著者は自ら開局した「アスカ薬局」の薬剤師として長年従事し、調剤とともにOTC医薬品にも長く携わってきました。そんな著者ならではの視点で、大衆薬の持つ強みや限界について、ときには歴史を振り返り、ときには著者自身の経験を語りながら、薬局の持つ役割や薬局のあり方についての考えを紹介しています。
処方せんなしで買えるOTC医薬品は、処方薬と比較すると効能や使用できる薬剤が限られており、それだけでは対処できない症状や病気も数多くあります。しかし、OTC医薬品独自の強みも存在するというのが、著者の考えです。そのことは、著者が阪神・淡路大震災の発生時に支援に携わった経験のなかによく表れています。避難所には全国からたくさんの医薬品が集まっていたものの、薬剤師が調剤を行うための天秤や投薬ビンといった器具がなく、子どもなどへの調剤ができない状況でした。冬ということもあり、避難所には風邪の患者さんがたくさんいました。そこで、計量カップの付いたOTC医薬品の風邪シロップを利用することで対処したのです。
このように、OTC医薬品の強みを挙げる一方で、薬局に相談に訪れた患者さんにOTC医薬品を販売するか、病院の受診をうながすかの判断の重要性も強調しています。的確で迅速な判断のためには、OTC医薬品の限界そして薬剤師や薬局の限界を知ることが大切だと著者は説きます。長年にわたって現場に携わってきた著者だからこその説得力のある見解は、薬剤師として仕事をするうえで参考になることが多いのではないでしょうか。
また、本書では著者が独自に開発した副作用管理システム「十文字(じゅうもじ)システム」も紹介されています。これは、レセプトコンピューター内の処方歴に、薬の副作用を十文字に並べた頭文字で表示することで、薬剤師が副作用情報を把握しやすくするための仕組みです。具体的な活用例も数多く掲載されているので、実際に活用してみたいという場合にも役立ちそうです。
写真の美しさも本書の魅力のひとつ。古くから使用されている製薬用具や有形文化財に指定されている薬局、海外の薬局の看板など、薬学の歴史を知るうえで役に立つ貴重な写真が数多く掲載されています。
著者は仏教にも造詣が深く、「くすり」という言葉は「苦をすり減らす」から来ているという説も紹介されています。そこから苦とは何かという話が展開されるなど、薬剤師としての業務にとどまらない「生とは何か」「死とは何か」というテーマが散りばめられています。薬剤師という仕事についてだけでなく、人生について、生きるということについて考える助けにもなる1冊です。