患者ケア支援ツール開発‐日本でも臨床研究開始へ
カナダにあるアルバータ大学のロス・ツユキ教授、岡田浩氏(京都大学・京都医療センター)らの研究グループは、薬局薬剤師の患者ケアを支援するツールの効果を検証する臨床研究を日本で開始する。このツールは、来局した糖尿病患者の処方薬、検査値、治療歴などのデータを専用のウェブサイトで入力すると、エビデンスに基づいてその患者の心血管疾患発症リスクを表示。血圧などをどれだけ下げればそのリスクがどの程度低くなるのかを自動的に計算して表示するもの。薬局薬剤師はこのツールを活用し患者の生活習慣の改善などを支援する。臨床研究は今年夏頃から開始する予定で、薬局薬剤師の幅広い参加を求めている。
ツールの名称は「RxINGプラクティスツール」。糖尿病患者が来局すると薬局薬剤師は初回面談時に様々な事項を聞き取り、専用のウェブサイトに入力する。治療歴や家族歴、体重や血圧値、HbA1c値、コレステロール値、喫煙の有無、現在の処方、アドヒアランスや副作用の状況などを入力すると、エビデンスをもとにその患者の心血管疾患発症リスクが表示される。
さらに、コレステロール、血圧、喫煙、HbA1cの4要素がそれぞれ心血管疾患発症リスクにどの程度関与しているのかを円グラフで表示。画面上のスライドバーを操作し4要素の数値をそれぞれ変動させると、それに連動して心血管疾患発症リスクの数値も変わる。どの要素をどこまで改善したら、リスクがどれだけ下がるのかがひと目で分かる仕組みだ。
このツールを活用して薬局薬剤師は患者と対話し生活習慣の改善などを支援する。次回面談時にも検査値などを入力し、継続してフォローする。
ツユキ教授らが開発したこのツールの効果を検証する臨床研究は既にカナダで始まっている。現在はアルバータ州の50薬局が参加。現時点での解析では、67人の糖尿病患者を対象に薬局薬剤師がツールを活用し、生活習慣改善支援や情報提供、処方変更、患者教育などを行ったところ、使用開始から3カ月で血圧やHbA1c、LDLコレステロールが低下。心血管疾患発症リスクも低くなった。
日本での臨床研究に向けてツユキ教授と岡田氏がこのほど来日。関東や関西のチェーン薬局などを訪問しツールの特徴などを説明した。今後は、日本の環境に応じた日本版ツールを作成した上で、今年5~6月頃をメドに改めて説明会を開き、臨床研究への参加を呼びかける計画だ。説明会に併せて、患者の行動変容を支援するコミュニケーション方法の講習も実施したい考え。
臨床研究に参加する薬局薬剤師にはこのツールを使って糖尿病患者を支援してもらい、心血管疾患発症リスクの変化などを1年間追跡する。このツールは、各患者データの登録を自動的に行うため、蓄積されたデータを解析すれば、薬局薬剤師の介入効果を容易に数値化できる。
このツールは今後、カナダの他の州にも段階的に広がる見通し。オーストラリア、ニュージーランド、アイルランドなどにも広がる可能性がある。糖尿病患者の次には高血圧患者を対象に、ツール活用の効果を検証する計画もある。
ツユキ教授は「コントロール不良の生活習慣病患者がたくさんいる。その患者のケアが良くなるように、薬剤師の業務を支援するツールを作りたかったというのが第一の目的。第二の目的は、薬剤師の介入によるエビデンスを作るため」と話す。心血管疾患発症リスクの低下に加え、患者満足度の向上が期待できるという。
臨床研究に参加する薬局の利用料は無料だ。「ツールの作成や維持にお金はかかるが、薬剤師が自由に使えるようにしたい。公的機関やチェーン薬局、薬剤師会などからの支援を期待している」とツユキ氏は語る。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
カナダのアルバータ大学のロス・ツユキ教授、岡田浩氏(京都大学・京都医療センター)らの研究グループが、薬局薬剤師の患者ケアを支援するツールの効果を検証する臨床研究を日本で開始します。
日本版ツールを作成した上で、今年5-6月をめどに日本で説明会を開き、ツールを使う臨床研究に参加する薬局を募集する予定です。
「RxINGプラクティスツール」というソフトウェアを使い、糖尿病の患者さんの情報を専用サイトに情報を入力すると、エビデンスをもとにその患者さんの心血管疾患発症リスクが表示され、原因となっている要素のうちどれをどれだけ改善すると、リスクがどれだけ下がるか図表で分かるようになっています。かかりつけ対応に有力なツールとなるかもしれません。
すでにカナダでは50薬局が参加しています。