薬剤師のためのお役立ちコラム 更新日:2023.12.25公開日:2023.02.14 薬剤師のためのお役立ちコラム

薬剤師に将来性がないって本当?現状と今後求められるスキルを解説

文:テラヨウコ(薬剤師ライター)

昨今、薬剤師の間で「薬剤師には未来がない」とうわさされています。せっかく長年勉強し、苦労して薬剤師免許を取得したのに、残念な未来しかないようでは困りますよね。薬剤師の仕事がなくなることはない、と私は思います。しかし、これからも薬剤師として働き続けようと考えるのであれば、さらなるステップアップは必要でしょう。
 
本記事では、薬学生や現役薬剤師に向けて、薬剤師求人の現状に加え、機械化・AI導入で働き方がどのように変わるのかを解説します。また、病院・調剤薬局・ドラッグストアにおける職場別の将来性や、薬剤師として生き残るために必要なスキルについてお伝えします。

1.薬剤師は「将来性がないのでは」といわれる2つの大きな理由

薬剤師は安定した職業として、医療に関わる国家資格の中でも人気です。定年退職後も働き続ける人は多く、薬局や病院以外にも活躍の場が広がっています。そんな薬剤師の将来性が懸念される理由として挙げられるのが、求人の需要と供給のバランスの変化と、薬局の機械化・AI技術の導入です。それぞれの問題について、現状とこれからの予測を見ていきましょう。

 

1-1.薬剤師が飽和する時代が来ると予想されるため

厚生労働省によると、2020年時点での薬剤師数は321,982人。人口10万人当たりの平均薬剤師数は269.2人となっており、WHOの統計と比べても世界的に高い水準といえます。医師・薬剤師の求人倍率は、一般的な有効求人倍率1.15倍に比べるとまだまだ高く、職業全体から見ると安定しているでしょう。

しかし、2020年3月には4.40倍であった有効求人倍率は、2021年2月には2.90倍と、1年弱で1.5ポイント低下しました。コロナ禍で処方箋枚数が減少し、薬剤師需要が減ったことも一因と考えられます。薬剤師の飽和をさらに押し上げるのが、全国たな薬科大学の設立です。これらの流れから、今までの「薬剤師であればラクに就職できる」状況は変わりつつあります

 

1-2.薬剤師の仕事をAIが担うようになるため

さまざまな分野でAI導入が進んでいるように、いずれ薬局にもAI化の波が訪れると考えられています。ある大手ドラッグストアでは、AI技術を導入し、お客さまの購買パターンを基に最適な品ぞろえを割り出し、売り上げアップにつなげる動きが見られます。同様に、調剤薬局においても日々の業務をAIが担えば、薬剤師に求められる仕事内容も変化するかもしれません。
 
薬局全体へのAI導入はまだ少し先のようですが、すでにICT(情報通信技術)を利用した調剤機器や調剤システムを導入している現場は少なくありません。例えば、全自動分包機や、PTPシート払い出し、水剤・散剤の自動調製機器などの導入は、本来薬剤師が行ってきた調剤をサポートしてくれます。

 

自動化による時間短縮は、人員削減につながります。PTPシートのバーコード読み取りや、一包化薬の監査システムは人間の目では見逃されていたミスも防げるようになりました。また、病院における抗がん剤の混注は、正確さが求められるだけでなく調製する薬剤師本人にも薬剤ばく露のリスクがあります。抗がん剤調製ロボットの導入は患者さんだけでなく、薬剤師にとってもメリットが大きいでしょう。
 
加えて、これまで薬剤師の専門知識に委ねられていた、飲み合わせや禁忌薬のチェックは豊富なデータベースを基に判断され、重大な調剤過誤を予防した上で、より安心な投薬が可能になっています。
 
さらに、処方数を基に自動計算された薬の在庫管理により、卸業者への発注もスムーズになりました。これらの調剤機器や調剤システムは高価ですが、調剤過誤は社会的・金銭的に大きな損失となるため、今後も導入を進める企業が増えると予測されます。

2.職場別に見る薬剤師の将来性

薬剤師全体で見ると、今後は求人数が減少していく可能性があります。では、職場によって需要と供給のバランスに違いはあるのでしょうか。病院・調剤薬局・ドラッグストア薬剤師の将来性の他、それぞれの職場でこれから求められる薬剤師像について解説します。

 

2-1.病院薬剤師の求人はこれからも比較的安定すると考えられる

厚生労働省は、2021年の「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」報告書において、今後は薬剤師の供給が需要を上回っていく可能性を示しました。しかし、同時に病院を中心に薬剤師が不足しているとも指摘しています。
 
これらの理由から、薬剤師全体の求人倍率が下がっても、病院薬剤師の需要は今後もしばらく続くと考えられるでしょう。また、2016年の診療報酬改定では在宅患者訪問薬剤管理指導料の点数が引き上げられました。これを受けて、今後は在宅医療分野に参入する病院も増え、在宅医療の経験や知識がある薬剤師が求められると予想されます。

 
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2-2.薬局数の減少で薬局薬剤師の働き方に影響があるかも

2020年時点で、全国の調剤薬局の店舗数は約6万軒。これはコンビニエンスストアよりも多く、今後の医療体制の整備に伴い、薬局が減っていくことが予測されます。また、コロナ禍での処方箋枚数の減少により、勤務する薬剤師の数を絞った薬局も見られます。
 
需要と供給のバランスが逆転すれば、調剤薬局への就職は現在よりも厳しくなると考えられるでしょう。調剤薬局へ就職、または働き続けるならば専門性の高いスキルを身に付けて、より会社に貢献できる人材となる必要があります。

 
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2-3.ドラッグストア薬剤師の需要は高まる傾向

近年、ドラッグストア業界は出店数も増え、成長傾向にあります(経済産業省 2020年商業動態統計年報より)。これに伴って、ドラッグストア薬剤師の需要も高まると考えられます。スイッチOTC薬の種類が増え、セルフメディケーションの認識も広まってきました。

2014年以降のドラッグストアの売り上げ動向を見ると2020年までにOTC薬の売り上げは伸び、調剤部門も右肩上がりです。これからのドラッグストア薬剤師には、広く深い知識を身に付け気軽に相談できる「町の頼れる健康エキスパート」になることが求められます。

 
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3.薬剤師として生き残るためのスキルとは?

薬剤師として働き続けるためには、さらなるステップアップが必要です。ここでは、これからの薬剤師として身に付けておきたい4つのスキルを紹介します。スキルという強みを持ち、今よりも一歩進んだ薬剤師を目指しましょう。

 

3-1.専門性を高める

これからは高度な薬学的貢献のため専門性の高い薬剤師が必要とされる時代です。認定薬剤師や専門薬剤師などの資格の有無が、薬剤師の評価に大きく関わってくるでしょう。特に、日本薬剤師研修センターの認定を受けた研修認定薬剤師は、かかりつけ薬剤師の必須条件となっているため、取得しておきたい資格です。

 
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その他の認定薬剤師や専門薬剤師の多くは、専門医療機関での実務経験などが必要とされます。いつか専門資格を取得したいと考えているならば、専門医療機関への就職・転職を視野に入れた活動を始めましょう。

 

3-2.在宅医療・緩和ケアの知識や経験を積む

これからの超高齢化社会を迎えるにあたり、在宅医療や緩和ケアの需要がさらに高まっています。また、在宅医療の算定点数が上がっていることも、薬局や病院が在宅医療へ参入する後押しとなっている理由の一つです。在宅医療や緩和ケアのスキルは、薬剤師として働く上で大きなメリットとなるため、積極的に経験を積み知識を増やしましょう。

 

3-3.コミュニケーション能力を高める

AIが調剤業務を行うようになった場合、薬剤師は今まで以上に対人業務が重要になると考えられます。患者さんの不安や悩みに寄り添った服薬指導や健康相談、在宅医療における業務は、現在のAIでは対応できません。そのため、コミュニケーションを主とした薬剤師の働きは今後も期待されるでしょう。
 
むしろ、調剤などの業務を機械が一手に引き受けてくれるおかげで、薬剤師本来の職能が生かせるチャンスが到来しつつあるといえます。また、患者さんだけでなく、在宅医療や介護の現場では他の医療従事者や介護スタッフとの連携も大切です。相手の立場を尊重したコミュニケーションで、信頼される薬剤師になれれば、スムーズなチーム医療が可能になります。

 

3-4.マネジメント力を身に付ける

以前、チェーン薬局の本部スタッフから聞いた話です。「今の現場は若い子が多く、転職を繰り返してなかなか会社にとどまってくれない場合も多い。管理薬剤師やエリアマネジャーなどを安心して任せられる人がいれば助かる」と話していました。チームの仕事を滞りなく遂行し、現場スタッフをまとめる力がある人は組織の中で重宝されるでしょう。
 
最近はマネジメントに関する書籍も多く出版されている他、会社によってはマネジャー養成のための研修を行っているところもあります。将来的に薬局や組織の管理者を目指す人は、マネジメントを学ぶのもおすすめです。しかし、マネジャーとなるには薬剤師として一定以上のスキルを求められることが多いため、まずは経験と知識の積み重ねが不可欠です。

4.今こそ薬剤師としてステップアップするチャンス

これまで「薬剤師は資格職だから安泰」といわれてきました。しかし、薬局業務の機械化・AI導入や薬剤師数の需要と供給のバランスを考えると、今後はやや厳しい時代が到来する可能性は否めません。これからは、薬剤師としての専門性を高める他、対物(薬)から対人(患者さん)へ業務内容の切り替えが必要です。
 
また、スキルを磨くことで自身の市場価値が上がり、企業にとって手元に置いておきたい人材になれます。「薬剤師には将来性がないのでは」といわれる今こそが、薬剤師の職能を生かせる大きなチャンスと捉えてステップアップしていきましょう。


執筆/テラヨウコ

薬剤師。3人兄弟のママ。大学院卒業後、地域密着型の調剤薬局に勤務。大学病院門前をはじめ、内科・婦人科・皮膚科・心療内科・皮膚科門前などで多くの経験を積む。15年の薬剤師歴ののち独立して薬剤師ライターへ。健康や医療、美容に関する記事を執筆。休日は温泉ドライブや着物でのおでかけが楽しみ。

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