遠隔で病院実習に対応~各施設工夫も臨場感に課題
日本医療薬学会年会の緊急企画シンポジウムでは、コロナ禍での薬学生の病院実務実習をめぐって議論した。感染拡大を防ぐために各病院は、テレビ会議システムで薬学生が現場を見学したり、他職種と対話する機会を設けるなど様々な工夫を凝らして対応したが、「現場の臨場感を十分に伝えられず、遠隔実習の限界も感じた」との感想が聞かれた。一方で、いち早く薬学生を現場に受け入れた病院からは「近年になく薬学生は気合いが入っているように見え、教育の効果は高かった」との声が上がった。
金沢大学病院は、9月中旬までは基本的に遠隔で薬学生の実務実習を行った。学生は自宅からテレビ会議システムで参加。調剤や医薬品管理、DIなど各種業務を資料で学び、提示された課題に回答したり、具体的な症例の課題解決策を考えるなどしたほか、学生間で症例検討のスモールグループディスカッション(SGD)を実施した。
現場の臨場感を伝えるために、テレビ会議システムで薬学生が薬剤部の中央業務を見学する機会や、医師や看護師、管理栄養士らから薬剤師への期待などを聞き取る機会も設けた。
遠隔ではなく実地で、▽患者の痛みを知る▽病院内での薬剤師の立ち位置を実感する▽電子カルテ等を利用して患者背景を把握する――ことを学んでほしいとして、実地での実習は最短でも2日間を確保した。
同院薬剤部の嶋田努氏は「遠隔実習について、学生からはSGDが有用だった、他職種の話が聞けたことは良かったと評価する声がある一方、臨場感に欠けるという指摘もあった」と報告。「遠隔実習には限界があり、実際に手を動かす調剤や製剤、混合調製などは経験できなかった。現場の空気感を伝えるまでにはいかなかった」と話した。
名古屋大学病院も、基本的に遠隔で実務実習に対応した。テレビ会議システムでの講義や課題提示、学生間のSGDなどを実施したほか、模擬患者に服薬指導する場を設けるなど工夫した。
同院薬剤部の千崎康司氏は、一定の手応えを得たものの「遠隔実習の限界も感じている」と報告。「病棟をはじめとした医療現場の雰囲気を伝えられない。多職種との連携や患者との関わりなど、医療現場の緊張感や充実感は伝わりにくい」と課題を語った。
一方、7月初旬からいち早く薬学生の受け入れを開始した千葉大学病院薬剤部の石井伊都子氏は「学生は毎日緊張していて、近年になく実習に気合いが入っているように見えた。目の輝きも違った。これまでの実習は何だったのかと思うほど教育効果は高かった」と振り返った。
同院では7月初旬以降、薬剤部の中央業務を中心に実地で約6週間の実習を行っている。病棟実習の一部は、遠隔での症例検討会として年明けに実施する計画だ。
石井氏は「実地での実習をなしにはさせたくない。少しだけでも体験させたいと考えた」と言及。「看護学部の学生は10月まで実習を再開できなかったが、薬学生が実習を再開できたのは、患者に接する病棟実習をしないと約束したことが大きかった。薬剤部の事業継続計画(BCP)作成と同時に学生実習のBCPを作成したことも影響した」と話した。
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出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
深刻さを増す新型コロナ禍にあって、各分野において実務実習の遂行が困難になっている中、日本医療薬学会年会の緊急企画シンポジウムで、薬学生の病院実務実習をめぐって議論が行われました。各病院は感染拡大を防ぐために、テレビ会議システムで薬学生が現場を見学(金沢大学病院)したり、他職種と対話する機会を設けるなど様々な工夫を凝らして対応しましたが、「現場の臨場感を十分に伝えられず、遠隔実習の限界も感じた」との感想が聞かれました。一方で7月初旬からと、いち早く薬学生を現場に受け入れた病院(千葉大学病院薬剤部)からは「近年になく薬学生は気合いが入っているように見え、教育の効果は高かった」との声が上がっています。