「卒後研修実施 病院の3割」名大病院薬剤部~山田氏ら調査
■標準カリキュラム案整備へ
全国の病院のうち、カリキュラムに基づく1カ月以上の薬剤師の卒後研修を実施している施設は約3割に達することが、山田清文氏(名古屋大学病院教授・薬剤部長)らの研究グループによる調査で明らかになった。医療従事者のうち、医師の卒後研修制度は確立されているものの、薬剤師の標準的な研修体制はないのが現状で、各病院の努力に委ねられている。こうした状況下でも、約3割の病院が卒後研修に取り組んでいることが判明した。今年度内に、標準的な薬剤師卒後研修カリキュラム案をまとめたい考えだ。
調査は、厚生労働行政推進調査事業費の補助金を得て、2019年度から3年間の期間で進行中の「薬剤師の卒後研修カリキュラムの調査研究」の一環として実施した。
日本病院薬剤師会の会員施設を対象に、昨年9~10月にアンケート調査を実施。1505施設から得た回答を解析した。
その結果、カリキュラムに基づく1カ月以上の薬剤師卒後研修を実施しているのは合計484施設で、全体の32%を占めていた。このうち薬剤師レジデントの研修を行っているのは42施設だった。一方、1017施設(68%)ではカリキュラムに基づく1カ月以上の研修を実施していなかった。
回答施設の属性を分析したところ、規模が大きく薬剤師数が多い病院ほどカリキュラムに基づく研修の実施率が高く、逆に規模が小さく薬剤師数が少ない病院ほど実施率は低かった。
アンケート調査を担当した橋田亨氏(神戸市立医療センター中央市民病院薬剤部長)は「薬剤師レジデントの研修状況は詳しく調べられているが、レジデント以外の研修の全体像はよく分かっていなかった。今回の調査で初めて実態を明らかにできた」と語る。
多くの施設では、オンザジョブトレーニング(OJT)で薬剤師の研修が行われているものの、カリキュラムに基づく研修は7割の施設で未実施だった。
橋田氏は「病院に就職した薬剤師の初期研修の機会が必ずしも均等に与えられていないのは問題」と指摘する。
一方、「3割の施設で実施されていたことは、各病院が研修プログラムを持つという考えを広める足がかりになる。一定のひな型を提示すればレジデント制度に移行してもらえる可能性がある」と期待を込める。
研究グループは19年度、今回の実態調査に加えて、米国の薬剤師レジデント制度の現地調査、卒後研修の評価項目や評価基準案の作成を行った。
20年度と21年度は、欧州の現地調査、薬剤師レジデント研修実施病院での評価基準案を用いた自己評価と相互チェックなどに取り組む計画。並行して、薬剤師の卒後研修標準カリキュラム案の作成を進める。
山田氏は「規模の大小に関わらず、どの施設でも実施できる必要最低限の標準的な薬剤師卒後研修カリキュラム案をまとめたい。できれば、今年度中にたたき台を提示したい」と意欲を語る。
今後、職能団体や学会、行政の関係者で卒後研修のあり方を議論する場も設けたい考え。
山田氏は、「薬物療法の高度化や複雑化が進む中、卒後研修は従来型のOJTでは不十分。しっかりとしたカリキュラムに基づく卒後研修を受けて、薬剤師が成長することが患者のメリットになり、チーム医療の向上にもつながる」と強調する。
標準的な研修体制を確立することによって、「卒前実習と卒後研修、専門薬剤師の研修を連動して実施できるようになり、多くの薬剤師が専門性を持って責任ある態度で薬物治療に臨むという流れができればいい」と話している。
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出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
医師の卒後研修制度は確立されているものの、薬剤師の標準的な研修体制はなく、各病院の努力に委ねられている現状にあり、全国病院のうち、カリキュラムに基づく1カ月以上の薬剤師の卒後研修を実施している施設が約3割に達することが、山田清文氏(名古屋大学病院教授・薬剤部長)らの研究グループによる調査で明らかになりました。調査は2019年度から3年間の期間で進行中の「薬剤師の卒後研修カリキュラムの調査研究」の一環として実施。日本病院薬剤師会の会員施設を対象に1505施設から得た回答を解析しました。規模が大きく薬剤師数が多い病院ほどカリキュラムに基づく研修の実施率が高く、逆に規模が小さく薬剤師数が少ない病院ほど実施率は低いという分析がされています。