薬剤師国家試験は薬剤師なら誰もが必ず通った道。毎年、試験の難易度や合格率が話題になりますが、国試は“現役薬剤師”として基本的な知識を再確認するチャンス。橋村先生の解説で、国家試験の過去問を「おさらい」しましょう!
実務実習に訪れる学生や新人薬剤師に、向精神薬について教えるとき、毎回その区分に疑問を抱えてきた「ゾピクロン」と「エチゾラム」。「多くの同種同効薬が向精神薬として分類されているのに、なぜこの2剤は?」と思う人も多かったのではないでしょうか。この2剤が2016年10月からようやく向精神薬に指定され、11月から第3種向精神薬としての管理運用が施行されました。今回の規制の変化に伴い国家試験の解答が変わるわけではありませんが、第98回の国家試験が行われたときと現在では規制される法律の名称が変わり、新たに向精神薬の規制対象となった薬剤を含む過去問を確認します。
【過去問題】
問84(実務)
貯蔵又は陳列する場合に、薬事法により常時施錠が義務付けられている医薬品はどれか。1つ選べ。
- 1 ジスチグミン臭化物錠
- 2 ゾピクロン錠
- 3 フルニトラゼパム錠
- 4 ラニチジン塩酸塩錠
- 5 インターフェロンベータ-1b(遺伝子組換え)注射用
1 ジスチグミン臭化物錠
解説
常時施錠義務のある医薬品には毒薬、麻薬、覚せい剤原料があります。まずここで確認すべき事項は、各医薬品が異なる規制のもと、施錠義務が生じているということ。以下の表で確認しましょう。
規制対象薬剤 | 規制 |
---|---|
毒薬 | 医薬品医療機器等法※ |
麻薬 | 麻薬取締法 |
覚せい剤原料 | 覚せい剤取締法 |
※第98回国家試験が行われた当時は「薬事法」でしたが、現在は「医薬品医療機器等法」(2014年11月25日施行)になっています。
以上を確認したうえで、もう一度問題を確認してみましょう。
- 1:ジスチグミン臭化物錠…毒薬
- 2:ゾピクロン錠…この国家試験が行われた時点では習慣性医薬品でしたが、現在は後述の通り向精神薬(第3種)となりました。
- 3:フルニトラゼパム錠…向精神薬(第2種)
- 4:ラニチジン塩酸塩錠…普通薬
- 5:インターフェロンベータ-1b(遺伝子組換え)注射用…劇薬
– 実務での活かし方 –
医薬品が麻薬、向精神薬に指定されると、「医薬品医療機器等法」による規制ではなく「麻薬及び向精神薬取締法」による規制が必要となります。これによって増える規制項目は以下の通りです。
- ・輸出、輸入、製造、譲渡、所持、廃棄、事故などに規制、報告の義務
- ・投与上限の規制
- ・海外旅行への携帯の制限
- ・医療機関での保管方法の変更
この中でも特に、通常業務内では起こりにくいため認識が薄くなりがちな、「事故」に関しての取り扱いを見ていきましょう。
向精神薬の在庫と記録が不一致だった場合、調剤過誤等による患者への誤投薬が気になるところですよね。実はそれ以外にも以下の表のように、規定以上の在庫数が記録と不一致である場合には、「向精神薬事故届」を都道府県知事に提出しなければなりません。
薬剤 | 容量 |
---|---|
末、散剤、顆粒剤 | 100グラム(包) |
錠剤、カプセル剤、坐剤 | 120錠(個) |
注射剤 | 10アンプル(バイアル) |
内用液剤 | 10容器 |
経皮吸収型製剤 | 10枚 |
事例
2016年9月に公布、10月に施行された(実際の施行は11月1日から)麻薬及び向精神薬に関する政令により、新たにゾピクロンとエチゾラムが規制対象となりました。
ゾピクロン製剤は今回規制対象となるまでは習慣性医薬品に分類され、処方日数に制限がありませんでした。しかし適応症が不眠症、麻酔前投薬と限定的なため、向精神薬に規制されている他の薬剤と比較しても、極端に処方日数が長期になることはあまりありませんでした。(表1「向精神薬に分類されていないが効能が近似している薬剤」を参照)
それに対してエチゾラム製剤については、これまで規制がまったくありませんでした。適応症には精神科領域が含まれてはいるものの、内科、整形外科に至るまで幅広く利用でき、さらに安全性も高いことから、比較的容易に処方され、長期処方も行われてきました。
表1 向精神薬に分類されていないが効能が近似している薬剤
規制区分 | 一般名 | 先発品名 |
---|---|---|
習慣性医薬品 | エスゾピクロン | ルネスタ® |
スボレキサント | ベルソムラ® | |
リルマザホン塩酸塩水化物 | リスミー® | |
なし | フルトプラゼパム | レスタス® |
メキサゾラム | メレックス® | |
ラメルテオン | ロレゼム® |
今回ようやく規制の対象となったこの2剤ですが、その規制されるべき背景の一例となったのが、国立精神・神経医療研究センターが中心となり2014年に行った「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」。この調査結果では、全症例1579例のうち、患者によって乱用されていた薬物がランキングで表記されています。今回規制対象となったエチゾラムは120例で1位、ゾピクロンが12例で11位(参考リンク:「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」P32、表26参照)との結果が出ています。
ゾピクロンもエチゾラムも実務を行っていると、このように乱用されているイメージが希薄な2剤です。しかし現実は最近の薬物乱用の中心的な存在となっていることを今回の規制を機に再度認識し、お薬手帳や薬歴にて処方日数と医療機関受診回数の相違や残薬の確認などを徹底することで薬剤の適正使用を図りましょう。