薬剤師のスキルアップ 公開日:2022.04.19 薬剤師のスキルアップ

アドヒアランスとは?コンプライアンスとの違いやアドヒアランス不良を招く原因を解説

文:テラヨウコ(薬剤師ライター)

医療の現場では、患者さんが薬を正しく服用できているかどうかを判断するために、「アドヒアランス」が用いられます。混同されがちな言葉に「コンプライアンス」がありますが、この2つには根本的に異なる点があるのをご存じでしょうか。今回は薬学生や新人薬剤師に向けて、アドヒアランスについて詳しく解説し、アドヒアランス向上のポイントについてお伝えします。

1.アドヒアランスとは

アドヒアランスとは、「患者さん自身が治療方法を理解・納得し、積極的に治療に参加する」ことを指します。患者さんが治療方針に納得し、薬をきちんと飲めている状態をアドヒアランス良好と表現し、一方で、何らかの理由があって飲めないことが多い場合はアドヒアランス不良と表します。

アドヒアランスの正しい把握は、円滑な治療を続けるためにも大切です。薬剤師は服薬指導の際に、これまでに渡した薬が問題なく服用できているかを確認してアドヒアランスをチェックしなければいけません。もし、不良の場合にはアドヒアランスを改善するための提案が求められます。

服薬状況のチェックとして、最近はアドヒアランスを使う機会が多くなりましたが、以前は「コンプライアンス」を用いるのが主流でした。どちらも薬の服用状況などを表す言葉ですが、大まかに、患者さんの治療に対する姿勢が積極的か受動的かによって、使用される表現が異なります。

コンプライアンスは患者さんが「医師の指示に従って正しく服薬できているか」を表すもので、患者さんの治療への参加はあくまでも受動的なものです。一方、アドヒアランスは「患者さん自身が治療方針の決定に参加できているか」がポイントになります。こちらは治療に対する積極的な患者さんの姿勢を図るものといえるでしょう。

また、アドヒアランスとコンプライアンスは、服薬状況が良くないときの原因の捉え方、原因をどの視点で把握するかに違いがあります。コンプライアンスでは、薬を正しく飲まない患者さんのほうに原因があるように思われがちでした。しかしアドヒアランスでは、医療者・患者さんそれぞれに問題があるとされています。

そのためアドヒアランスを良好に保つためには、以下の3点について、医療者と患者さんがお互いに考えて解決することが大切です。

 

①治療法が患者さんに合っているか
②服薬を妨げる原因は何か
③問題解決にはどうするべきか

 

アドヒアランスは、医療者と患者さん双方の姿勢が問われるものであり、向上させるためには医療者と患者さんのコミュニケーションが重要なポイントといえるでしょう。

 
►【関連記事】服薬コンプライアンスとは?意味や重要性、アドヒアランスとの違いを解説


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2.アドヒアランス不良がもたらす2つの課題

では、アドヒアランスが不良だと、どのような問題があるのでしょうか。ここでは患者さん自身に起きる問題と、社会全体としての課題を考えてみましょう。

 

2-1.効果的な治療ができない

患者さん側の課題としては、アドヒアランス不良によって、効果的な治療ができない可能性が挙げられます。例えば、服薬回数が医師の指示よりも少ないと、薬の血中濃度が有効域を下回り不十分な結果になりかねません。

また、体調が良くなったからと自己判断で薬をやめると、再び症状が悪化するおそれもあります。さらに、不安定な血中濃度は思わぬ副作用を引き起こすリスクもあるでしょう。効果的な治療のためには、アドヒアランスを良好に保つことが大切です。

 

2-2.医療費の圧迫につながる

かかりつけ薬剤師指導料やかかりつけ薬剤師包括管理料を算定するには、以下の事項を説明したうえで、患者さんの同意を得る必要があります。

社会的な面において課題となるのが、処方・調剤されたにも拘わらず飲まれないまま捨てられる残薬問題にかかわる点です。アドヒアランス不良は薬の飲み忘れにつながりやすく、残薬問題と無関係ではありません。

2008年に行われた日本薬剤師会の調査によると、飲み忘れなどにより飲み残されている潜在的な薬剤費は年間475億円にのぼると報告されています。アドヒアランスの向上は、医療費増大を予防し、医療の安定供給へとつなげる薬剤師の大切な業務といえるでしょう。

3.アドヒアランス不良を招く大きな原因4つ

患者さんのアドヒアランス低下につながる原因を4つ紹介します。原因が分かれば、効果的な対処が可能です。アドヒアランス不良となる理由が、どのパターンに当てはまるのかをチェックしてみましょう。

 

【原因その1】 薬を飲む必要性を感じていない

医療者の説明不足により患者さんが薬を飲むべき理由を見いだせず、アドヒアランスが低下してしまうケースです。痛みなどの自覚症状が少ない場合や、生活に大きな支障がない場合には、病気であるという意識が薄くなりがちです。「たいしたことはないだろう」「自分は大丈夫」といった考え方がアドヒアランス不良を招きます。

 

【原因その2】 副作用が怖い

薬を飲む必要性は感じているものの、副作用をおそれるあまりにアドヒアランスが低下するパターンです。近年はインターネット等を利用して簡単に添付文書の閲覧ができるため、副作用報告などを読んで怖くなってしまう患者さんも少なくありません。また、テレビや雑誌で自分の処方薬が「飲んではいけない薬」と紹介され、不安に駆られてしまうケースもあります。

►【関連記事】「副作用が怖いので薬は飲みたくない」と言う患者さんへの応対

 

【原因その3】 服用する薬の数が多い

薬の数が増えると、副作用のリスクが増えるだけでなく、飲み間違えや残薬などの、アドヒアランスの低下につながります。また、薬剤数が多いために引き起こされるポリファーマシーのおそれもあります。ポリファーマシーとは、多剤併用による副作用などの有害事象にかかわるリスク増加を指します。高齢者では、6剤以上の薬を服用していると有害事象の発生増加に関連しているとする調査結果もあります(厚生労働省資料より)。

 

【原因その4】 薬の飲み方が難しい

用法が多かったり、特殊な飲み方をする薬があったりする場合も、アドヒアランス低下につながります。厚生労働省が発表した「2018年度診療報酬改定の概要(調剤)」では、1日当たりの服薬回数が少ないほどアドヒアランスが向上することが報告されています。

一方、起床後すぐに服用する薬や、空腹時にしか飲めない薬など、特殊な用法も飲み忘れリスクが高いといえるでしょう。そのほかにも、高齢で飲みこむ力が弱くなり、普通錠の服用が難しくなるケースもあります。


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4.アドヒアランスを高めるために薬剤師ができること

アドヒアランス不良の原因が異なれば、対処法も変わります。ここでは、実際に筆者が経験した事例も交えながら、薬剤師ができるアドヒアランス向上のポイントを紹介します。

 

4-1.丁寧な服薬指導で薬を飲む必要性を伝える

服薬指導で、なぜ薬を飲んだほうがよいのか、薬を飲まないとどのようなデメリットがあるのかを丁寧に伝え、受け身ではなく積極的に治療に参加するよう促すことが大切です。その際、病気や薬の知識を伝えるだけでは、患者さんの不安をあおる可能性があるため、注意が必要です。患者さんに不必要な不安を感じさせず、なおかつ分かりやすい言葉で説明しましょう。

►【関連記事】接遇・マナーの先生に聞く!服薬指導時の言葉の選び方

 

4-2.ポリファーマシー解消のための提案

薬の数が多いと、アドヒアランス低下につながりやすくなります。しかし、高齢者は内服薬が多くなる傾向があり、75歳以上では約1/4が7種類以上、4割が5種類以上の薬剤を処方されているという報告もあります(厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針」より)。そのため、患者さんから話をよく聞き、服薬で困っていることはないかを事前に確認するとよいでしょう。必要であれば、医師へのトレーシングレポート提出など、ポリファーマシーを解消するための提案も行います。

 

4-3.薬を飲みやすくするための工夫を提案

患者さんが服薬を負担に感じている場合は、飲み方の工夫を提案します。例えば、患者さん自身で薬の管理が難しいときは、一包化で対応するほか、お薬カレンダーやピルケースの利用を勧めてみましょう。家族と同居している場合は、協力してもらうのも一案です。

また、高齢で薬を飲みこむのが苦手な患者さんには、ゼリーオブラートの使用を促すほか、口腔内崩壊錠や貼付剤などへの剤形変更を医師へ提案する場合もあります。

 

4-4.気軽に相談してもらえる信頼関係をつくる

患者さんが薬について不安を感じたときに、気軽に相談してもらえる薬剤師になることも、アドヒアランス向上に役立ちます。そのため、普段から患者さんとのコミュニケーションを深めておく必要があります。

実際にアドヒアランスが非常に悪く、救急車で運ばれて入院を繰り返す患者さんを担当したことがあります。もともと一包化はされていましたが、病気への理解が乏しく飲み忘れが多い状況でした。そこで、毎日を元気に過ごすためには正しい服薬がいかに大切かを伝え、本人と相談のうえで一包化した薬剤に日付を入れる工夫を行いました。少しでも正しく飲めていたら褒めるといったコミュニケーションを繰り返すうちに、徐々にアドヒアランスが向上し、ほぼ毎日服薬できるようになった事例があります。

そのほか、ある患者さんに、生活リズムに合わせたお薬ボックスを手作りして渡したところ、「ここまでしてくれるなんて嬉しい」と喜んでいただき、アドヒアランスが向上した例もあります。アドヒアランス不良になる理由はひとりひとり異なります。患者さんの悩みや心に寄り添い、一緒に解決法を考えながら、アドヒアランス向上を目指してはいかがでしょうか。

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5.アドヒアランス向上のサポートは薬剤師の大切な仕事

「薬を飲みたくない」「ちゃんと飲みたいけれどなかなか飲めない」など、誰にも相談ができずに悩んでいる患者さんは少なくありません。アドヒアランスの向上は、患者さん本人にとってはもちろん、社会的な面でも大きな意味があります。薬剤師として、それぞれの患者さんの抱えている悩みを解決し、アドヒアランスを高めるためのサポートができるよう、普段から前向きな行動を続けたいものです。


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執筆/テラヨウコ

薬剤師。3人兄弟のママ。大学院卒業後、地域密着型の調剤薬局に勤務。大学病院門前をはじめ、内科・婦人科・皮膚科・心療内科・皮膚科門前などで多くの経験を積む。15年の薬剤師歴ののち独立して薬剤師ライターへ。健康や医療、美容に関する記事を執筆。休日は温泉ドライブや着物でのおでかけが楽しみ。

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