古くから語り継がれている物語には、さまざまな植物がそのストーリーの重要な鍵を握る存在として登場します。たとえば、グリム童話の『ラプンツェル』は、子供を身ごもった女性が隣の家の菜園に生えている植物の「ラプンツェル」が食べたくなり、夫が盗みに入るところから物語が始まります。その家に住む魔法使いから、ラプンツェルを食べる代わりに生まれた子供を渡すよう要求され、生まれた女の子はラプンツェルと名づけられて魔法使いに育てられることになるのです。
入口のない塔に閉じ込められ、窓から長い金髪を垂らすエピソードは有名ですが、本書ではここに登場するラプンツェルという植物の正体を考察することにページが割かれています。これには諸説あり、オミナエシ科のフェルトザラーという植物が最も有力ですが、キキョウ科の「ラプンツェル・グロッケングルーメ」であるという説や、同じくキキョウ科の「悪魔のかぎ爪」という名前の植物という説もあるとのこと。そして、この「悪魔のかぎ爪」がラプンツェルであると仮定した場合、母親がそこまでラプンツェルという植物を求めたのは、悪魔のかぎ爪に引っかけられて悪魔に魅入られたから、つまり、生まれた子供であるラプンツェルの本当の父親は悪魔だという説も紹介されています。
これらのエピソードからは、現代のような医薬品が登場するはるか前から人々が自然の中に存在するさまざまな植物の効果を知っており、それを生活の中に生かしていたこと、そして、それらの植物がごく日常的なものとして定着していたことがうかがえます。
現在は化学的に合成されて作られている医薬品も、その多くは植物から抽出した成分が起源です。薬剤師として日常的に接する薬の原点を知るきっかけにもなりますし、ちょっとした息抜きの時間に読んでみても面白いかもしれませんね。