豪バイオ企業、日本市場へ‐iPS由来のMSC細胞療法、来年にもGVHDで第II相
オーストラリア発バイオベンチャー「サイナータ・セラピューティクス」は、日本で他家ヒトiPS細胞由来間葉系幹細胞(MSC)を用いた細胞療法の開発を進め、来年にもパートナー企業の富士フイルムと移植片対宿主病(GVHD)を対象とした第II相試験を始める。治験での結果が良ければ、通常の承認申請ではなく、期限付き条件付き早期承認を狙う予定だ。ロス・マクドナルドCEOは本紙のインタビューに対し、「日本が世界でも最初の上市国になるのではないか」と日本を皮切りに国際展開に乗り出す方向だ。重症四肢虚血(CLI)を対象としたMSCの治験についても、実施計画を規制当局と協議中。GVHDとCLIを合わせた全世界での売上高は最大年約17億ドルを見込むなど市場を開拓する。
同社はオーストラリア証券取引所に上場し、健康成人から採取したiPS細胞を由来とし、MSCを作製。米国では第I・II相試験で使われる治験薬の生産プラットフォームを構築している。富士フイルムと資本業務提携を行っており、サイナータの発行済み株式のうち、富士フイルムが8%を保有し、開発や商業化のライセンス権を導出している。
マクドナルド氏は、MSCの世界戦略について、「承認までのプロセスが最も速い英国で第I相試験を行い、世界各国でその後の試験を進める」との方針を打ち出す。世界で最初の上市国として検討しているのが日本市場だ。
サイナータで最も先行する開発パイプラインがGVHDを対象としたMSCである。GVHDを適応とする他社製品では、JCRファーマがテムセルの製品名で販売。実用化した場合でも、先行するテムセルを追いかける形となる。
ただ、テムセルが骨髄細胞からMSCを採取するのに対し、サイナータが開発中のMSCはヒトiPS細胞由来であるため、マクドナルド氏は「細胞の調達や製品品質、生産効率の面で有利」と製品特性で差別化を図り、対抗していく方針だ。
既にステロイド耐性のある急性GVHD患者15例を対象とした第I相試験では、MSCの安全性を確かめた。来年には富士フイルムが第II相試験を開始する予定だ。
GVHDを対象とした第I相試験で安全性が確かめられたことから、それ以外の適応症では第I相を省略し、第II相試験を実施するという選択肢も現実的となった。CLIを対象としたMSCの開発でも、第II相試験から治験開始を目指し、現在規制当局と治験計画の協議を進めている段階にある。
GVHDで最大年3億ドル、CLIで最大年約14億ドルの収益機会があると見込む。マクドナルド氏は、「MSCで世界をリードする会社になりたい」と述べ、オーストラリア発グローバルバイオ企業への大きな目標を掲げた。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
オーストラリアのバイオベンチャー「サイナータ・セラピューティクス」のCEOマクドナルド氏が来日。富士フイルムと共同で開発を進めるiPS細胞による細胞療法について語りました。日本市場を皮切りに、全世界で最大年約17億ドルの売上高を見込んでいるとのこと。