感染している)を発症しました。

発症後かなり初期に鳥専門医に診てもらい、ごく一般的なファーストチョイスの治療をしましたが回復しませんでした。3軒目の専門病院に連れて行く頃には、先生もひと目見るなり顔色が曇るほど状態は悪く、重篤な胃炎、胃拡張症(腺胃/筋胃)と診断されました。胃が約4~5倍に拡張し、おそらく胃癌になっているだろうと言われました。AGY治療のため数種類の新薬を処方され、少しずつ回復しました。このとき私は、後で後悔するよりいいと思い、ダメもとで、こっそり漢方薬なども飲ませました。

AGYが落ち着いた後も、病院からもらう新薬のほかに、胃拡張と胃癌と虚弱体質のための漢方薬と免疫賦活作用のある健康食品を飲ませ続けました。初診から約5カ月後、久しぶりにレントゲンを撮ったところ、胃が元のサイズに戻っていました。一度拡張した胃は元に戻らないという話だったので、「奇跡的です、(胃拡張の症例の中で)僕も初めてです」と鳥専門医も驚いていました。

このとき、中心的に使った漢方薬のひとつは、漢方の本場・中国の病院では起死回生のための点滴注射剤として用いられています。もうひとつは、日本では健康食品に分類されますが、中国の病院では抗腫瘍作用、免疫賦活作用があるとされるものです。

エピソード2 換羽期の弱り

エピソード1後の換羽期に、体力が弱り吐き気があるため再度病院へ連れて行くと、処方されたのは新薬数種と漢方薬でした。漢方薬は人間にはよく用いるもので、状態に対してずばり的確な処方がされていたので、正直驚いたのを覚えています。

しかし、構成生薬のうち一種に軽い毒性がありました。私の感覚では小さなトリに出すにはためらってしまい、はじめから選択肢から除いていたので「小さなトリでも使って大丈夫なのか……!」と目からウロコで、そして、すっかり良くなりました。

このとき、以前も私が漢方薬を自己判断で飲ませていたことを家族が告白したら、鳥専門医の先生は「やっぱりそうだったのね……」という反応をしていたそうです。

エピソード3 インコの精巣腫瘍と肝臓の腫れ

こちらは現在進行形のエピソードです。セキセイインコは3歳になりました。1年に1回の健康診断に連れて行ったところ、精巣腫瘍と肝臓が腫れていることが判明。先生が免疫力を上げるために漢方薬を処方しようとされましたが、それはこちらにまかせていただくことになりました。

集中的に気功治療(外気功)をしながら、抗腫瘍作用・免疫賦活作用・肝細胞保護作用などのある中薬と健康食品を飲ませたところ、数カ月後の検査では肝臓の腫れがひいて、精巣腫瘍もすこし改善しているとのことでした。今も引き続き継続中です。

上記したエピソードは私の飼っているペットのインコの話でしたが、犬・猫・鳥のカゼの初期対策などに漢方薬が使われることもあります。また紹介したエピソードはあくまで体験談のひとつであり、漢方薬・薬膳・推拿・鍼灸・気功など中医学による治療が、どんな病気・状態にも著効するわけではありませんが、今の治療でどうにも改善しないときは中医学による治療を活用する手もあります。

ペットは大切な家族、宝物のような存在です。彼らが元気に楽しく、いのちいっぱいに生きて、幸せな時間をたくさん共有できますように、私も祈りながら過ごしています。

参考文献:
・シェリル・シュワルツ(著)、根本幸夫(監修)、山本美那子、園部智子(翻訳)『犬・猫に効く指圧と漢方薬』世界文化社 1999年
・Cheryl Schwartz (著), Mark Ed. Schwartz (著) 『Four Paws, Five Directions: A Guide to Chinese Medicine for Cats and Dogs』 Celestial Arts 1996年

 
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中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、国際中医薬膳師、医学気功整体師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。

薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。 東京薬科大学薬学部卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学、国立北京中医薬大学日本校にて中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS 猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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