日常の調剤業務では、多種多様な薬を扱います。添付文書を読んで、作用機序や副作用など、ひと通りのことは学んでも、この薬は、誰がどのような思いで創ったのかと考える機会はないかもしれません。しかし、すべての薬には、元となる化合物を合成した人や、薬効を発見した人など、多くの人が関わっています。
2015年のノーベル生理学・医学賞は、イベルメクチンの開発者に贈られました。大村智氏らが発見したこの薬は、熱帯の寄生虫病の特効薬で、年1回の服用で3億人を失明から救っています。これ以外にも、日本人が世界に誇れる薬をいくつも送り出していることは、薬の専門家である薬剤師にも、意外と知られていません。
ひと昔前、1つの新しい薬が世に出るまでには、10年余りの歳月と数百億円の研究開発費がかかるとされましたが、今ではそれが1000~1500億円にまで膨れ上がっているとされます。それでも、日本は、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スイスと並び、世界で真の創薬を成し遂げられる国の1つです。
ニュースを賑わした日本の薬もあります。高額薬価も話題になったがん治療薬オプジーボは、本庶佑氏(京都大学)らにより開発されました。また、エボラ出血熱に効く可能性が示唆されたアビガンは、富山化学(現・富士フイルム)が創製した抗ウイルス薬です。
この他にも、本書では、カナグル(糖尿病治療薬)、ブロプレス(高血圧治療薬)、ベリソムラ(睡眠薬)、エビリファイ(抗精神病薬)、イムセラ/ジレニア(多発性硬化症治療薬)、ハルナール(排尿障害改善薬)などの画期的新薬を取り上げ、いかにして誕生したかについて、研究者の横顔と共に解説しています。薬学を修めた人も、何人も登場します。
2013年に発行された『新薬に挑んだ日本人科学者たち』の姉妹作で、前作にも、スタチン、クラビット、プログラフ/プロトピック、アリセプト、フェブリク、リュープリン、アクテムラなどの開発ストーリーが紹介されています。
薬の成り立ちに思いを馳せ、一段深い知識を蓄えるのに最適な1冊です。科学読み物としても楽しめます。日本発の薬が世界の患者を救っていることを実感できれば、薬を扱う仕事が、誇らしく思えるのではないでしょうか。