映画・ドラマ

公開日:2017.09.26 映画・ドラマ

「たまには仕事に関連する映画を見てみようかな」と感じたことはありませんか? 医療や病気に関する映画・ドラマ作品は数多くありますが、いざとなるとどんな作品を見ればいいのか、迷ってしまう人もいるのでは。このコラムでは北品川藤クリニック院長・石原藤樹先生と看護師ライターの坂口千絵さんが、「医療者」としての目線で映画・ドラマをご紹介します。

vol.19「スーパーサイズ・ミー」(2004年・アメリカ)

2002年、感謝祭の休暇を実家で過ごしていたモーガン・スパーロック監督は、あるTVニュースに釘付けとなる。肥満症に悩む少女2人が「太ったのはハンバーガーのせい!」とファストフード企業を訴えたというのだ。そして思いついてしまった”最高で最悪のアイデア”。それはまさしく”僕を特大にしよう!(スーパーサイズ・ミー)”
ファストフードを食べ続けたら本当に太るのか?人体への影響は?監督自らが実験台となり、30日間の身体の変化を記録。多くの専門家のインタビューも交え、現代食生活に潜む根深い問題に独自のアプローチで疑問を投げかけたドキュメンタリー。

―ファストフードの害を実験した破壊力抜群のドキュメンタリー―

 

今回ご紹介するのは2004年に公開された、ファストフードの健康影響についてのドキュメンタリー映画『スーパーサイズ・ミー』です。製作と監督を務めたモーガン・スパーロックは、自分自身を実験台として、30日間マクドナルドのファストフードだけを食べるという極端な食生活に挑戦。その経緯を詳細に記録するとともに、アメリカの肥満の現状と青少年へのファストフードの影響についての取材映像も交えて、マイケル・ムーアを思わせる、ポップでラディカルなドキュメンタリー映画に仕立てています。

 

アメリカでの肥満は大きな健康問題で、その原因のひとつとして考えられているのが、マクドナルドに代表されるファストフードです。脂質と糖質を多く含み、ある種の中毒性のあるファストフードは、特にそのサイズの大型化によって、過剰なカロリーの習慣的な摂取を促進します。題名にある「スーパーサイズ」というのは、マクドナルドなどが次々と導入した、特大サイズの飲み物やポテトなどのことを指していて、ファストフード企業の健康軽視の姿勢を象徴するもののひとつとして描かれています。

 

スパーロックはファストフード企業の代表として、大企業のマクドナルドを追求の対象として選びます。少女2人が自分の肥満をマクドナルドのせいだとして起こした裁判の判決文にヒントを得て、30日のマックのみの生活が、自分の健康にどのような影響を及ぼすのかを詳細にレポートし、マクドナルド商品の健康への悪影響を指摘しようとするのです。循環器内科と消化器内科、そして一般内科の3人の医師と栄養士という専門家の診察を定期的に受けながら、科学的にもその問題点を掘り下げてゆきます。

 

30日間マックのみの生活の後で、スパーロックの体重は11キロ増加し、血圧や尿酸値、総コレステロール値は上昇。特に肝機能の指標であるトランスアミナーゼは、GPT(ALT)が実験前に21IU/Lと正常であったものが、290IU/Lという著明な増加を示します。正常値の上限が30~40くらいですから、健康診断では精密検査か即時治療のレベルです。1日5000キロカロリーという高カロリーで脂肪過多の食事により、脂肪肝炎の状態が急激に進行したものだと思います。

 

正直なところ科学的な臨床試験としてみると、症例報告としても穴だらけのものです。毎日マックだけを食べるというルールしかないので、比較になるものが何もありませんし、メニューの中では何を選んでも良いので、カロリーや脂質の量も一定ではありません。しかし、ドキュメントのレポートとしてはなかなかの凄みがあり、スーパーサイズを無理に胃に押し込んで、こらえきれずに嘔吐するところなどはショッキングですし、精力減退や精神的な落ち込みが生じるあたりも、リアルな恐怖感があります。

 

2004年当時という前提に立てば、医学的にも栄養学的にもほぼ正確な情報が発信されています。特に3人の医師と栄養士の発言は、今から見ても妥当なものですし、当時のアメリカの医療の状況などもわかって興味深く鑑賞しました。サーティワン・アイスクリームの創業者の一族なども登場して、アイスクリームがいかに健康に悪いかを、懺悔のように述べる場面なども登場してビックリします。ただ、インタビューには、マックのハンバーガーのチーズに麻薬の成分が含まれているなど、怪しげな情報も混ざっているので、すべてを鵜呑みにはしないほうがよいと思います。

 

マイケル・ムーア作品もそうですが、主張は一方的で強引な部分もあり、わざわざ嘔吐する場面を撮影するなど、悪趣味な部分もあります。それでもこの作品の公開後、マクドナルドはスーパーサイズの販売を取りやめ、健康への取り組みを始めているように、実際に社会に影響を与えているという点は、高い評価に値すると思います。

 

日本でも肥満の問題はアメリカに近づきつつあると思いますし、ファストフードの中毒者が増加している点も同じだと思います。薬剤師の皆さんも、肥満に伴う病気で治療を受けている患者さんに対応して、どのように生活改善のアドバイスをするかに、悩まれることも多いかと思います。食の欲求はなかなかコントロールの難しいものです。それでもこの映画を観ると、しばらくはファストフードを食べたくはなくなりますから、「一度観ておくといいですよ」とアドバイスするのもよいかもしれません。ただし、特効薬であると同時に劇薬でもあるので、その点は注意が必要です。

 

石原 藤樹(いしはら ふじき)

1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科大学院卒業。医学博士。信州大学医学部老年内科助手を経て、心療内科、小児科を研修後、1998年より六号通り診療所所長。2015年より北品川藤クリニック院長。診療の傍ら、医療系ブログ「石原藤樹のブログ」をほぼ毎日更新。医療相談にも幅広く対応している。大学時代は映画と演劇漬け。

北品川藤クリニック:http://www.fuji-cl.jp/

ブログ:http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/

石原 藤樹(いしはら ふじき)

1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科大学院卒業。医学博士。信州大学医学部老年内科助手を経て、心療内科、小児科を研修後、1998年より六号通り診療所所長。2015年より北品川藤クリニック院長。診療の傍ら、医療系ブログ「石原藤樹のブログ」をほぼ毎日更新。医療相談にも幅広く対応している。大学時代は映画と演劇漬け。

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