薬剤師の働き方 更新日:2023.05.30公開日:2021.10.19 薬剤師の働き方

在宅薬剤師の役割とは?業務内容と求められるスキル

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

高齢化が進む昨今、在宅医療を受ける患者さんが年々増加しています。経済産業省のホームページに公表されている資料によると、2018年6月の年齢階級別の在宅医療点数は、75歳以上が50%、60~74歳が22%と、60代以上が72%を占めており、とくに高齢層に在宅医療のニーズが高いことがわかります。今回は、在宅医療における薬剤師の業務内容と役割を紹介するとともに、在宅薬剤師に求められるスキルについてお伝えします。

1. 在宅医療における薬剤師の役割

高齢化社会で在宅医療の必要性が高まるにつれて、薬剤師の活躍の場も広がっています。ここでは、在宅薬剤師の役割について見ていきましょう。

1-1.「なんでも話せる医療従事者」の役割

在宅薬剤師は患者さんの自宅に訪問するだけでなく、服薬状況や生活環境を把握するなど、より深くプライベートに踏み込みます。そのため、日頃から患者さんとコミュニケーションを深め、信頼関係を築くことが必要でしょう。
 
かかりつけ薬剤師以上にプライベート空間に踏み込む在宅薬剤師は、患者さんにとって「なんでも話せる医療従事者」という重要な役割を担います。医師や看護師には言いにくいことでも、薬剤師には話してもらえることもあります。気軽に相談してもらえるような信頼関係の構築を目指しましょう。

患者さんとの信頼関係の構築はかかりつけ薬剤師にとっても重要なテーマです。在宅薬剤師として力を発揮することは、かかりつけ薬剤師としての基本的な役割を果たすことから始まるともいえます。

 


 

 

1-2. 医薬品の供給と薬歴管理、服薬支援

在宅薬剤師は、医薬品や衛生材料の供給、薬歴管理、服薬支援、副作用等のモニタリング等を行います。業務内容自体は薬局薬剤師と通じるところがありますが、在宅患者さんにとって最適かつ安全・安心な薬物療法を提供する役割を担っています。
 
在宅薬剤師が業務をスムーズに進めるために、薬局は薬剤師の業務をサポートし、知識や経験を積めるような環境を整える必要があります。患者さんの服用歴や服用中の薬に関する情報を一元的に管理できるシステムを備えるなど、機能を充実させることで、在宅薬剤師は業務に注力できます。

 

1-3. 医療費の削減

在宅薬剤師は患者さんの残薬を細かくチェックし、残薬調整を行うことで医療費の削減にも貢献しています。余剰薬剤が生まれる例として、薬の紛失や災害時の予備などを多めに処方されているケース、症状が改善されているにもかかわらず軟膏や貼付剤などの外用薬が毎回処方されているケースがあります。定期処方されるような下剤や眠剤や外用薬は、余剰薬剤となりやすいので、残薬調整時に注意しましょう。

 

1-4. 地域包括ケアへの参画

病院や介護施設が利用できない患者さんにとって、在宅医療はQOL向上の大事な要素です。在宅医療を充実させることは、地域包括ケアへの貢献にもつながります。
 
現在、在宅医療において薬剤師の職能が十分に生かされておらず、看護師などが薬剤管理を担っているケースも少なくないと指摘されています(東京都薬剤師会サイトより)。それぞれの職種が充分に職能を発揮するためにも、他職種と連携してチーム医療を実施していきましょう。毎食の服薬管理を他職種と連携することで、患者さんのコンプライアンスを向上させることもできます。

 

2. 在宅薬剤師の業務内容の流れ

在宅医療において薬剤師はどのような業務を行っているのでしょうか? 業務内容を見ていきましょう。

 

2-1. 患者さんの自宅まで薬を届ける

処方せんを受け取ったら、患者さんの自宅まで薬を届けることが大切な業務のひとつです。認知機能が低下している患者さんや体が不自由な患者さんは、薬を薬局まで受け取りに行くことが難しい状況にあります。家族が受け取る場合でも、経腸栄養剤や水剤など重い薬剤は持ち運びも大変で、老々介護では特に身体的な負担となるでしょう。また、冷所保管が必要な薬剤など、移動時間にも気を遣うものもあります。薬剤師が薬を自宅まで運ぶことで、患者さんや家族の負担を軽減することができます。



 

2-2. 服薬状況・生活状況・体調の変化をチェック

服薬状況や生活状況、体調チェックは、薬剤師の職能を発揮する大切な業務です。
 
複数の薬を服用している患者さんのなかには、薬の効能・効果を理解せずに服用している方もいます。例えば、「便が緩いためトイレの場所を意識しながら外出しなければならない」と相談を受けた場合を考えてみましょう。患者さんが、必要な時に服用していなかったり、複数の病院から処方された下剤を全て服用してしまっていたりするかもしれません。
 
医師から特別な指示がない限り下剤は調節可能ですが、患者さんに効能・効果を理解してもらうことでより適切に服用してもらえます。こうしたデリケートな内容も、自宅であれば時間に余裕をもって服薬指導ができるうえに、他の患者さんの目を気にせずリラックスして聞いてもらえるため、細やかな対応が可能です。

 

また、普段は聞けないプライベートな話が聞けたり、お薬手帳に記載されていない薬に気がついたりするなど新しい情報を得られることもあるでしょう。在宅医療では、コンプライアンスや副作用の確認だけではなく、薬剤管理に関する多くの情報を得ることも業務の一環といえます。

 

2-3. 医師やケアマネージャーに報告

在宅訪問で得た情報を、医師やケアマネージャーなどの他職種と共有することも、欠かせない業務です。先に挙げた下剤を例にすると、便通の状況や他の病院からの処方情報を医師やケアマネージャーに報告し、医師に残薬調整や処方削除を依頼したり、ケアマネージャーからヘルパーや訪問看護師に服薬状況や体調に関する情報を伝えてもらったりすることで、患者さんへ適切な医療を提供できます。

 
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3. 薬剤師による在宅医療ケアが必要と考えられる事例

現在は在宅医療ケアを利用していない患者さんでも、在宅医療の介入が必要なケースも考えられます。ここでは、薬剤師による在宅医療が必要になる事例を見てみましょう。

 

事例1. 薬を取りに行けない

訪問診療や訪問看護、介護サービスを利用していても、薬剤師が薬を届けてくれる仕組みを知らない患者さんも中にはいます。薬の受け取りをサポートしてくれる人が身近にいたとしても、輸液や経腸栄養剤など重量のある薬の受け取りは負担がかかります。薬の持ち運びに関して悩みが見られる患者さんであれば、薬剤師による在宅医療支援について説明し、サポートの提案をする必要があります。

事例2. 薬の管理が難しい

薬を服用するタイミングは朝・昼・夜・寝る前だけでなく、食前・食後・食間とさまざまです。服用タイミングが複数回ある患者さんは、薬の用法を記憶することも大切ですが、副作用を回避するためにも、服用したかどうかを覚えていることが重要といえます。さらに、複数の医療機関を受診しているケースでは、受診日や処方日数がバラバラになるため、服薬管理がより複雑になりやすいものです。在宅薬剤師が介入することで、自宅での服用状況を確認し、患者さんに合わせた服薬管理を提案できます。

 

事例3. 誤服用が多い

お薬ケースや一包化などを利用しても、飲み忘れや重複服用などの誤服用が改善されないこともあるでしょう。在宅薬剤師が介入すれば、生活習慣に合わせた管理方法を提案できます。カレンダーに薬を張り付けることを提案したり、手の届きやすい場所にお薬ケースを配置したりするなど、個々に合わせた提案ができるのが利点です。

 
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4. 在宅薬剤師に求められるスキル

在宅薬剤師がより良い医療を提供するために、どのようなスキルが求められるのでしょうか。ここでは、在宅薬剤師に求められるスキルについて見ていきましょう。

 

4-1. 薬剤師としての経験と知識

調剤薬局では、業務スピードが評価の対象になりやすいものですが、在宅薬剤師には、患者さんの状況に合わせた服薬管理や服薬指導を行うことがより重視されます。患者さんの生活習慣や生活環境、価値観などを考えたアドバイスを求められるでしょう。在宅薬剤師は知識に加え、患者さんに合わせて柔軟に提案するための経験も必要といえます。

4-2. コミュニケーションスキル

在宅薬剤師は、患者さんとのコミュニケ―ションだけでなく、患者さんに関わる他職種と連携をとる機会もあります。そのため、コミュニケーション能力も求められるスキルのひとつです。在宅医療はチーム医療でもあるため、チームで患者さんの情報を共有し意思疎通を取ることで、より良い医療の提供につながります。

 

5. 在宅療養支援認定薬剤師の資格取得はスキルアップに効果的

在宅医療に関する専門的な知識を有した「在宅療養支援認定薬剤師」は在宅医療の現場で重宝されます。在宅療養支援認定薬剤師とは、一般社団法人日本在宅薬学会が主催する認定資格で、筆記試験と面接試験があり、面接試験では抱負と事例報告書5症例を事前に提出します。在宅療養支援認定薬剤師を取得すると、在宅医療における知識や技能に加え、「態度」を備えていると認められるため、スキルアップにつながるでしょう。

 
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6. 在宅薬剤師としての役割を果たそう

在宅薬剤師は薬剤師としての知識や経験に加えて、患者さんの生活習慣や生活環境、考え方に合わせた服薬管理・服薬指導を行うスキルが求められます。また、他職種と連携をとることも多いため、コミュニケーションスキルも重要です。在宅医療に貢献できるよう、専門知識に加え、相手や状況に合わせた臨機応変な対応ができる薬剤師を目指しましょう。


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。

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