薬剤師として働くには、必要な保険があります。薬剤師賠償責任保険(個人情報漏えい保険)をはじめ、薬剤師が知っておきたい保険について、ファイナンシャルプランナーの斉藤勇さんが解説します。
薬剤師として就職・転職したら保険の加入が必要?
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保険には健康保険・介護保険といった社会保険のほか、生命保険や損害保険などさまざまな種類があります。そこで今回は、薬剤師として働くときに「知っておきたい保険」について、なぜ必要なのか、どんな時に役に立つのか、具体的な事例をもとにご紹介します。
薬剤師には「薬剤師賠償責任保険」が必要
- INDEX
- 1. 薬剤師賠償責任保険とは?
- ►薬剤師賠償責任保険で想定されるケース
- ►薬剤師賠償責任保険への加入方法は?
- ►ポイント:使用者責任について
- 2. アンチ・ドーピング活動保険とは?
- ►アンチ・ドーピング活動保険で想定されるケース
- 3. 所得補償保険とは?
- ►ポイント:傷病手当金とは
- ►所得補償保険の補償内容は?
- ►日本薬剤師会が提供している「休業補償保険」と「長期休業補償保険」
- ・業補償保険(所得補償保険)の特徴
- ・期休業補償保険(団体長期障害所得補償保険)の特徴
- 4. まとめ 薬剤師に必要な保険
薬剤師賠償責任保険とは?
薬剤師賠償責任保険とは、薬剤師が投薬ミスなどにより患者さんに損害を与えてしまったときに発生する損害倍書責任をカバーするための保険です。
►薬剤師賠償責任保険で想定されるケース(契約内容によって補償範囲は異なります)
・投薬ミスによって患者さんが体調を崩し、入院することになってしまった場合
→患者さんの入院・通院費用や慰謝料などの損害賠償金が補償されます
・薬の使用方法に関する説明を間違ったため、患者さんの具合が悪くなった場合
→患者さんの入院・通院費用や慰謝料などの損害賠償金が補償されます
・調剤ミスにより患者さんに健康被害が生じる可能性があるが、どう対応していいか分からない場合
→患者さんへの対応について、弁護士に相談するための費用が補償されます
►薬剤師賠償責任保険への加入方法は?
薬剤師賠償責任保険への加入方法は、次の2つの方法があります。
1 勤務先(薬局・病院など)が保険を契約する
2 薬剤師が個人的に保険を契約する
薬剤師として薬局や病院などで働く場合、勤務先が薬剤師賠償責任保険に加入しているのが一般的です。これは、従業員を雇用する企業に「使用者責任」があり、従業員のミスによって生じた損害賠償責任は、その従業員を雇用している企業に及ぶためです。
薬剤師として就職・転職が決まったら、勤務先に薬剤師賠償責任保険に加入しているか確認するといいでしょう。
ただし、勤務先によっては、薬剤師賠償責任保険の更新を忘れているケースや、小規模な事業所では薬剤師賠償責任保険への加入をそもそも検討していないケースもあります。
そこで、万一に備えたいと考えている方は、個人で薬剤師賠償責任保険に加入する方法もあります。
個人で薬剤師賠償責任保険に加入する場合には、民間の損害保険会社の保険に加入する方法と、日本薬剤師会が提供している保険に加入する方法などがあります。
日本薬剤師会の保険に加入する場合には、個人として日本薬剤師会に加入する必要があるため、保険料のほかに年会費の支払いも発生します。
また、手続きの方法は地域によって異なるため、煩雑な手続きが気になる方は民間の損害保険会社の保険に加入するほうが楽かもしれません。
►ポイント:使用者責任について
従業員のミスによって第三者に損害を与え、雇用主が使用者責任に基づいて第三者に損害賠償金を支払うと、雇用主が従業員に対して損害賠償請求を起こすケースがあります。
この場合、裁判例では従業員に故意や重大な過失がある場合に限って損害賠償責任を認めたり、損害賠償責任がある場合でも賠償額を制限したりするのが一般的です。
弱い立場にある従業員は法律で守られていますが、リスクがゼロではないことを知っておきましょう。
2. アンチ・ドーピング活動保険とは?
アンチ・ドーピング活動保険は、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)が、「アンチ・ドーピング規則違反」として公表したドーピングにより生じた損害賠償請求を補償するための保険で、日本薬剤師会が会員を対象に提供しています。
日本薬剤師会の薬剤師賠償責任保険では、アンチ・ドーピング規則違反による損害賠償責任は補償の対象外になっています。調剤や医薬品の販売を通して、スポーツ選手などからドーピングに関する相談を受ける機会が多い薬剤師さんは、アンチ・ドーピング活動保険へ加入しておくと安心です。
►アンチ・ドーピング活動保険で想定されるケース
例)調剤した薬剤を服用したところ、薬物検査で失格になり大会に出られなくなった場合
・損害賠償金…資格停止処分期間中の喪失利益など、裁判によって確定した賠償金が補償されます
・争訟費用…訴訟費用や弁護士費用などが補償されます
・事故対応費用…原因調査費用や訴訟のために要した諸費用が補償されます
・被害者対応費用…被害者にお詫びを行う際に要する費用などが補償されます
3. 所得補償保険とは?
所得補償保険とは、病気やケガで働けなくなった場合に備えるための保険です。保険金が支払われる期間が「1年間」などあらかじめ期間が決まっているタイプと、「最長満70歳まで」など長期にわたって補償が受けられるタイプがあります。
病気やケガで働けなくなった場合、勤務先の健康保険に加入していれば、加入している健康保険から「傷病手当金」が支払われます。しかし、傷病手当金だけでは生活費が不足することもあるため、万一に備える場合には「所得補償保険」に加入しておくと安心です。
►ポイント:傷病手当金とは
傷病手当金は健康保険制度のひとつで、健康保険に加入している方が、業務外の病気やケガで働けなくなった場合に給付金が支払われます。傷病手当金を受け取れるのは支給を開始した日から最長1年6カ月で、支給される傷病手当金の額は月給のおよそ3分の2です。
►所得補償保険の補償内容は?
所得補償保険は民間の保険会社からさまざまな商品が提供されていますが、日本薬剤師会も会員を対象に提供しています。そこで、日本薬剤師会が提供している所得補償保険の内容を、ホームページをもとに見てみましょう。
►日本薬剤師会が提供している「休業補償保険」と「長期休業補償保険」
日本薬剤師会を経由して所得補償保険に加入すると、団体割引が適用されて保険料がお得になります。次の2つのタイプがあるため、それぞれの内容をチェックしてみましょう。
・休業補償保険(所得補償保険)の特徴
突然の病気やケガで働けなくなったときに備えるための保険で、保険金が支払われるのは働けなくなってから最長1年間(最初の7日間は対象外)です。
保険金は病気やケガで就業不能(うつ病などの「心の病」も含まれます)になった場合に支払われるため、傷病手当金で不足する生活費や、傷病手当金の給付が終了してからの生活費に備えることができます。
・長期休業補償保険(団体長期障害所得補償保険)の特徴
就業不能期間が長期にわたる場合でも、最長満70歳まで補償が受けられるため、脳出血や後遺障害など、療養の長期化が予想される病気やケガに備えることができます。
保険金が支払われるのは、372日を超えて就業不能状態が続いた場合です。そのため、休業補償保険と合わせて加入することで、長期の療養が必要になった場合に備えることができます。
4. まとめ 薬剤師に必要な保険
薬剤師の仕事は責任が重く、ちょっとしたミスが大きなトラブルに発展する可能性があります。就職や転職が決まったら、今回ご紹介した内容を参考にして、勤務先がどのような保険に加入しているのかを確認してみましょう。その際に補償内容や補償範囲などを細かくチェックしておくと、安心して働けると思います。
薬剤師にとって必要な薬剤師賠償責任保険は、投薬ミスや調剤ミスに供える保険です。保険があるとはいえ、ミスを許されない薬剤師の仕事はストレスやプレッシャーはつきもの。仕事に不安を感じているなら、キャリアカウンセラーに働き方について相談してみませんか?
取材・文/斉藤 勇(さいとう いさむ)
ファイナンシャルプランナー/宅地建物取引士
オフィスISC代表。保険や貯蓄、住宅ローンなど、お金にまつわる疑問や悩みごとの相談に応じている。不動産取引では不動産投資を通じて得た豊富な取引経験をもとに、売り手と買い手、貸し手と借り手、それぞれの立場でアドバイスを実施。趣味はマリンスポーツ。モットーは「常に感謝の気持ちを忘れずに」。