薬剤師国家試験は薬剤師なら誰もが必ず通った道。毎年、試験の難易度や合格率が話題になりますが、国試は“現役薬剤師”として基本的な知識を再確認するチャンス。橋村先生の解説で、国家試験の過去問を「おさらい」しましょう!
オピオイド製剤を使用すると、鎮痛効果が発現する投与量に至る前後に、便秘・嘔気・嘔吐・眠気の副作用が発現します(表1)。
表1
その中でも便秘は非常に初期から発現します。この症状に対して2017年に新規作用機序の薬剤ナルデメジントシル酸塩(商品名:スインプロイク)が発売されました。第101回薬剤師国家試験問252-253を参考にその作用機序を確認しましょう。
【過去問題】
45歳女性。卵巣がん。がん性疼痛に対して以下の薬剤を使用してきたが、疼痛が増強してきたので、追加処方を検討することにした。
(処方)
ロキソプロフェン Na錠 60mg 1回1錠(1日3錠)
1日3回 朝昼夕食後 14日分
問252(実務)
ロキソプロフェン Na錠に追加する薬剤として適切なのはどれか。2つ選べ。
- 1コデインリン酸塩散 10%
- 2セレコキシブ錠
- 3モルヒネ硫酸塩水和物徐放錠
- 4メサドン塩酸塩錠
問253(薬理)
前問で適切と考えた追加処方薬の薬理作用(副作用を含む)として、正しいのはどれか。 2つ選べ。
- 1中脳や延髄に作用し、脊髄への下行性抑制系神経を抑制することで鎮痛作用を示す。
- 2プロスタグランジンの産生を抑制し、解熱作用を示す。
- 3肝臓の薬物代謝酵素によってモルヒネに変換されて鎮痛作用を示す。
- 4延髄の化学受容器引き金帯(CTZ)を抑制し、制吐作用を示す。
- 5消化管運動を抑制し、便秘を起こす。
問252:1、3
問253:3、5
解説
問252
- 2:処方内容は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)のロキソプロフェン。同系統の選択肢2セレコキシブ製剤の併用追加は行わない。
- 4:表2から、選択肢はそれぞれ以下の通りだと分かる。
- 1 コデインリン酸塩酸10%:弱オピオイド
- 3 モルヒネ硫酸塩水和物徐放錠:強オピオイド
- 4 メサドン塩酸塩錠:強オピオイド
いずれもNSAIDsとの併用が理想である。しかし、5のメサドンは添付文書上適応が「他の強オピオイド鎮痛剤から切り替えて使用する。」と記載されているため、今回の問題にあるロキソプロフェンへの最初の併用追加薬となる場合、推奨されない。
表2
問253
- 1:オピオイド系鎮痛薬の基本的な鎮痛作用は、脊髄から大脳皮質への上行性痛覚伝道の抑制と、中脳・延髄から脊髄への下行性抑制性神経の活性である。
- 2:プロスタグランジン産生抑制、およびその解熱作用への作用はNSAIDsの作用機序である。
- 4:オピオイド系鎮痛薬は、延髄の化学受容体引き金帯(CTZ)を刺激することで、悪心・嘔吐などの症状を発現する。
– 実務での活かし方 –
表3からオピオイド製剤による便秘の現機序を確認します。
表3
前述の表2からも確認できるように、オピオイド製剤による便秘の発現は、疼痛コントロールを始めた時点から発現すると思っていても問題ありません。このため新規機序の薬剤が発売されるまでは、表4に示した各種下剤を組み合わせて使用し、便通のコントロールを行ってきました。
分類 | 作用機序 | 耐性 | 代表的な薬剤 |
---|---|---|---|
大腸刺激性下剤 | 大腸の蠕動運動を促して排便を促進する | 長期使用であり | センナ、ピコスルファートナトリウム、ビサコジルなど |
クロライドチャネルアクチベーター | 小腸の腸液の分泌に関わる受容体クロライドチャネルを活性化し、小腸内への水分分泌を促進する | なし | ルビプロストン |
浸透圧性下剤 | 腸管内腔腸内の浸透圧を上げることで水分を吸引し、排便を促進する | なし | 酸化マグネシウム、ラクツロースなど |
緩和ケアにおけるオピオイド製剤の使用開始時期も診断早期からの使用(表5)となり、以前と比較するとオピオイドを服用している期間が長期化しています。
表5
オピオイド製剤による便秘が早期から発現するということからも、即効性と効果が確実な大腸刺激性下剤が選択される傾向にありましたが、長期連用による耐性が問題となっていました。そのような中、2017年にオピオイド誘発性便秘症に対して表6のような作用機序を持つ薬剤ナルデメジントシル酸塩(商品名スインプロイク)が発売されました。
表6
事例
まず、オピオイド誘発性便秘症(OIC:opioid-induced constipation)の定義を表7で確認します。
オピオイド治療開始時、排便の習慣やパターンに以下の変化が現れること |
---|
1.排便頻度の低下 |
2.いきみを伴うようになる/より強いいきみを伴うようになる |
3.残便感 |
4.排便習慣に苦痛を感じる |
オピオイド製剤服用後、表7にあるような症状が発現した場合にはOICと思われるため速やかに緩下剤もしくは下剤の併用追加が必要となります。この際、表6に記載したような下剤がこれまでの一般的な下剤と比較した場合には有効性が高いように思われます。しかし、オピオイド製剤服用開始当初はみられなくてもオピオイド増量などにより発現する可能性があるため、症状変化には注意が必要です。
特に女性の場合は服用前から便秘傾向にある場合が多いため、通常の慢性的な便秘と勘違いすることも考えられるので、オピオイド製剤服用後の便通コントロールには注意しましょう。
また、消化管閉塞若しくはその疑いのある患者、又は消化管閉塞の既往歴を有し再発のおそれの高い患者は消化管穿孔を起こすおそれがあるので禁忌となっています。
残念ながら現状では、オピオイド製剤は良いイメージを持つ患者・家族がほとんどいないでしょう。少しでも不快な症状の発現が予測できるのであれば、その後の良好な疼痛コントロール獲得のためにも、早期に予防するように薬剤師による処方提案が行えるようにしておきましょう。