薬にまつわるエトセトラ 公開日:2021.01.07 薬にまつわるエトセトラ

学べば学ぶほど、奥が深い薬の世界。もと製薬企業研究員のサイエンスライター・佐藤健太郎氏が、そんな「薬」についてのあらゆる雑学を綴るコラムです。

第75回

新型コロナをめぐるトンデモ言説はなぜなくならないのか

COVID-19の流行開始から1年が経ちました。この感染症については、相変わらず様々な意見が飛び交っています。同じものを見ても、人によって見解が異なることは自然なことであり、健全なことともいえます。GoToキャンペーンの正否や、再度緊急事態宣言をすべきかについて議論が巻き起こるのは、当然のことといえるでしょう。

「陰謀論」を鵜呑みにする人々

ですが最近は、あまりに突飛な主張を信じる人が増えてきたように感じます。「新型コロナウイルスは存在しない」「コロナは5G通信の電波が原因」「コロナは政府とメディアによる洗脳」、果ては「コロナワクチンは、マイクロチップを人々に埋め込むためのビル・ゲイツの陰謀」といった話まで出てきており、さすがに唖然とさせられます。

こうした話は今になって出てきたものではなく、流行当初から指摘され、その心理について分析もなされています(東洋経済オンライン「『コロナは陰謀』と信じる人々を生む深刻な病巣」)。しかし最近では、この傾向がさらに強まっているように感じられます。

第一波のころには、感染者がその症状の辛さを訴えたツイートに対しては、「お大事に」といったリプライがほとんどでした。しかし最近は、「本当に辛いならこんなツイートができるはずはない」「いくらもらって書いているんだ」といった罵声ばかりがずらりと並んでいたりします。おそらく「コロナはでっち上げ」と信じる人たちなのでしょう。

ここまで極端でなくとも、首をひねりたくなるような妙な考えを信じ、周囲に吹聴する人はみなさんの周囲にもいるのではないかと思います。判断力や学識が全くない人かというとそうでもなく、高学歴で高い社会的地位に就いている人にも、こうした人がいます。うがい薬がコロナに効くと信じて記者会見を行なってしまった某知事なども、残念ながらその一人に入れるべきでしょう。

「自分の頭で考えること」の恐ろしさ

彼らの発言を見てみると、「自分の頭で考えろ」ということが強調されていたりします。政府やマスコミの情報を鵜呑みにせず、自分で集めた情報をもとに、自分自身の頭で考えることで、真実に近づくことができる――と。

確かに、偉い人がそう言ったから、新聞にそう書いてあったから、みながそうしているからと、ただ流されているばかりでいいはずはありません。自分の頭で考えることは、とても重要です。

ですが今や、質の高いものから全くのフェイクまで、あらゆる情報が流れています。その中から信頼度の高いものを見抜くのは、容易なことではありません。それを可能にするのは、確かな経験と豊かな学識でしょう。

その分野について何も知らないままで「自分の頭で考える」と、拾ってきた都合の良い情報を不確かな推測でつなぎ合わせ、とんでもないゴールに到達してしまいかねません。特に現在のような、十分にわかっていないことが多い状況では、こうしたことが起こりがちです。

前述のような陰謀論は、その典型といえるでしょう。目の前に見えている、なぜ起きているかわからない不愉快な事象は、それによって利益を得る巨大な悪を想定すれば、一気に説明がついてしまいます。不安を解消した上に、自分だけがこの事態を理解しているのだ――という快楽までも、陰謀論は与えてくれるのです。

これらと同列に扱っては申し訳ないかもしれませんが、感染症分野の専門家ではない研究者から、いくつか独自のCOVID-19の流行予測モデルが発表されています。その楽観的な予測は、一部の媒体などで歓迎されて、大きく扱われています。が、残念ながら第3波の拡大を正しく言い当てているものはなく、気の緩みを引き起こす害悪の方が大きいように見えます。

これなども広い意味で、過去の研究成果を学ばずに「自分の頭で考えた」弊害ではないでしょうか。きちんとした現状認識や、それまでの確かな学問的成果に立脚するのでなければ、どんな考えも砂上の楼閣です。

勉強が不可欠

要は、自分の頭で考えるのは重要だが、それと同時にきちんと勉強をすることが不可欠ということでしょう。確かな立脚点、その分野における推論の進め方などを知るには、面倒でもやはり勉強をするしかありません。

もっともこれは、筆者がいま考え出したことでも何でもありません。すでに2500年も前に孔子は「学びて思わざれば則ち罔(くら)し、思いて学ばざれば則ち殆(あやう)し」という言葉を残しています。ただ勉強するだけでなく、自分の頭で考えねば本当の理解はできない。逆に、勉強をせずに自分で考えるだけでは、独断に陥る危険がある、という意味です。

薬剤師のみなさんが持っている確かな知識は、この時代の中で信頼できる基礎になりうるものと思います。現場での活躍、情報発信を期待する次第です。

<この記事を読んだ方におすすめ>
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佐藤 健太郎(さとう けんたろう)

1970年生まれ。1995年に東京工業大学大学院(修士)を卒業後、国内製薬企業にて創薬研究に従事。2008年よりサイエンスライターに転身。2009年より12年まで、東京大学理学系研究科化学専攻にて、広報担当特任助教を務める。『世界史を変えた薬』『医薬品クライシス』『炭素文明論』など著書多数。2010年科学ジャーナリスト賞、2011年化学コミュニケーション賞(個人)。ブログ:有機化学美術館・分館

 

ベストセラー『炭素文明論』に続く、文明に革命を起こした新素材の物語。新刊『世界史を変えた新素材』(新潮社)が発売中。

佐藤 健太郎
(さとう けんたろう)

1970年生まれ。1995年に東京工業大学大学院(修士)を卒業後、国内製薬企業にて創薬研究に従事。2008年よりサイエンスライターに転身。2009年より12年まで、東京大学理学系研究科化学専攻にて、広報担当特任助教を務める。『世界史を変えた薬』『医薬品クライシス』『炭素文明論』など著書多数。2010年科学ジャーナリスト賞、2011年化学コミュニケーション賞(個人)。ブログ:有機化学美術館・分館

 

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