OTC薬市場から消える「タケダ」~アジア展開の可能性選択
武田薬品が子会社の武田コンシューマーヘルスケア(TCHC)を米投資ファンドのブラックストーンに売却することを決めたことにより、武田の黎明期の成長を支えてきたOTC医薬品事業から事実上、撤退することになった。
TCHCは、武田のOTC薬事業を分社化する目的で2016年4月に設立され、17年4月から営業を開始した。当時は中期的に売上高1000億円を目指し、OTC医薬品業界再編を促していくという方針まで示していた。
同社の分社化については「OTC薬事業の切り離しに向けた準備ではないか」との見方は業界内にも少なからずあった。武田のクリストフ・ウエバー社長は事あるごとに「OTC薬事業の売却はない」とを強調していたが、結果として4年の期間を経て今回の売却という決断に至ったわけだ。
記者会見でウェバー氏は、武田がフォーカスする医療用医薬品と比較して、コンシューマーヘルスケア事業は投資のレベル、市場性についても異なる理解が必要で、収益の2%という事業に対する投資は難しいとの認識を示した。
実際、TCHCは営業開始初年度となる17年度の売上高826億円をピークに、その後は18年度799億円、19年度641億円、20年度608億円と減少の一途を辿っている。
こうした現状のもと、武田として「ノンコア」のコンシューマーヘルスケア事業を抱えるよりも、ブラックストーンへの事業売却によって、コア事業としてTCHCのビタミンB1誘導体製剤「アリナミン」や総合感冒薬「ベンザ」などのブランド成長拡大や、中国を中心としたアジア市場展開へとつながる可能性を選択した格好となる。武田は、市場が縮小する国内OTC薬市場からアリナミンを中心に海外に打って出る戦略で、特に中国での販売承認申請を進めていた。
一方、来年3月31日の株式譲渡完了後の新会社では、既存製品ブランドは存続していくものの、「武田」の名称は冠しないとされる。1943年に現社名の「武田薬品工業」となった時点から製品パッケージに印刷され、「ウロコマーク」として親しまれた製品群が、ドラッグストアや薬局・薬店の店頭から姿を消すことになる。
医療用医薬品市場でガリバーと呼ばれた武田は、OTC薬事業でも、かつては業界のリーディングカンパニーとして、医薬品卸や小売店までの流通対応で存在感を発揮していた時期もある。
今回、ブラックストーン側からはチャネルマネジメント改善やEコマースなどで全面的なバックアップの申し入れがあったという。今後は従来型とは大きく異なるリテール戦略が打ち出される可能性は大いにある。
かつては、店頭に配置するだけで売れるほどの広告宣伝費をかけて作り上げた「アリナミンブランド」を擁するタケダのOTC薬事業の終焉は、今後のOTC医薬品業界の再編などの動向に大きく影響を与えていくものと見られる。
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出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
武田薬品が子会社の武田コンシューマーヘルスケア(TCHC)を米投資ファンドのブラックストーンに売却することを決定。武田の黎明期の成長を支えてきたOTC医薬品事業から事実上、撤退することになった。2016年のTCHC設立後も武田のクリストフ・ウエバー社長は「OTC薬事業の売却はない」と強調していましたが、結果として4年の期間を経て今回の売却という決断に至りました。ブラックストーンへの事業売却により、コア事業としてTCHCの「アリナミン」「ベンザ」などのブランド成長拡大や、中国を中心としたアジア市場展開へとつながる可能性を選択した格好に。1943年に現社名の「武田薬品工業」となり、「ウロコのマーク」として親しまれきた製品群が、ドラッグストアや薬局・薬店の店頭から姿を消すことになります。