医療薬学専門薬剤師とは、薬物療法について幅広い知見を持ち、教育や研究活動を行っている薬剤師を認定する資格のことです。専門薬剤師の資格にはさまざまなものがありますが、医療薬学専門薬剤師は、領域にこだわらず幅広い疾患や薬物治療の知見を深めたい薬剤師に向いている資格といえるでしょう。
医療薬学専門薬剤師になるには、一定以上の薬剤師経験や認定薬剤師の取得、実務研修などの要件を満たした上で、認定試験に合格する必要があります。本記事では、医療薬学専門薬剤師の概要、申請資格の要件、認定試験や実務研修の内容、研修会などのクレジットについて解説するとともに、合格率や難易度、更新方法、医療薬学指導薬剤師についてもお伝えします。
1.医療薬学専門薬剤師とは?
医療薬学専門薬剤師とは、日本医療薬学会が実施する認定制度で、広範な薬物療法について一定水準以上の実力があり、かつ臨床経験に基づく教育、研究活動を行っている薬剤師を認定します。
参照:一般社団法人日本医療薬学会医療薬学専門薬剤師認定制度規程|日本医療薬学会
日本医療薬学会のウェブサイトでは、医療薬学専門薬剤師の認定者名簿が公開されており、2025年4月時点で認定者の人数は1,531人となっています。
参照:医療薬学専門薬剤師認定者名簿|日本医療薬学会
2.医療薬学専門薬剤師になるには
医療薬学専門薬剤師になるには、申請資格の要件を満たした上で、認定試験に合格しなければなりません。ここでは、資格要件や試験内容、講習会や研修会などのクレジット、実務研修の内容についてお伝えします。
2-1.申請資格の要件
医療薬学専門薬剤師の申請資格は、以下のとおりです。
資格・経験 | ● 日本国の薬剤師免許を有すること ● 薬剤師として優れた人格と識見を備えていること ● 申請時において、引き続き5年以上継続して日本医療薬学会の会員であること ● 以下のいずれかの認定を受けていること 1. 日本薬剤師研修センター研修認定薬剤師 2. 日本病院薬剤師会日病薬病院薬学認定薬剤師 3. 日本薬剤師会生涯学習支援システム(JPALS)クリニカルラダー5以上 4. 日本病院薬剤師会生涯研修履修認定薬剤師 ● 薬剤師としての実務経験を5年以上有すること ● 以下のいずれかの試験に合格すること 1. 日本医療薬学会が実施する専門薬剤師認定試験 2. 日本薬剤師研修センターが実施する生涯学習達成度確認試験 |
---|---|
実務研修 | 日本医療薬学会が認定する医療薬学専門薬剤師研修施設において、同学会の定めた研修ガイドラインに従って、1年以上の研修歴を有すること |
講習会・研修会など | 細則「別表1」で定めるクレジットを5年で50単位以上取得していること |
講義・年会への参加 | ● 専門薬剤師認定取得のための薬物療法集中講義に1回以上参加すること ● 日本医療薬学会の年会に1回以上参加すること |
事例報告 | 自ら実施した5年の患者アウトカムや医療の質向上に貢献した臨床実績10件を提出すること |
学会発表・論文投稿 | 以下の研究活動の条件を満たすこと ● 学会発表 1. 医療薬学に関する全国学会、国際学会あるいは別に定める地区大会での発表が2回以上あること 2. 日本医療薬学会が主催する年会において本人が筆頭発表者となった発表を含んでいること ● 論文投稿 1. 医療薬学に関する学術論文が2報以上あり、本人が筆頭著者である論文を1報以上含むこと 2. 学術論文は、国際的あるいは全国的学会誌・学術雑誌に複数査読制による審査を経て掲載された医療薬学に関する学術論文あるいは症例報告であること ※編集委員以外の複数の専門家による査読を経ていない論文や商業誌の掲載論文は対象外 |
参照:医療薬学専門薬剤師(正規認定) 認定申請|日本医療薬学会
医療薬学専門薬剤師の申請に必要な費用は、認定審査料11,000円(税込)、認定料22,000円(税込)です。
2-2.試験内容
医療薬学専門薬剤師の資格を取得するためには、以下のいずれかの試験に合格する必要があります。
● 日本薬剤師研修センターが実施する「生涯学習達成度確認試験」
両試験は、試験問題、試験日、試験時間、合格基準については共通しています。両試験の違いは、以下のとおりです。
専門薬剤師認定試験 | 生涯学習達成度確認試験 | |
---|---|---|
試験会場 | 東京都内(1カ所のみ) | 全国7カ所(予定) |
受験料 | 不要 | 必要 |
参照:医療薬学専門薬剤師(正規認定) 認定申請|日本医療薬学会
居住地などによって専門薬剤師認定試験の受験が難しい場合には、生涯学習達成度確認試験を受験することになるでしょう。過去に実施された生涯学習達成度確認試験にすでに合格している場合は、合格証のコピーを提出することで認定試験の受験が免除されます。
また、試験範囲は14項目に分かれています。日本医療薬学会のホームページでは、出題ガイドラインや出題範囲分類ごとの出題予定数、例題が確認できます。参考図書も提示されているため、資格取得を目指す場合は試験前に確認しましょう。
参照:認定試験 | 日本医療薬学会

2-3.講習会や研修会などのクレジット
医療薬学専門薬剤師になるために取得が必要なクレジットについては、以下のように定められています。
研修会などの種類 | 参加 | 筆頭発表 | 共同発表 | |
---|---|---|---|---|
1 | 日本医療薬学会年会 | 10単位 | 5単位 | 2単位 |
2 | 専門薬剤師認定取得のための薬物療法集中講義 | 15単位 | ||
3 | がん専門薬剤師集中教育講座 | 15単位 | ||
4 | 医療薬学公開シンポジウム | 5単位 | 5単位 | 2単位 |
5 | フレッシャーズ・カンファランス | 5単位 | 5単位 | 2単位 |
6 | 臨床研究セミナー | 5単位 | 5単位 | 2単位 |
7 | 上記以外の日本医療薬学会が主催するセミナー※1 | 1単位/1時間 | ||
8 | 医療薬学関連の全国学会 | 5単位 | 3単位 | 2単位 |
9 | 医療薬学関連の地方学会 | 5単位 | 3単位 | 2単位 |
※1:日本医療薬学会が認定したもの。
学術論文の種類 | 筆頭発表 | 共同発表 | |
---|---|---|---|
1 | 医療薬学関連の日本語論文(査読あり) | 10単位 | 5単位 |
2 | 医療薬学関連の英語論文(査読あり) | 20単位 | 10単位 |
3 | 医療薬学誌あるいはJPHCS誌の投稿論文査読※2 | 0.5単位 |
※2:1報につき、不採択であっても対象となる。
参照:一般社団法人日本医療薬学会医療薬学専門薬剤師認定制度規程細則|日本医療薬学会
2-4.実務研修の内容
医療薬学専門薬剤師を取得するためには、日本医療薬学会が認定する研修施設で平均月4日相当以上かつ1年以上の研修を受けなければなりません。
実務研修は随時受け付けられていますが、研修開始予定月の3カ月前の末日までに届出書を提出することとされています。契約手続きが完了するまで研修は受けられないため、資格取得を目指す場合は計画的に手続きを進める必要があるでしょう。
また、実務研修では、医療薬学専門薬剤師に求められる態度や知識、技能の修得・向上を研修到達目標としています。
例えば、「医療における薬剤師の役割を理解し、医療従事者との良好な意思疎通を図る」といった薬剤師として身に付けるべき基本的な姿勢や、「最新医薬品情報や臨床情報、ガイドラインなどの情報収集や論文評価」「医療におけるクリニカル・クエスチョンを見出し、クリニカル・リサーチを作り上げる」など、医療薬学専門薬剤師に求められる知識や技能の修得を目的とした目標が掲げられています。
参照:連携研修に係る契約手続き等のご案内(病院・薬局所属者用)|日本医療薬学会
参照:医療薬学専門薬剤師 研修到達目標|日本医療薬学会

3.医療薬学専門薬剤師認定試験の合格率と難易度
前述したとおり、医療薬学専門薬剤師になるためには、日本医療薬学会が実施する「専門薬剤師認定試験」または日本薬剤師研修センターが実施する「生涯学習達成度確認試験」の合格が必要です。
生涯学習達成度確認試験については、受験者数と合格者数が公開されています。2024年に実施された第8回薬剤師生涯学習達成度確認試験は、受験者236名のうち合格者が127名で、合格率は53.8%でした。
参照:薬剤師生涯学習達成度確認試験について|日本薬剤師研修センター
日本医療薬学会のホームページで公開されている例題からも、医療薬学専門薬剤師には幅広い知識が求められていることが伺えます。合格率や申請資格の要件などを踏まえると、取得難易度が低い資格とはいえないため、十分な準備と対策を行いましょう。
4.医療薬学専門薬剤師の更新方法
医療薬学専門薬剤師の認定期間は5年です。資格更新のためには、申請時における認定期間中に以下の更新要件を満たす必要があります。
更新申請に必要な費用は、更新審査料16,500円(税込)のみです。また、産前産後休暇や育児休暇、病気療養などの理由で更新要件を満たさない場合は、更新保留申請を行うことで、最長5年間まで更新を保留することができます。
参照:医療薬学専門薬剤師 更新申請・更新保留申請|日本医療薬学会
5.医療薬学指導薬剤師とは?
医療薬学指導薬剤師とは、医療薬学専門薬剤師の上位資格で、医療薬学専門薬剤師としての経験に基づいた知識やスキルと豊富な研究実績があり、医療薬学の実践、教育、研究において指導的な能力があると認められた薬剤師が認定されます。
参照:一般社団法人日本医療薬学会医療薬学専門薬剤師認定制度規程|日本医療薬学会
医療薬学指導薬剤師の申請資格の要件は、以下のとおりです。
資格 | ● 医療薬学専門薬剤師(旧認定薬剤師を含む)として5年以上医療現場や大学で活動していること ● 5年継続して日本医療薬学会の会員であること ※申請時において他の医学系学会の会員であることが望ましい |
---|---|
研修・講義への参加 | ● 細則「別表1」に定めるクレジットを5年で50単位以上取得していること ● 医療薬学専門薬剤師である期間に、専門薬剤師認定取得のための薬物療法集中講義に1回以上参加したこと |
学術論文 | ● 複数査読制のある国際的あるいは全国的学会誌・学術雑誌に掲載された医療薬学に関する学術論文が10報以上(症例報告を含む) ※編集委員以外の複数の専門家による査読を経ていない論文や商業誌の掲載論文は対象外 ● 本人が筆頭著者である論文を1報以上含むこと |
学会発表 | ● 国際学会、全国学会、あるいは別に定める地区大会における医療薬学に関する学会発表が10回以上 ● 日本医療薬学会が主催する年会において本人が筆頭発表者となった発表を含んでいること |
医療薬学指導薬剤師の認定申請に必要な費用は、認定審査料が5,500円(税込)、認定料が11,000円(税込)です。日本医療薬学会のホームページより申請書類をアップロードして審査を受けます。
参照:医療薬学指導薬剤師 認定申請|日本医療薬学会

6.医療薬学専門薬剤師を目指そう
医療薬学専門薬剤師になるためには、薬物療法に関するさまざまな知識やスキルを身に付ける必要があります。領域にこだわらず幅広い医療薬学の知見を身に付けたい薬剤師に向いている資格なので、薬物治療の知見を広げたい場合は資格取得を目指してみてはいかがでしょうか。
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薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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