薬剤師国家試験は薬剤師なら誰もが必ず通った道。毎年、試験の難易度や合格率が話題になりますが、国試は“現役薬剤師”として基本的な知識を再確認するチャンス。橋村先生の解説で、国家試験の過去問を「おさらい」しましょう!
2020年の東京オリンピック開催に向けて、日本は国際オリンピック委員会や世界保健機構から「タバコのない五輪」を強く要請されています。それを受けて、厚労省は受動喫煙防止法などの設立を視野に活動していますが、なかなか進んでいません。
現在世間一般に広く注目されているのは、タバコから出る「煙」。この煙には本人がフィルターを通して吸う「主流煙」と、フィルターを通さず排出される「副流煙(二次喫煙や受動喫煙ともいわれる)」があります。元来タバコの煙には多くの有害物質が含まれますが、その量は主流煙よりも副流煙のほうが、数倍から数十倍も多いことがわかっています。今回はその有害物質の中でも依存性の高さが問題となっているニコチンについて、第100回の薬剤師国家試験から問題点を確認しましょう。
【過去問題】
32歳女性。喫煙歴5年、禁煙を試みたいと薬局を訪れた。現在、不眠症で、ゾピクロン錠を不眠時に服用している。禁煙のためにニコチンガム、ニコチンパッチ、バレニクリン酒石酸塩錠のいずれかを使用するか悩んでいるとのことだった。
問246(実務)
薬剤師が来局者に説明する内容として、適切でないのはどれか。2つ選べ。
- 1ニコチンパッチは、高用量から開始し、段階的に減らします。
- 2ニコチンパッチは、妊婦にも使用できます。
- 3ニコチンガムは、コーヒーや炭酸飲料を飲んだあとは吸収がよくなります。
- 4ニコチンガムは、むかつきやのどへの刺激が起こることがあります。
- 5バレニクリン酒石酸塩錠は、喫煙に代わってニコチンを補充する薬剤ではありません。
2、3
解説
- 1:ニコチンパッチは、ニコチン量を高用量から段階的に減量して使用します。
- 2:ニコチンパッチは、ニコチンを皮膚から吸収させ段階的に減量していき、禁煙を勧めていく薬剤です。そのため、この製剤の使用上の注意事項はニコチンの注意事項と同じ。ニコチンは動物での催奇形性と、ヒトにおける乳汁への移行が報告されていますので、妊婦・授乳婦には禁忌です。
- 3:通常口腔内はpH6.7と弱酸性の状態にあります。ニコチンは強塩基性のため、飲料や食事で口腔内がより酸性に傾いた場合の使用で、より口腔粘膜からの吸収が低下します。酸性になりやすい飲料や食事は、過去問の選択肢でも登場したコーヒーや、柑橘類などのフルーツやワイン、果汁、炭酸飲料、スポーツドリンクなど飲料、ビタミンCなどの顆粒や液体のサプリメント、うがい薬などです。
- 4:ニコチンの代表的な副作用です。
- 5:バレニクリン酒石酸塩錠は、α4β2ニコチン受容体部分作動薬です。禁煙によりニコチン受容体を完全に阻害すると、離脱症状が現れます。部分作動薬によりニコチン受容体が少しだけ刺激されることで、ドパミンが少量放出され、禁煙による離脱症状が軽減されます。
– 実務での活かし方 –
現在禁煙補助剤には、一般用医薬品としてニコチンガム製剤とニコチンパッチ製剤、医療用医薬品としてニコチンパッチ製剤(ニコチネル®TTS®)と内服剤バレニクリン(チャンピックス®)などがあります。各製剤共に剤型や使用法が異なるため、薬剤師による適正使用の指導が必要です。
薬理作用
神経伝達物質のアセチルコリンと類似の分子構造や、ニコチン受容体に親和性を持つことで、自律神経や中枢神経を興奮させたり麻痺させたりします。これにより、覚醒作用や鎮静作用を発現します。
体内への吸収・排泄
ニコチンは消化管・肺・皮膚・粘膜から容易に吸収されます。気管へは、ニコチン含有率1.5%の紙巻きタバコを吸った場合に0.2~2.4mg入り、そのうち10~50%が吸収されます。その80~90%が肝臓で代謝され、約80%は解毒されてコチニンとなり尿中に排泄されます。腎からの排泄はpHに依存しますので、尿のpHが低いほど排泄が多くなります。また、皮膚からのニコチン吸収に関しては、一過性の運動で増加しますが、血中濃度は「上昇する」という報告と「差がない」という報告があり、一定していません。
依存
中枢神経に存在するニコチン受容体に作用することで、神経伝達物質の1つであるドパミンが遊離されます。それによってドパミン受容体の感受性が低下し、精神的・身体的に不快感が発生し切望感が発現。これがタバコによる依存症状です。
各製剤の作用機序・注意事項
上記解説を参照ください。
製剤 | ニコチン濃度 |
---|---|
紙タバコ | 4ng/ml |
2mgニコチンガム製剤 | 12ng/ml |
4mgニコチンガム製剤 | 23ng/ml |
35mgニコチン経皮吸収型製剤 | 12-22ng/ml |
事例
禁煙のメリットは多くとりあげられていますが、薬剤師としては定期服用薬への影響を確認が必要です。一般に禁煙すると、喫煙によって誘導されていた薬物代謝酵素〔チトクロームP450(CYP)1A2〕による代謝が低下し、医薬品の血中濃度が上昇します。
つまり、喫煙中と同じ量の薬剤を続けて服用していると、作用の増強や中毒症状が発現する可能性が高くなるのです。酵素活性が誘導前の状態にまで回復する期間は、薬物代謝酵素の個体差やその人のこれまでの喫煙量、喫煙期間などさまざまな要因があるため明確になっていませんが、おおよそ数週間以上かかるともいわれています。
禁煙開始直後から禁煙継続中も、しばらくの間は様子をみるべきでしょう。また、タバコによる副流煙にもニコチンが含まれているため、 同様の酵素誘導が起きている可能性があります。そのため受動喫煙者でも、医薬品と喫煙・禁煙によるニコチンとの相互作用に注意が必要です。
特に注意が必要な精神科領域の薬剤を中心に表にまとめました。確認しておきましょう。
薬効 | 薬剤名 |
---|---|
向精神薬 | オランザピン・クロザピン・クロルプロマジン・ハロペリドール・フルフェナジン |
抗うつ薬 | アミトリプチン・イミプラミン・クロミプラミン・ノルトリプチン・フルボキサミン |
抗不安薬 | アルプラゾラム・ジアゼパム・ロラゼパム |
βブロッカー | プロプラノロール |
気管支拡張薬(キサンチン系) | アミノフィリン・テオフィリン |
抗がん剤 | エルロチニブ塩酸塩 |
抗HIV薬 | リトナビル |
抗不整脈薬 | フレカイニド・メキシチレン |
禁煙補助剤を使って禁煙指導を行うのは非常に大切なことです。
ただ薬剤師としては補助剤の使用方法を指導するだけにとどまらず、喫煙・禁煙によって服用している薬剤の血中濃度が変化する可能性を考慮し、服用量の増減の必要性や体調変化への指導も行うことも忘れないようにしましょう。