- 1.スイッチOTC医薬品とは
- 1-1.スイッチOTC医薬品の概要
- 1-2.新規成分のスイッチ化に向けた議論
- 1-3.スイッチOTC医薬品の役割
- 1-4.ダイレクトOTC医薬品との違い
- 2.スイッチOTC医薬品のメリット
- 2-1.OTC医薬品と比べて、より効果的な治療が期待できる
- 2-2.医療用で処方されていた医薬品を手軽に購入できる
- 3.スイッチOTC医薬品のデメリット
- 3-1.自己判断で服用すると受診遅れにつながる可能性がある
- 3-2.医薬品の乱用や依存の危険性がある
- 4.薬剤師がスイッチOTC医薬品を販売するときに注意すべきこと
- 4-1.適応や用法・用量などが医療用医薬品とは異なる場合がある
- 4-2.症状がひどいときには医療機関を受診してもらう
- 4-3.副作用への対応について説明する
- 5.スイッチOTC医薬品を購入するときに注意すべきこと
- 5-1.対象となるスイッチOTC医薬品を服用しても問題ない状態かを確認する
- 5-2.用法・用量や取り扱い上の注意を確認する
- 6.セルフメディケーション税制との関係
- 7.スイッチOTC医薬品の適切な提案で、セルフメディケーションを推進しよう
1.スイッチOTC医薬品とは
医師の処方箋がなくても店頭で購入できるOTC医薬品は、一般医薬品ともいわれます。では、スイッチOTC医薬品とはどのような医薬品なのでしょうか。スイッチOTC医薬品の概要や役割、ダイレクトOTC医薬品との違いについて解説します。
1-1.スイッチOTC医薬品の概要
スイッチOTC医薬品とは、有効性や安全性が確認された医療用医薬品をOTC医薬品に転用した医薬品のことです。2023年4月時点では、約100成分、2,700品目のスイッチOTC医薬品が販売されており、病院に行かないと手に入らなかった医薬品が、要指導医薬品として薬局やドラッグストアで手軽に購入できるものです。
新規成分がスイッチ化される過程として、企業や消費者から要望のあった候補成分に対し、厚生労働省の行う検討会議でスイッチ化の是非や課題が議論されます。検討会議にてスイッチ化が「可」となった場合、製薬企業が「薬事・食品衛生審議会 薬事分科会 要指導・一般用医薬品部会」に承認申請をし、承認されることで市場に流通することになります。
スイッチOTC化された後も、医療用医薬品としての販売は続いており、医療用としてもOTC医薬品としても手に入れられるのが特徴です。
参照:医療用医薬品から一般用医薬品への転用(スイッチOTC化)の促進 – 日本OTC医薬品協会|内閣府
参照:セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)について|厚生労働省
参照:医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議|厚生労働省
1-2.新規成分のスイッチ化に向けた議論
上述したように、新規成分のスイッチOTC化の際には、検討会議が行われ、スイッチOTC化の是非や課題点、その対策について議論されています。
例えば、2023年には緊急避妊薬のスイッチ化について、「緊急避妊薬をOTC医薬品にすることで、性感染症の拡大につながるのではないか」「性暴力に悪用されるのではないか」といったスイッチ化の是非や、「年齢制限を設けるのか」「販売する薬剤師の教育はどうするのか」などの課題に対し、どのように対策をするのかが検討されています。今後も専門家の意見やパブリックコメントを参考に、議論が進んでいくでしょう。
1-3.スイッチOTC医薬品の役割
高齢化による健康ニーズの多様化や医療費増大といった課題に対し、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当する」という、セルフメディケーションの取り組みが推進されています。
スイッチOTC医薬品の特徴として、既存のOTC医薬品よりも効果が高いことや、同じ効果でも副作用が軽減されたことなどが挙げられます。身近な薬局などで購入できるスイッチOTC医薬品が普及することで、セルフメディケーション推進に役立ちます。
1-4.ダイレクトOTC医薬品との違い
ダイレクトOTC医薬品とは、医療用医薬品として使用されずに直接(ダイレクトに)OTC医薬品として承認されるOTC医薬品です。スイッチOTC医薬品とは、販売に至るまでの過程に違いがあります。
先にもお伝えしたとおり、スイッチOTC医薬品は医療用医薬品として使用された後に販売されますが、ダイレクトOTC医薬品は臨床での使用経験がないままOTC化されます。そのため、4~8年間と長期の審査期間が設けられているのが特徴です。一方で、使用経験のあるスイッチOTC医薬品の製造販売後調査期間は3年間です。
2.スイッチOTC医薬品のメリット
スイッチOTC医薬品は、医療用医薬品から転用されていることが特徴のOTC医薬品です。この特徴から、どのようなメリットがあるのか解説します。
2-1.OTC医薬品と比べて、より効果的な治療が期待できる
スイッチOTC医薬品は、医療用医薬品として有効性や安全性が確認されているため、既存のOTC医薬品と比べて高い治療効果が期待できます。
例えば、花粉症に使用される第2世代抗ヒスタミン薬は、持続性が高く、副作用の眠気が少ないスイッチOTC医薬品です。既存のOTC医薬品では効果がない場合や、副作用である眠気のせいで購入を避けていた方に対しても、ニーズに応えることができます。
2-2.医療用で処方されていた医薬品を手軽に購入できる
「医療用医薬品と同じレベルの医薬品を手軽に購入したい」という要望に応えられるのもスイッチOTC医薬品の特徴です。
医療用と同成分・同量を配合している商品が多く、再発した軽度の症状に対して、医療用と変わらない効果で治療ができます。ただし、医療用よりも用量が少ない商品や主成分以外に補助成分を配合している商品があるため、注意が必要です。
3.スイッチOTC医薬品のデメリット
スイッチOTC医薬品は治療効果が高く、手軽に購入できるといった利便性がある一方、デメリットもいくつかあります。デメリットも理解し、患者さんの不利益にならないように注意しましょう。
3-1.自己判断で服用すると受診遅れにつながる可能性がある
スイッチOTC医薬品は有効性や安全性が確認されているものの、自己判断で服用を続けてしまうと、重大な病気の初期症状を見落としたり、副作用に気づかずに継続服用してしまったりする可能性があります。
患者さんには、購入前に軽度の症状に対して短期使用を前提とした医薬品であることを説明し、理解してもらう必要があるでしょう。
3-2.医薬品の乱用や依存の危険性がある
市販薬として手軽に購入できる便利さがある一方で、医薬品の乱用や依存につながる可能性も考慮すべきでしょう。
例えば、鎮痛剤の使用過多によって生じる「薬物乱用頭痛」が近年問題となっています。「薬物乱用頭痛」とは緊張型頭痛などの一次性頭痛に対して、鎮痛剤を過度に使用した場合に起きる頭痛のことで、海外の調査によると、年間有病率は1~2%とされています。スイッチOTC医薬品を販売する際には、使用過多になっていないか、繰り返し購入していないかなどを確認し、乱用や依存の防止に努めることが大切です。
参照:頭痛の診療ガイドライン2021(監修:日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会、編集:「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会)|日本頭痛学会
4.薬剤師がスイッチOTC医薬品を販売するときに注意すべきこと
スイッチOTC医薬品を効果的かつ安全に使用してもらうためには、薬剤師からの確認や説明が不可欠です。ここからは薬剤師がスイッチOTC医薬品を販売する際に注意すべき点について解説します。
4-1.適応や用法・用量などが医療用医薬品とは異なる場合がある
スイッチOTC医薬品は医療用医薬品を転用した医薬品です。しかし、対象となる適応症や用法・用量、禁忌などの医薬品情報において、相違が見られる場合があるため注意しましょう。
例えば、第2世代抗ヒスタミン薬は、医療用医薬品では鼻炎や皮膚疾患に適応があるものの、スイッチOTC医薬品では「花粉やハウスダストに対するアレルギー鼻炎」にのみ適応があります。皮膚疾患の患者さんに対して、医療用医薬品と同じ使い方はできないため、詳細情報を確認の上、販売しましょう。
4-2.症状がひどいときには医療機関を受診してもらう
OTC医薬品は一般的に、軽度かつ一時的な症状に使用されるものであり、治療が長期になりそうなときや症状がひどい場合には、医療機関への受診勧奨が必要です。
症状の詳細や経過、今までの対応について聞き取り、OTC医薬品では対応が困難と判断したら、その理由とともに受診が必要な旨を説明しましょう。
4-3.副作用への対応について説明する
患者さんの中には「市販薬だから副作用は起きないだろう」と考えている方もいます。そのため、販売時に副作用について伝えておくことが重要です。
どのような副作用が起こり得るか、また副作用と思われる症状が出たときの対応方法などを伝えましょう。鎮痛剤なら食後に服用してもらうなど、副作用を起こさないための予防策もあわせて伝えると、患者さんの安心につながります。
また、眠気を起こす医薬品の場合、「してはいけないこと」の欄に「服用後、乗物または機械類の運転操作はしないでください」と記載があるため、副作用への注意喚起として必ず伝えましょう。
5.スイッチOTC医薬品を購入するときに注意すべきこと
OTC医薬品のパッケージや説明文書には、患者さん自身で安全に服薬管理ができるよう、服薬する際の注意事項が分かりやすく書かれています。患者さんの視点で、スイッチOTC医薬品を購入する際に注意すべき点について解説します。
5-1.対象となるスイッチOTC医薬品を服用しても問題ない状態かを確認する
持病や併用薬、アレルギー歴など今の健康状態から、服用できる医薬品かどうか、また、商品パッケージの「してはいけないこと」の欄で、自身に該当する項目がないかを確認します。
特にスイッチOTC医薬品の場合、医療用医薬品の禁忌欄と相違がある場合があるため、同じ成分の医療用医薬品を服用していても、該当する項目がないかを見ておくことが大切です。
5-2.用法・用量や取り扱い上の注意を確認する
商品パッケージに書かれている用法・用量を読み、自身の生活リズムに合っているかを確認します。1日3回の服用が困難な場合は、用法が1日2回の商品を選ぶと効果の持続性が期待できるでしょう。
また、点鼻薬などの外用薬のパッケージには、使い方の手順が記載されている場合があります。目を通してみて「使い方が難しそう」と不安に感じたら、薬剤師に相談して、使いやすい商品を選んでもらうのがおすすめです。
参照:Q6 市販のくすり(一般用医薬品・要指導医薬品)を使用する場合、どんなことに注意したらよいですか?|医薬品医療機器総合機構(PMDA)
6.セルフメディケーション税制との関係
一部のスイッチOTC医薬品を購入すると、「セルフメディケーション税制」と呼ばれる税制優遇を受けられます。「セルフメディケーション税制」はセルフメディケーション推進のために創設された医療費控除の特例であり、平成28年4月に施行されました。
健康の維持増進および疫病の予防のために一定の取り組みをしている個人が、その年中に自分または自分と生計を一にする配偶者その他の親族のために12,000円を超える対象スイッチOTC医薬品を購入した場合に、購入代を所得控除できます。
薬剤師として、スイッチOTC医薬品の販売時に「セルフメディケーション税制」についても説明できるとよいでしょう。
※参照:セルフメディケーション税制に関する資材・資料|日本薬剤師会
🔽 セルフメディケーション税制について解説した記事はこちら
7.スイッチOTC医薬品の適切な提案で、セルフメディケーションを推進しよう
スイッチOTC医薬品は医療用医薬品を転用したOTC医薬品です。有効性や安全性が確認されている成分とはいえ、医薬品である以上、乱用や依存、副作用には注意が必要です。
販売時には、商品のパッケージや説明文書を用いて、用法・用量、取り扱い上の注意などをしっかり説明し、副作用への注意喚起をした上で、適切に使用してもらえるように指導する必要があります。
また「セルフメディケーション税制」は一部のスイッチOTC医薬品を購入すると活用できる税制優遇です。患者さんからの問い合わせに対応できるよう、セルフメディケーション税制についても理解しておきましょう。
執筆/篠原奨規
2児の父。調剤併設型ドラッグストアで勤務する現役薬剤師。薬剤師歴8年目。面薬局での勤務が長く、幅広い診療科の経験を積む。新入社員のOJT、若手社員への研修、社内薬剤師向けの勉強会にも携わる。音楽鑑賞が趣味で、月1でライブハウスに足を運ぶ。
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