病院排水の抗菌薬を浄化~施設内オゾン処理装置で【国立感染症研究所】
感染研グループが実証
国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センター長の黒田誠氏らの研究グループは、病院の排水中に含まれる薬剤耐性菌や抗菌薬を、病院施設内に設置したオゾン処理装置によって不活化できることを実証した。大規模な装置で効果を示したのは世界で初めて。今年度中に社会実装を見据えた実証実験を行う計画で、薬剤耐性(AMR)対策のうち、環境を浄化する手段の一つとして確立したい考えだ。
研究グループは、東邦大学医療センター大橋病院の排水タンクに実験用の処理タンクを併設。病院から排出される糞便や尿を含む下水を1000Lの処理タンクに引き込み、オゾン処理による浄化を試みた。水に溶けにくいオゾンを微細な泡として水中に放出する装置で排水を処理し、浄化の可能性を検証した。
その結果、下水処理場で実施している前処理を行わなくても、直接オゾンで処理することで、臨床的に問題のある薬剤耐性菌と抗菌薬を20~40分以内に不活化できることが分かった。
黒田氏は「腸内細菌系でセフェムやカルバペネムの薬剤耐性菌がどこまで減ったかを主に評価した。病原性が高く、耐性度も高い菌を20分以内にほぼゼロに近い形で不活化し、問題になる菌は速やかに処理できた」と語る。
抗菌薬は、臨床現場で汎用される14種類を対象に不活化の程度を評価した。研究グループの東剛志氏(大阪医科薬科大学薬学部衛生化学研究室助教)の実験では、セフジニル、レボフロキサシン、クロルテトラサイクリン、バンコマイシンなどは10分間の処理で約90%を不活化できた一方、アンピシリンとクラリスロマイシンは不活化に時間を要することが明らかになった。東氏は「総合的には驚異的な早さ。非常に短い時間で不活化できることが分かった」と話す。
AMR対策の推進には、医療機関の理解と実践が欠かせない。今回の研究も病院側の前向きな協力によって実現した。同院副院長の渡邉学氏(東邦大学医学部医学科外科学講座一般・消化器外科学分野教授)は、「病院の汚染度が公表される形になるため心配したが、理事長が『AMR対策として重要であるため、ぜひやりなさい』と理解を示してくれて、実行できた」と振り返る。
AMR対策のワンヘルス・アプローチを推進する上で、環境の浄化は重要とされている。下水処理場で浄化が行われているものの、処理水には薬剤耐性菌や抗菌薬が含まれており、完全には不活化できていないことが明らかになってきた。発生源の病院で薬剤耐性菌や抗菌薬を軽減した上で排水し、下水処理場の負荷を減らせば、結果的に環境への流出を抑制できると考えられている。
こうした背景のもと、研究グループは約3年前から日本医療研究開発機構(AMED)などの支援を得て研究に取り組んできた。今回の成果をもとに、今年度は社会実装を目指し、さらに一歩踏み込んだ実証実験を行う。
同院の全排水を対象に、常時オゾンと紫外線で浄化する連続式の処理を行い、効果を検証する計画だ。病院の排水は常時、下水タンクに流れ込んでおり、タンク内の上澄みが下水管へと流出している。閉鎖式の実験系で評価した今回の研究とは異なり、流入と流出が連続する実際の下水システムで効果を確かめる。
黒田氏は「これがうまくいかないことには社会実装にならない。1週間、2週間、1カ月間と処理し続けるうち、次第に不活化されるイメージになる」と語る。今秋頃に実験を開始し、半年後をメドに結果を公表したい考えだ。
今回の研究で効果が認められれば、将来はAMR対策の一環として、各病院がオゾンと紫外線の下水処理装置を設置する展開になる可能性がある。
現時点では不透明だが、装置は500万円以下で入手可能になる見通しで、病院にとって大きな負担にはならない。将来的には、装置を普及させるために病院のインセンティブをどう設定するかも課題になってきそうだ。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センターにより、病院の排水中に含まれる薬剤耐性菌や抗菌薬について、病院施設内に設置したオゾン処理装置によって不活化できることが実証されました。今年度中に社会実装を見据えた実証実験を行う計画で、薬剤耐性(AMR)対策のうち、環境を浄化する手段の一つとして期待されます。