薬剤師のためのお役立ちコラム 更新日:2024.01.16公開日:2021.07.19 薬剤師のためのお役立ちコラム

チーム医療における薬剤師の役割と課題とは?職場ごとの違いも解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

チーム医療は、一人の患者さんに対してさまざまな職種の医療従事者が関わりながら、患者さんのQOL維持や向上を目指すものです。近年、チーム医療への薬剤師の参画が求められていますが、立ち位置によって状況が異なる点を理解しておく必要があります。例えば、薬局薬剤師と病院薬剤師では、チーム医療に参画できる環境が違うはずです。今回は、チーム医療における薬剤師の役割と、病院薬剤師と薬局薬剤師が置かれる状況の違いについてお伝えするとともに、薬剤師がチーム医療に参画している具体例と課題を紹介します。

1. チーム医療における薬剤師の役割

チーム医療における薬剤師は、薬剤の総合的な管理を担うことで他の医療従事者の負担を減らすといった役割があります。

 

薬剤を適正かつ安全に使用するためには、投与計画や副作用のモニタリングなどが不可欠です。特に抗がん剤やジギタリス製剤、ワーファリンなど、血中濃度の有効域が狭い薬剤はモニタリングを行うことで、十分な治療効果を得ながら同時に副作用の発現を防止、もしくは最小限に抑えられます。また、さまざまな疾患を合併している患者さんに向けて、医師が専門外の薬剤を扱うケースも少なくありません。医師が専門領域の治療に専念できるよう投与計画のサポートすることも、チーム医療において薬剤師の大切な役割といえるでしょう。

そのほか、薬の管理を薬剤師以外の医療従事者が行っているケースにおいても、薬剤師の参入が効果的です。例えば、病棟には患者さんごとに処方された薬剤や緊急時などに使用する薬剤が用意されています。在宅医療においても、訪問看護師やヘルパーが患者さんの内服管理を行っているケースがあります。各病棟にある薬剤や在宅医療における薬剤の管理をすべて薬剤師が行うことで、他の医療従事者の負担を軽減しそれぞれの職能を最大限発揮できるでしょう。

 
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2. チーム医療で薬剤師が求められるスキル

チーム医療において薬剤師が求められるスキルに、コミュニケーション能力と専門知識があげられます。それぞれ詳しく見てみましょう。

 

スキル① コミュニケーション能力

チーム医療ではさまざまな人と連携を取りながら治療のサポートを行います。そこで必要なのが、コミュニケーション能力です。

 

コミュニケーションというと相手が理解できるように相手の立場に立って伝えることを重視しがちです。しかし、実際は相手の話を聞く「傾聴力」も欠かせません。同業種であれば状況を想像しやすい分、ある程度言葉が足りなくても相手が伝えたいことを把握することも可能です。しかし、他職種に対しては、業務や立場、考え方が異なるため、相手の話を最初から最後まで聞き、「相手の言いたいことを正しく聞き取る」ことを意識する必要があるでしょう。

チーム医療では、コミュニケーション不足によるちょっとした勘違いが、重大なミスにつながる可能性があります。日頃からお互いの業務や立場、考え方などを理解し、伝える力・聞く力を養いながら、コミュニケーション能力の向上を目指すとよいでしょう。

 

 

スキル② 認定・専門薬剤師の資格

チーム医療に参画するためには、薬剤師としての専門性を高めることが大切です。その際、役立つのが専門薬剤師や認定薬剤師などの資格です。以前は、認定要件に症例数を条件とするものがほとんどであり、病院薬剤師に有利な状況でした。薬局薬剤師は、症例を集めるのが難しいため、なかには資格取得を諦めた人もいることでしょう。しかし、最近では、薬局薬剤師が取得しやすい資格も増えています。

 

2021年5月時点で、認定薬剤師資格は21種類、専門薬剤師資格は11種類あり、認定資格の中には、指導実績など自身が薬学的な介入をした症例数を条件に含めているものもあります。勤務先の環境によって集められる症例に差があるため、自身の職場で取り扱うことの多い疾患に関連する資格取得を目指すとよいでしょう。特に、専門薬剤師は最新の専門知識を備えたエキスパートとしての働きが求められます。そのため、チーム医療においても絶大な信頼を寄せられる存在となるでしょう。

また、2021年8月から専門医療機関連携薬局の認定制度がスタートする点も注目です。厚生労働省の条件を満たした団体から専門薬剤師と認められた人材が在籍し、設備や組織体制も含めた要件を満たしている薬局は、専門医療機関連携薬局と認定されます。専門薬剤師の取得によって、知識やスキルが患者さんや同僚からの信頼につながることに加え、自身の退職や異動によって専門薬剤師が不在になると専門医療機関連携薬局としての認定が取り消されるため調剤薬局でも貴重な存在になるでしょう。

 
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3. 薬剤師がチーム医療に参画するうえでの課題

薬剤師の年収は地域や職場によっても異なります。ここでは地域や職場別に薬剤師の平均年収を見ていきましょう。

 

課題① 病院薬剤師の課題

病院薬剤師は他職種と関わりながら業務をするため、チーム医療に参画しやすい環境です。また、認定薬剤師などの資格取得を目指してチーム医療に参画したり、資格取得者が他職種の業務をサポートしたりする機会が、薬局薬剤師と比べて多いのではないでしょうか。

ただし、病院薬剤師は、患者さんの退院後フォローが難しいという課題があります。入院中に関わった患者さんが退院後も問題なく薬物治療を続けられているのか、気になることもあるでしょう。退院後も継続して患者さんのサポートを行うためには、病院薬剤師は院内でのチーム医療に加え、院外薬剤師と連携をとる必要があります。

 

今後は院外でのチーム医療への参画を求められる可能性があるので、対応できる体制を院内においても構築しておくことが重要でしょう。

 

 

課題② 薬局薬剤師の課題

薬局薬剤師は、病院薬剤師よりも他業種と密にコミュニケーションがとりにくい環境といえます。そのため、自ら積極的にアピールしながら、チーム医療に参画できる機会を増やす必要があるでしょう。

 

例えば、服薬フォローが必要な患者さんの情報を医療従事者と共有し、必要があればより深く介入するために医師や患者さんへ在宅医療を提案するのもひとつの方法です。在宅医療に必要な資材や設備を整えていることなど、医療従事者や患者さんが把握できるように薬局の機能を公開する必要があるでしょう。

 

 

取得できる資格は病院薬剤師に比べると少ないものの、業務に関連する資格があれば他職種に対して専門性のアピールが可能です。薬局薬剤師は、薬局の情報を提供するとともに専門性を高め、これまで以上に、他業種と連携するためのアプローチを続けながらチーム医療への参画を進めましょう。

 

4. 薬剤師が参画するチーム医療の具体例

では、実際にチーム医療の具体例を見てみましょう。病院薬剤師と薬局薬剤師、それぞれの参画例を紹介します。

 

具体例① 病院薬剤師の場合

病院薬剤師がチーム医療に参画する具体例として、感染症対策チームや栄養サポートチーム、糖尿病チーム、緩和ケアチーム、褥瘡管理チームなどがあります。

 

■感染症対策チーム

医療機関内の感染症に関する予防や対策を考えるほか、医療従事者や入院患者さんへの感染症対策に関する情報提供や、治療方針の検討などの活動を行う。薬剤師は主に院内における抗菌薬や消毒薬の適正使用の推進に関わる。

 

■栄養サポートチーム

食欲が低下している患者さんや栄養状態の悪い患者さんの栄養管理を行い、全身状態を改善することで合併症の予防などを目指す。薬剤師は、静脈・経腸栄養療法に関する処方設計などを提案。

 

■糖尿病チーム

糖尿病患者さんの療養生活をサポートする。糖尿病性の神経障害や網膜症、腎症といった三大合併症によるしびれや神経痛、失明、腎不全などの重症化を予防することが主な目的。糖尿病は無症状期間が長いため治療継続のモチベーションを保つことが難しい疾患。薬剤師は、服薬状況や食生活、運動習慣などを確認・フォローしアドヒアランスの向上に努める。

 

■緩和ケアチーム

緩和ケア病棟や施設、自宅療養の患者さんのQOL改善を目的としたチーム。薬剤師は痛みのコントロールや吐き気・嘔吐など副作用症状の改善などの薬物治療に関する部分のほかに、病気による落ち込みや不安に対する相談役としても携わる。

 

■褥瘡管理チーム

褥瘡の予防や早期発見をし、褥瘡の悪化を防ぐことを目的としたチーム。活動量が低下したり安静状態が長く続いたりすると、お尻やかかとが圧迫され皮膚に褥瘡ができやすくなる。一度できると完治に時間がかかるため、予防や早期発見が大切。そのため、寝たきりの患者さんのみならず、常時車いすを使用しているなど活動量の少ない患者さんや栄養状態の悪い患者さんなども対象にしている。薬剤師は、褥瘡治療に使用する外用薬やドレッシング材(創傷被覆剤)を見極め、投薬管理や投与計画に携わる。

 

他にも呼吸ケアサポートチームや救急医療チーム、医療安全管理チームなど、病院によって立ち上げているチームは異なり、それぞれ薬剤師としての視点でチームに参画することが求められています。

 

具体例② 薬局薬剤師の例

健康サポート薬局や地域連携薬局(2021年8月から開始)といった調剤薬局の認定制度が広がり、薬局薬剤師は地域包括ケアシステムに参画するように求められています。超高齢化社会にむけて在宅医療を充実させることが今後の課題となっている今、薬局薬剤師がチーム医療に参画することへの期待は大きいものです。

薬局薬剤師がチーム医療に参画する例としてあげられるのが在宅医療です。在宅医療において求められる業務の1つに、患者さんに合わせた投与計画の提案があげられます。患者さんをケアする家族や医療従事者とコミュニケーションをとり、情報共有を密に行うことで、さまざまな視点から患者さんにとって最良のサポートを検討できるでしょう。

 

 

例えば、医療従事者から「薬が飲みづらそう」という報告があれば、嚥下状態を確認し剤形変更の検討が可能です。家族から「服用したことを忘れて重複して服用することがある」という報告があれば、服用ミスを防ぐための管理方法を検討しなければなりません。こうした日常の細かな問題を医師に報告し、解決案を提示することがチーム医療における薬局薬剤師の役割といえます。

5. チーム医療への薬剤師の参画が医療の質の向上につながる

薬剤師が薬の専門家としてチーム医療に参画することは、医療の質の向上につながります。チーム医療で十分な職能を発揮するためにも、認定薬剤師や専門薬剤師などの資格取得を通して、専門性を高めることが大切です。知識や経験を積み重ねることで、チーム医療に欠かせない存在となれるでしょう。


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。

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