2018年 薬業界10大ニュース‐大変革の波に襲われた年に
2025年を目指した診療報酬・調剤報酬改定が行われた。調剤報酬は対人業務評価がさらに推し進められ、地域医療に実績のある薬局が一層評価されることとなった。また、薬価制度の抜本改革では、長期収載品の新ルール導入、新薬創出等加算の厳格化等々、極めて厳しい内容となった。次代に向けて、大きな変革期を迎えていることを実感させるものだ。ただ、10月には京都大学特別教授の本庶佑氏がノーベル医学・生理学賞受賞の一報が入り、明るい話題として注目された。平成最後の年末、恒例の薬業界10大ニュースを選んでみた。
対人業務評価がさらに鮮明‐調剤報酬改定、地域貢献実績を評価
2018年度診療報酬・調剤報酬では、「患者のための薬局ビジョン」が掲げる「対物業務から対人業務へ」「立地から機能へ」の方針に沿って、地域医療に貢献する薬局の実績を評価する「地域支援体制加算」(35点)、薬局が医療機関と連携して内服薬の処方を減らす取り組みを評価する「服用薬剤調整支援料」(125点)が新設された。
既存の「基準調剤加算」を廃止して新設した地域支援体制加算は、調剤基本料1(41点)を算定していない薬局であっても、地域医療に貢献している実績があれば、基本料の種類を問わず算定できるような要件にした。
ただ、常勤薬剤師1人当たり、▽夜間・休日等の対応400回▽重複投薬・相互作用等防止加算等40回▽服用薬剤調整支援料1回▽かかりつけ薬剤師指導料等40回――などの実績を求めており、基本料1を算定していないと同加算の取得は難ししく、現場からは「ハードルが高すぎる」との声も聞かれる。
16年度改定で新設された「かかりつけ薬剤師指導料」は70点から73点へ引き上げられ、薬剤師1人当たり月100件以上の同指導料を算定した場合に調剤基本料1へ復活できる特例除外規定を廃止した。薬剤服用歴管理指導料の点数も引き上げられた。
一方、調剤基本料の点数を低く設定した特例点数の対象範囲を拡大。敷地内薬局を想定した「特別調剤基本料」(10点)も新設した。多店舗展開している調剤チェーンや、医療モールなどを展開している薬局にとっては厳しい改定内容となった。
厳しい薬価の抜本改革‐製薬業界に大きな影響
薬価制度の抜本改革が4月から断行された。長期収載品の薬価を段階的に後発品まで引き下げる新たなルールが導入され、新薬創出等加算は革新性の高い新薬に絞り込むほか、効能追加に伴う市場拡大に対応するため、年4回の新薬収載の機会に再算定を行うことも決定するなど、厳しい内容となった。製薬業界は、特に新薬創出等加算の企業要件、品目要件に「新薬開発の意欲を削ぐ」と強く反発している。
実際に、4月の薬価改定は過去最大級の引き下げとなり、新薬創出加算の対象品目は要件を満たした品目数が大きく縮小するのみならず、後発品上市後10年が経過した長期収載品の新ルールが準大手、中堅企業を直撃した。中堅以下では二桁の引き下げが目立ち、甚大な影響を与える薬価改定となった。
さらに来年10月には、消費税率10%引き上げに伴う薬価改定が臨時的に実施される。閣僚折衝では薬価を0.51%引き下げることで合意し、実勢価改定分は0.93%の引き下げとなった。
国内医療用医薬品市場に対する不透明感が強まる中、既に経営計画を見直す企業が出始めているなど、経営環境の悪化に危機感が広がっている。2021年からは毎年薬価改定が実施されることも決まっている。薬価制度の抜本改革は、まさにいま、製薬業界は大きな転換期を迎えている。
本庶氏がノーベル賞受賞‐癌免疫療法の道を開く
本庶佑京都大学特別教授がノーベル医学・生理学賞を受賞した。受賞理由は、「免疫抑制の阻害による癌治療法の発見」。本庶氏は、T細胞のPD-1と結合して免疫の働きにブレーキをかける蛋白質を突き止め、免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」開発の道を開いた。日本人では5人目のノーベル医学・生理学賞受賞の快挙を達成した。
本庶氏は、1992年に異物を攻撃する免疫細胞の表面で働く蛋白質「PD-1」を発見。同蛋白質が免疫細胞の暴走を防ぐブレーキ役を果たしていることを解明した。2002年に癌治療効果を確認。その後、免疫チェックポイント阻害薬として実用化され、14年に小野薬品から「オプジーボ」が発売された。同剤は、悪性黒色腫の適応を皮切りに、肺癌、腎細胞癌、胃癌の効能が追加され、適応を拡大している。
腫瘍免疫という概念に長年付きまとった偏見を覆す研究を成し遂げた本庶氏の研究モットーは、「好奇心と、これまでの論文を簡単に信じないこと」
受賞会見での「基礎研究から応用につながるのは決して希ではない。基礎研究にきちんとしたシステムを確立し、長期的展望でサポートして若い人が人生をかけて良かったと思える国になるのが重要だ」との訴求は、若手研究者に希望と勇気を与えた。
薬機法改正方針まとまる‐来年の通常国会に改正案提出
厚生労働省の厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会が薬機法改正に向けたとりまとめ案を大筋で了承した。製薬業界などが求めていた「先駆け審査指定制度」「条件付き早期承認制度」の法制化をはじめ、添付文書の記載情報の原則電子化などを盛り込み、医薬品・医療機器への迅速アクセス、安全対策の充実を図る。
ディオバン事件など経済的利得を目的とした広告違反が相次いだことを踏まえ、経済的利得を目的に虚偽誇大広告を行った場合に「課徴金」を科す制度の導入も促した。
薬剤師・薬局に対して「服用期間中の継続的な薬学管理」を義務づける。現行で、薬剤師が患者に対して薬学的知見に基づく情報提供や指導を行う義務が規定されているのは「調剤時」のみのため、「薬剤の服用期間を通じて、必要な服薬状況の把握や薬学的知見に基づく指導を行う義務がある」ことを明確化する。
患者が薬局を主体的に選択できるようにするため、薬局が特定の機能を持っている場合に標榜できるようにする。具体的に、「在宅などにも対応し、地域でかかりつけ機能を発揮」「医療機関と連携して癌などの薬物療法を受けている患者の薬学管理を行う」といった機能が挙がっており、いずれの機能も持たない薬局は標榜できない。
厚労省は、2019年の通常国会に薬機法や薬剤師法の改正案を提出する。
武田、シャイアーを買収‐買収額は過去最大の7兆円
武田薬品がアイルランドのシャイアーを約460億ポンド(約6兆8000億円)で買収する。製薬業界だけではなく、日本企業として過去最大の買収案件となり、大きな注目を集めた。武田とシャイアーの合計売上高は、日本円で3兆4000億円超となり、世界の製薬企業売上ランキングで世界のトップ10入りを果たすことになる。
今回の買収劇をめぐっては、武田からシャイアーへの計5回にも及ぶ粘り強い提案により、ようやく合意に至った。日米欧中当局の手続きをクリアし、最大の懸案だった武田株主からの承認も得ることができた。来年1月には全ての手続きがまとまる見通しだ。
武田が目指すのは、新薬開発パイプラインの拡充と国際競争力の強化だ。重点疾患領域は、武田が得意とするオンコロジー・消化器系疾患・中枢神経系疾患に、シャイアーが強みとする希少疾患が加わる。武田が第I・II相、シャイアーは第III相が中心で、前期から後期まで相互補完的な開発パイプラインが構築できそうだ。
米国売上が全体の6割を占めるシャイアーの貢献で、統合会社の地域別売上で米国が48%、日本が19%と海外売上比率は81%まで高まる見通しだ。ただ、シャイアー買収で有利子負債は約6兆円に膨らむため、今後の企業運営における財務リスクを懸念する声も大きい。約7兆円の買収額に対する評価は、両社を統合し、早期段階から開発パイプラインを育て、より多くの新薬上市に結びつけられるかにかかっている。
4月に臨床研究法が施行‐特定臨床研究の実施体制整備
臨床研究法が4月1日に施行された。関係政令や施行規則等を定めた省令が公布され、厚生労働省は臨床研究法に基づく「認定臨床研究審査委員会」で審査を行うと共に、実施計画の提出などの届出手続きを行うための臨床研究実施計画、研究概要公開システムを公開した。
また、質疑応答集を都道府県に発出すると共に、特定臨床研究の手続きに関するチェックリストや実施計画の提出に関する方法を例示するなど臨床研究法に基づく「特定臨床研究」の実施体制を着々と整えている。
ただ、臨床研究法は、研究責任医師に治験と同様の責務を求めており、実施計画の作成からモニタリング、監査まで大きな負担が予想され、実際には特定臨床研究を実施できる施設は限られてくると見られる。製薬企業からは、特定臨床研究の結果を承認申請資料に活用したいとの意向が示されているが、現時点で厚労省は否定的な見解を示している。
まだ医療現場、製薬企業から特定臨床研究の範囲が分かりにくいとの声があるほか、認定臨床研究審査委員会が84に増加するなど、依然として法施行後の混乱が続いている状況にある。
厚労省は、引き続き通知発出等できめ細かな対応を行うと共に、今年度予算で認定委員会の審査能力向上を目指す事業を実施して審査の質向上を目指す予定だ。
MR数減少、歯止めかからず‐4年連続でマイナス
MR総数の減少に歯止めがかからない。MR認定センターがまとめた「2018年版MR白書」によると、今年3月末段階のMR総数が前年比752人減の6万2433人となり、14年度以降は4年連続で500人以上の減少となった。薬剤師資格を保有するMR数も大幅に減少し、調査開始以来、過去最低数となった。
ピークの13年度から比較すると、3000人強のMRが減った計算になる。製薬企業にとっては、患者数の多い生活習慣病での新薬が一巡し、難治性疾患が開発ターゲットになったことや、ITツールを活用したeディテーリングも営業現場に導入されるようになり、従来のようにMRの訪問回数を重視した情報提供手法が限界となってきた。
その一方で、女性MRの活用は進んでいる。248人増の9248人となり、前回調査では減少したが、増加に転じて過去最高となった。管理職でも同様の結果となるなど、働き方改革や女性活躍推進法などを背景に、製薬企業の営業職で女性の存在感が高まっている。MR総数に占める薬剤師MRの比率は9.3%と前年から0.9ポイント低下し、10%を割り込んだ。
医療用医薬品の不適切なプロモーションが相次いで報告されていることを受け、厚生労働省では明年4月に適切な販売活動を目的とした「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」を施行する。MRによる販売活動に関する国のガイドラインは初となり、今後、MRの情報提供活動にどう影響を及ぼすか注視する必要がありそうだ。
阪大薬学部、6年制に一本化‐研究型高度薬剤師を養成へ
大阪大学薬学部が全6年制に大きく舵を切った。
4年制の「薬科学科」と6年制の「薬学科」を統合し、一本化する。二つの学科を発展的に融合させ、薬学基礎研究力と創薬基盤技術力、臨床力を備えた「研究型高度薬剤師」を養成することが目的。
新たな6年制では、「Pharm.D」(定員20人)、「薬学研究」(55人)、「先進研究」(0~5人)の三つのコースを設定。いずれも、全員が薬剤師国家試験に合格することを前提としており、連続した研究期間を確保して薬剤師の資格を得られるようにすることで、「研究ができる薬剤師」の輩出を見込む。
全6年制の入試は2019年度から適用し、募集人数は80人で変更しない。これに伴い、4年制の薬科学科は年次進行で廃止する。
6年制への一本化は、公立の岐阜薬科大学で導入されているが、国立大では初めて。
文部科学省管轄の国立大が全6年制を導入することはハードルが高いとされていたが、薬学教育に4年制と6年制課程が併設されて以降、研究・分析能力を備えた研究型薬剤師の枯渇が叫ばれており、阪大薬学部が「研究型薬剤師養成」にフォーカスした「新たな学部創設」を打ち出したことや、定員を増やさなかったことなどがポイントだったと見られる。
文科省も研究型薬剤師の養成を「喫緊の課題」と捉えており、今後の国立大薬学部の学部編成に影響を与えそうだ。
3自治体が遠隔服薬指導事業‐国家戦略特区を活用し
今年6月14日に政府の国家戦略特別区域諮問会議で、愛知県、福岡県福岡市、兵庫県養父市が提案していた遠隔服薬指導の事業計画が承認された。これら3区域に限定した形でテレビ電話などオンラインを活用した遠隔服薬指導の実証事業が開始された。
オンライン服薬指導を行う上での「服薬指導の対面の原則」という縛りが国家戦略特区の活用で条件はあるものの、法的にはクリアされた。一方で国家戦略特区で実施される遠隔服薬指導について、その開始時には明確でなかった調剤報酬の算定についても、厚生労働省が7月18日開催の中央社会保険医療協議会総会に、暫定的に調剤報酬の「薬剤服用歴管理指導料」を対面と同様に算定できる対応案を提出し、了承された。
算定できるのは、対面による服薬指導を行った薬局が引き続き患者に遠隔服薬指導を行った場合で、▽薬剤服用歴管理指導料の算定要件を満たす▽患者の手元に薬剤が届いた後も必要な確認を行う▽オンライン診療の適切な実施に関する指針を参考に情報セキュリティ対策を講じる▽お薬手帳を活用している――の全てを満たす場合。
12月20日現在での遠隔服薬指導の事業登録薬局は愛知県4軒、福岡市17軒、養父市2軒という状況にある。各薬局ともにオンライン服薬指導に必要なシステムなどの整備を終えているが、事業の実証に欠かせないオンライン診療を受診する患者の確保に努めている段階といえそうだ。
登録販売者試験が広域化へ‐近畿6府県は関西広域連合で
2008年度から全国47の各都道府県で毎年実施されてきた登録販売者試験だが、来年度から関西広域連合(連合長井戸敏三氏・兵庫県知事)に参画する6府県(大阪府、京都府、兵庫県、滋賀県、和歌山県、徳島県)は、登録販売者試験と毒物劇物取扱者試験の業務を同連合として行うことを決めた。来年度に試験日や受験料などが決定される。試験合格後の販売従事登録の申請や毒物劇物取扱責任者設置届の提出は、従来通り各都道府県で行う。
同連合では13年4月から試験事務の一元化による効率化を目的に調理師、製菓衛生師、准看護師の試験・免許等業務を実施。同様に登録販売者試験、毒物劇物取扱者試験についても来年度の実施に向け、調整を進めてきた。「毒物劇物取扱者試験」「登録販売者試験」の実施に向けた体制強化に向け、18年度に資格試験・免許課を再編し、薬剤師1人、担当1人を拡充配置している。
関西広域連合は今回の6府県のほか、鳥取県、奈良県、京都市、大阪市、堺市、神戸市が参加、連携団体として福井県と三重県が加わる。19年度からの登録販売者・毒物劇物取扱者の両試験については、広域連合に部分参加の形をとる鳥取県と奈良県は、それぞれ従来通り県として試験を実施する。
6府県の登録販売者試験受験者数(17年度実績合計)は約1万1100人だった。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
薬事日報社が平成最後の年末ということで薬業界の10大ニュースを選出。
まとめると…
■2018年度診療報酬・調剤報酬
■薬価制度の抜本改革
■本庶氏がノーベル賞受賞
■薬機法改正方針まとまる
■武田、シャイアーを買収
■4月に臨床研究法が施行
■MR数減少、歯止めかからず
■阪大薬学部、6年制に一本化
■3自治体が遠隔服薬指導事業
■登録販売者試験が広域化へ