薬剤師のスキルアップ 公開日:2023.05.25 薬剤師のスキルアップ

薬局における居宅療養管理指導とは?算定要件やメリット、算定できる・できないの事例

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

居宅療養管理指導を行うと、介護保険制度における「居宅療養管理指導費」を算定できます。介護報酬での算定となるため、薬剤師は調剤報酬だけでなく介護報酬についても理解しておく必要があるでしょう。今回は、居宅療養管理指導の概要や対象者をお伝えするとともに、居宅療養管理指導費の算定要件や単位などについて解説します。

1.居宅療養管理指導とは

居宅療養管理指導とは、介護が必要な状態となった患者さんが、できる限り自立した生活を送れるよう管理や指導を行い、療養生活をサポートすることを指します。居宅療養管理指導を行ったときには、介護報酬の「居宅療養管理指導費」を算定できます。薬剤師だけでなく医師や看護職員、歯科医師、歯科衛生士、管理栄養士が管理や指導を行った場合にも算定できます。

 

1-1.薬局における居宅療養管理指導

薬局における居宅療養管理指導には、患者さんが服用薬を管理しやすいように一包化したり、一包化したパックに用法用量を記載したりといったことが挙げられます。また、文字での確認が難しい患者さんに対しては、マーカーやシールで目印をつけたり、お薬カレンダーを使用したりといった提案も行います。

 

加えて、残薬や副作用の有無などを確認し、服薬アドヒアランスが向上するよう管理・指導することが主な役割です。

 

1-2.居宅療養管理指導の対象者

居宅療養管理指導の対象者は、介護保険の適用を受けている患者さんで、要介護・要支援の認定を受けた人が該当します。要介護者と要支援者の定義は以下のように定められています。

 

【要介護者の定義】
・要介護状態にある65歳以上の者
・要介護状態にある40歳以上65歳未満の者であって、その要介護状態の原因である身体上又は精神上の障害が加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病であって政令で定めるもの(特定疾病)によって生じたもの

【要支援者の定義】
・要支援状態にある65歳以上の者
・要支援状態にある40歳以上65歳未満の者であって、その要支援状態の原因である身体上又は精神上の障害が特定疾病によって生じたもの

 

※政令で定めるもの(特定疾病):施行令第2条
参照:要介護認定に係る法令|厚生労働省

 

要介護者と要支援者の定義に多少の違いはありますが、どちらも65歳以上の人、もしくは特定疾病に該当する40歳以上65歳未満の人が対象となっています。なお、政令で定めるもの(特定疾病)は、介護保険法施行令第2条に明記されています。

 

1-3.特定疾病とは

特定疾病とは、厚生労働省のサイトにて以下の要件を満たすものとされています。

 

・65歳以上の高齢者に多く発生しているが、40歳以上65歳未満の年齢層においても発生が認められるなど、罹患率や有病率(類似の指標を含む)等について加齢との関係が認められる疾病であって、その医学的概念を明確に定義できるもの。
・3~6カ月以上継続して要介護状態又は要支援状態となる割合が高いと考えられる疾病。

介護保険法施行令では、特定疾病の範囲について具体的に示されています。

 

・がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る)※
・関節リウマチ※
・筋萎縮性側索硬化症
・後縦靱帯骨化症
・骨折を伴う骨粗鬆症
・初老期における認知症
・進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病※【パーキンソン病関連疾患】
・脊髄小脳変性症
・脊柱管狭窄症
・早老症
・多系統萎縮症※
・糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
・脳血管疾患
・閉塞性動脈硬化症
・慢性閉塞性肺疾患
・両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症

 

(※印は2006年4月に追加、見直しがなされたもの)
参照:特定疾病の選定基準の考え方|厚生労働省

 

介護保険の対象者は、基本的に65歳以上の高齢患者さんです。ただし、上記の疾患によって、要介護状態または要支援状態となっていると認められた40歳以上65歳未満の患者さんも、介護保険の対象となります。

 
▶ 在宅患者訪問薬剤管理指導料とは?算定要件や居宅療養管理指導との違いを解説

2.居宅療養管理指導のメリット

居宅療養管理指導のメリットには、医療機関を受診せずに栄養や体調を管理できる点が挙げられます。医師や看護師、薬剤師、管理栄養士などの医療従事者が居住場所に訪問するため、通院の手間が省けます。患者さん自身だけでなく家族の身体的・精神的な負担が軽減する点もメリットといえるでしょう。

また、ケアマネジャーが介入している場合は、さまざまな医療従事者がそれぞれ専門的な視点で、ケアマネジャーへ情報提供を行います。ケアマネジャーが、医療従事者からの情報を総合的に考えて、患者さんにとって最善のケアプランを組み立てられる点もメリットといえるでしょう。

3.薬局における居宅療養管理指導費の算定要件と単位

介護報酬にあたる居宅療養管理指導費は、調剤報酬でいうところの「点数」を「単位」として表しています。算定要件と単位について見ていきましょう。

 

3-1.算定要件

医師の指示に基づき、薬剤師が薬学的管理指導計画を策定し、患者さんの居宅にて指導を行います。指導内容は患者さんや家族に文書などで提出するよう努めることとされています。
 
指導後は、なるべく早く薬歴に指導内容を記録するとともに、医師への報告とケアマネジャーへの情報提供を行います。このとき、ケアマネジャーへの情報提供を行わなかった場合は、居宅療養管理指導費を算定できません。ただし、ケアマネジャーによるケアプランの作成が行われていない患者さんについては、居宅療養管理指導費を算定できることになっています。

 

3-2.単位と加算項目

居宅療養管理指導費は、薬局薬剤師または病院薬剤師によって、単位や1カ月の実施回数の上限が異なります。

 

■居宅療養管理指導の基本報酬と月の実施回数

 

参照:令和3年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省

 

また、薬局の薬剤師においては、がん末期の患者さん、または中心静脈栄養を使用している患者さんに対して、1週に2回かつ1カ月に8回を限度として居宅療養管理指導費を算定することができます。
 
その他、居宅療養管理指導費には、以下のような加算項目があります。

 

・麻薬管理指導加算:100単位
・特別地域加算:所定単位数の15%
・中山間地域等における小規模事業所加算:所定単位数の10%
・中山間地域等に居住する者へのサービス提供加算:所定単位数の5%

 

参照:『保険調剤Q&A 令和4年版(調剤報酬点数のポイント)』じほう

 

上記は、要件を満たすことで加算できます。

 
▶ 在宅薬剤師の役割とは?業務内容と求められるスキル

4.2021年度介護報酬改定で新設された項目

2021年度の介護報酬改定で、情報通信機器を用いた服薬指導についても居宅療養管理指導費を算定できることになりました。ただし、対面とオンラインの指導を組み合わせて計画的に実施することとされています。

情報通信機器を使った服薬指導については、以下の条件を満たした利用者が対象となります。

 

・在宅時医学総合管理料に規定する訪問診療の実施に伴い、処方箋が交付された利用者
・居宅療養管理指導費が月1回算定されている利用者

 

上記の条件を満たす患者さんに対して、月1回まで45単位を算定できます。なお、算定するためには、訪問診療を行った医師へ情報提供しなければなりません。

 
▶ 調剤管理料とは?2022年調剤報酬改定で新設加算の点数や算定要件を紹介

5.薬局における居宅療養管理指導費を算定できる事例

居宅療養管理指導費が算定できるのか、疑問に思うことがあるでしょう。ここでは、いくつかのケースを紹介します。

 

5-1.処方箋1枚につき1回以上算定できる

居宅療養管理指導費は処方箋1枚につき1回だけ算定するものではありません。処方薬の服用期間中であれば、1回に限らず算定できるため、投与日数に応じて指導することが可能です。ただし、算定日の間隔は6日以上あけなければなりません。

 

5-2.同居する同一世帯に居宅療養管理指導を行う患者さんが2人以上いるケース

夫婦で介護サポートを受けているケースがあります。この場合、居宅療養管理指導を行う患者さんが同じ建物に2人以上となりますが、患者さんごとに「単一建物居住者が1人の場合」として算定できることになっています。
 
参考:『保険調剤Q&A 令和4年版(調剤報酬点数のポイント)』じほう

6.薬局における居宅療養管理指導を算定できない事例

2021年度の介護報酬改定で、居宅療養管理指導の算定対象者について明確化されたため、一部の患者さんが対象外となる可能性があります。また、医師の指示に基づいた指導であっても算定できないケースがあります。それぞれについて見ていきましょう。

 

6-1.通院が困難と認められない患者さん

2021年度の介護報酬改定で「居宅療養管理指導における通院が困難なものの取り扱い」について、以下のように明確化されました。

 

「例えば、少なくとも独歩で家族・介助者等の助けを借りずに通院ができる者などは、通院は容易であると考えられるため、居宅療養管理指導費は算定できない」
 

参考:参考:令和3年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省

 

居宅療養管理指導は、定期的に患者さんの元に訪問して、服用薬の管理と指導を行うことに対する評価です。継続的な管理や指導が必要ない患者さんや自身で通院できる患者さんに対して、安易に算定してはいけないとされています。

 

6-2.処方箋の交付と関係のない指導は算定できない

居宅療養管理指導費は「当該保険薬局で調剤した薬剤」を服用している患者さんについて、その服用期間中に対して算定するものとされています。他薬局や院内調剤された薬剤について医師の指示に基づき実施したとしても、居宅療養管理指導費は算定できません。
 
ただし、在宅患者訪問薬剤管理指導料または居宅療養管理指導費を算定する医療機関は、患者さん1人につき、同一月に1施設しか認められていません。そのため、居宅療養管理指導を行う薬局は、自薬局で調剤した薬剤の他に、他薬局や院内調剤により交付された薬剤を使用しているか確認し、場合によっては、その他の薬剤についても管理・指導を行う必要があります。

7.居宅療養管理指導における薬局薬剤師の役割を理解しよう

薬局薬剤師が在宅医療に関わることで、残薬の管理や服薬アドヒアランスの向上が期待できます。また、副作用の早期発見にもつながるため、薬局薬剤師が居宅療養管理指導を行う意義は大きいでしょう。薬局薬剤師は、患者さんがより自立した生活をサポートできるようスキルアップを図りましょう。


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。

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