薬剤師・薬局の仕事は、一般の利用者の立場からは分かりにくい部分も多いかもしれません。薬剤師・薬局に関する素朴な疑問について、薬剤師さんに詳しく解説してもらいました!
薬剤師がいないと買えない薬があるのはなぜ?
健康被害から皆さんを守るために薬剤師の説明が必要だからです
探していた薬をようやく見つけ、レジに持っていったら、「少々お待ちください。薬剤師を呼んでまいります」と待たされた経験はありませんか? そう、薬局には薬剤師しか販売できない医薬品があるのです。
薬局で販売されている医薬品は、医師による処方箋がないと入手できない「医療用医薬品」と区別して「一般用医薬品」、あるいは「OTC(over the counter:カウンター越しに)」と呼ばれています。
一般用医薬品は、製品に配合される主な成分のリスク(健康被害の程度)の高さによって、以下の3つに分類されています。
● 第2類医薬品:まれに日常生活に支障を来す健康被害(入院相当以上)を生じるおそれがある成分
● 第3類医薬品:日常生活に支障を来すほどではないが、身体の変調・不調を起こすおそれがある成分
これらのうち、第1類医薬品は薬剤師しか販売できません。第1類医薬品の中でも、もともと医療用医薬品として使われていて、比較的安全性が高く市販しても差し支えないと判断されたものは「スイッチOTC」と呼ばれています。代表的なものとして挙げられるのは、解熱鎮痛薬やH2ブロッカー胃腸薬などです。
そしてもうひとつ、「要指導医薬品」というものも薬剤師しか販売できない医薬品です。要指導医薬品とは、スイッチOTCのうち、リスクが確定していないものや劇薬のことで、要指導医薬品に指定後、原則3年たつと第1類医薬品へ移行する決まりとなっています。
参照:薬剤師として知っておくべきOTC医薬品の制度|豊島区薬剤師会
これらの医薬品の購入者に対して、薬剤師は添付文書(当該医薬品の使用方法や副作用などの情報を提供するため、製造販売業者が作成する書面)を基本として積極的に情報を提供します。その際、状況を的確に把握するため、購入者に以下のような質問をします。
● 使用する対象者
● 服用してはならない人ではないか
● 医師などによる治療を受けているかどうか
● 使用前に医師・薬剤師などに相談する必要がある人かどうか
購入者からの返答を受けて、薬剤師は必要な情報を提供します。また、購入後の適正な使用のために、以下のような情報も提供します。
● 併用してはならない薬剤に関する情報
● 副作用が発現したと思われる場合は、直ちに使用を中止し、医師・薬剤師などに相談すること
● 一定期間服用しても病状が改善しない場合は、医師・薬剤師などに相談すること
● 一定期間服用しても病状が改善せずに悪化した場合は、医療機関での診察を受けること
● 後日相談するために必要な薬剤師の氏名や連絡先
薬剤師は、購入者自身がその時点で使用する場合の他、購入後の別の時期に使用する場合や、購入者の家族などが使う場合なども考慮して情報提供することになっています。
参照:情報提供等の内容・方法について|厚生労働省
薬局などは必要事項を書面に記載し、記録を取ることが義務付けられているので、購入者は情報提供の内容を理解した旨のサインを求められることがあります。
参照:薬局や薬店で購入できる医薬品の販売方法について|大阪市
電磁的記録でもよいことになっているので、タブレットでサインをした経験のある方もいるかもしれませんね。
これらのことは、購入者から「継続使用であり説明の必要はない」という意思表示があり、薬剤師が適正に使用できると判断した場合は除外されます。
参照:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 第三十六条の十 一般用医薬品に関する情報提供等|e-Gov 法令検索
薬剤師の説明が必要な医薬品の販売における決まりは、インターネット販売でも同様です。ちなみに、要指導医薬品はインターネットでは購入できません。
参照:薬局や薬店で購入できる医薬品の販売方法について|大阪市
また、要指導医薬品や第1類医薬品は薬局店舗での置き方も区別されているので、購入者にもリスクの違いが分かるようになっています。
医薬品の外箱にも「要指導医薬品」「第1類医薬品」とハッキリ表示されていますね。そのくらい、これらの医薬品は注意して使わなくてはならない薬なのです。
医療機関で医師から処方される医薬品と違い、薬局で購入する医薬品を一度の機会に全部使うことはまれだと思います。薬剤師は、そのことも考えて情報提供しています。
急ぐ気持ちも分かりますが、どうぞ薬剤師の声に耳を傾けてください。薬剤師は、皆さんの健康な生活を守るために働いているのですから。
東北大学薬学部卒業後、ドラッグストアや精神科病院、一般病院に勤務。現在はライターとして医療系編集プロダクション・ナレッジリングのメンバー。専門知識を一般の方に分かりやすく伝える、薬剤師をはじめ働く人を支えることを念頭に、医療関連のコラムや解説記事、取材記事の制作に携わっている。
ウェブサイト:https://www.knowledge-ring.jp/