薬機法改正案が国会提出‐薬局機能別表示などが柱
処方箋40枚規制見直しへ
医薬品医療機器等法(薬機法)の改正案が今国会に提出された。薬剤師・薬局関連では、服薬期間中の継続的な患者フォローの義務化や薬局の機能別都道府県知事認定制度(名称独占)の導入などが柱。法改正で薬剤師の対人業務がこれまで以上に増え、対物業務の効率化が必要になることが想定されるため、薬剤師の監督下で薬剤師以外の者に実施させることが可能な業務の考え方を法改正の施行までに整理する。さらに、厚生労働省医薬・生活衛生局の宮本真司局長は、現行で「処方箋40枚につき薬剤師1人」を薬局に置く配置基準を見直す考えを明らかにしており、今後の薬剤師・薬局のあり方に大きく影響する法改正となりそうだ。
分類は地域連携・専門機関連携‐知事認定制で1年更新
薬局の機能別知事認定制度は、患者が自分に適した薬局を選べるようにするためのもの。入退院時などに他の医療施設と連携して対応できる機能を持つ「地域連携薬局」、癌などの専門的な薬学管理に対応できる機能を持った「専門医療機関連携薬局」に分類し、一定の要件を満たした上で、都道府県知事が認定すれば名称表示できる仕組みとする。
地域連携薬局の認定要件は、▽患者に配慮した構造設備▽医療提供施設との情報共有▽業務を行う体制▽在宅医療への対応――の4項目。
厚労省は現段階で、プライバシーに配慮した構造設備(パーティションの設置)や入院時の持参薬情報の医療機関への提供、退院時カンファレンスなどへの参加、地域包括ケアに関する研修を受けた薬剤師の配置、麻薬や無菌製剤の調剤などを例示した。地域包括ケア研修は、健康サポート薬局の研修制度を活用できるようにする。
専門医療機関連携薬局の要件は、▽患者のプライバシーに配慮した構造設備▽専門医療機関との情報共有▽業務を行う体制――の3項目。地域連携薬局と同様の要件に加え、専門医療機関の医師、薬剤師などとの治療方針の共有をはじめ、患者が普段利用する地域連携薬局との連携、学会認定など専門性の高い薬剤師の配置を求めている。より具体的な要件は省令で規定される。
薬局の機能は都道府県が認定し、認定された場合にしか表示できない名称独占となる。健康サポート薬局のような都道府県知事への届け出ではなく認定の仕組みとしたのは、「薬局がしっかり機能を有しているかのチェックが必要」(厚労省)との観点からだ。更新は1年ごとに行うこととする。
認定は、地方薬事審議会の審議(事後報告を含む)などを想定。構造設備や業務体制だけでなく、過去の実績により機能を適切に発揮していることを確認する。
厚労省は、事務負担を軽減するため、申請資料の一部について、既存の薬局機能情報提供制度で薬局が都道府県に毎年行っている報告内容を活用できるようにする。また、既に調剤報酬の算定要件などとして薬局が把握し、地方厚生局に提出している事項の活用も検討し、事務負担を少なくする方針だ。
地域連携薬局と要件が類似して違いがはっきりしないとの声が上がっている健康サポート薬局について厚労省は、「引き続き推進する」としている。
非薬剤師業務を整理‐対人業務への集中後押し
薬剤師が調剤時に限らず、必要に応じて患者の薬剤の使用状況の把握や服薬指導を行う「義務」や、患者の薬剤使用に関する情報をほかの医療提供施設の医師らに提供する「努力義務」も法制化する。薬機法と薬剤師法で定める。
継続的な管理によって得られた患者情報や服薬指導の内容などを調剤録に記録することも義務化するが、現場の負担が増えないよう配慮する。
薬剤師が必要に応じて服薬期間中の患者フォローを行うことが義務化されれば、薬局での対人業務が増え、対物業務の効率化が必要になるため、法改正の施行までに薬剤師自らが実施すべき業務と薬剤師の監督下で薬剤師以外の者に実施させることが可能な業務の考え方について、有識者の意見を参考に整理する。
さらに、厚労省の宮本局長は本紙に対し、現行で「処方箋40枚につき薬剤師1人」を薬局に置く配置基準を見直す考えを明らかにしている。
さらに、薬局の業務が「対物から対人へ」という流れになっていることや、今回の法改正により、「薬剤師が本来、何をすべきかが明確になり、薬局も地域によって持つべき機能が変わってくる」ことにも触れ、「それを踏まえると、全国一律で40枚ということの合理性がない」とし、制限見直しの必要性を強調。
ただ、「単純に40枚が50枚、60枚になれば良いのかという話ではない。しっかりとした考え方や将来見通しがないところで、いたずらに数字を変える話にはならない」とクギを刺した。
具体的な枚数を検討するに当たっては、「少子高齢化の状況や薬局業務そのものの効率化などを踏まえつつ、地域ニーズを満たした薬局がどれだけ出てきて、地域連携がどれだけできるかといったことも含め、考えていかなければならない」とした。
厚生労働科学研究班「薬局・薬剤師の業務実態の把握とそのあり方に関する調査研究」(研究代表者:桐野豊元徳島文理大学学長)では、院外処方箋1枚の調剤に要する薬局薬剤師の業務時間が平均12分前後に達するとした調査結果をもとに、1日平均40枚の院外処方箋に薬剤師1人を薬局に配置する現行の省令が「概ね合致している」と分析しているが、薬局ビジョンが掲げる「モノからヒトへ」にシフトするための体制整備を推し進める。
非薬剤師による業務範囲の整理と処方箋40枚規制の見直しは、「手を付けたくても付けられなかった課題」だっただけに、俎上に載ったことは大きい。
法令遵守、責任者を選任‐オンライン服薬指導、かかりつけに限定
薬局チェーンなどで不祥事が相次いだことを踏まえ、法令遵守体制を整備する。法令遵守に責任を有する者を明確にするため、薬事に関する業務に責任を負う担当役員を法令上位置づけ、許可申請書に記載することとする。
一方で、保健衛生上の危害が発生する可能性がある法令違反を犯した薬局開設者や製造販売業者などを対象とした担当役員の変更命令規定は当初案から削除された。
厚労省は、「改善命令や行政指導などの方法によって改善が図られる場合には役員変更命令を行わない」とし、対象となるケースについては役員が意図的に違法行為を行うなど、役員変更でしか業務改善が求められない場合に限定するなど、一定のハードルを設けていたが、議員から「国が企業の人事に介入していいのか」といった反発が出ていた。
一方で、親族で薬局を経営するような中小企業の場合、役員変更命令がどこまで実効性を伴うのかを疑問視する見方もり、法案から削除された。
まずは、法令順守のための社内規定の作成や従業員教育などを含めた法令順守体制整備の徹底を求めるほか、法令遵守に必要な能力や経験を持った管理薬剤師を選任することも求める。体制の整備状況を都道府県がチェックすることで不祥事の再発防止を図る。
オンライン服薬指導は、専門家によって適切なルールを検討し、改正法施行までに具体的な方法を省令で定める。処方箋薬は、薬機法で薬剤師による対面服薬指導が義務づけられており、テレビ電話などによる服薬指導ができないためだ。
現時点で、オンライン服薬指導を行うのはかかりつけ薬剤師に限定し、初回などは原則対面とする方向性が示されている。このほか、ルールの基本的考え方として、▽患者側の要請と患者・薬剤師間の合意▽緊急時の処方医、近隣医療機関との連絡体制確保▽テレビ電話などの画質や音質の確保――などが挙がっている。薬剤は、訪問時や家族などへの交付または配送により届ける。
虚偽・誇大広告に課徴金‐対象商品売上額の4.5%
製薬企業が虚偽・誇大広告など不当な方法で医薬品販売を拡大した場合に収益の一部を没収する課徴金制度も導入する。
背景には、臨床試験データの改ざんが行われたノバルティスファーマの「ディオバン事件」、武田薬品による降圧剤「ブロプレス」の誇大広告など、違法行為が相次いだことがある。
具体的には、医薬品の名称、製造方法、効能・効果等に関する虚偽・誇大広告を対象とし、違反を行っていた期間中における対象商品の売上額に4.5%を掛けた金額とした。
ただ、業務改善命令などの処分を行う場合で、保健衛生上の危害が発生したり、拡大する影響が軽微である場合や業許可の取り消しを行う場合は、課徴金納付命令を行わないことができるとした。虚偽・誇大広告に対する課徴金額が225万円未満の場合も納付命令を行わない。
不当景品類および不当表示防止法の課徴金納付命令がある場合は、売上額に3%を掛けた額を虚偽・誇大広告に対する課徴金から減額できる。対象行為に当たる事実を違反者が報告した場合は50%減額する。
先駆け対象、法律で明確化‐添付文書は電子化、同梱廃止
革新的医薬品などが選定される先駆け審査指定制度の対象となる品目を「先駆的医薬品」、小児用量が設定されていない医薬品など、医療上のニーズが著しく充足されていない医薬品を「特定用途医薬品」として薬機法に位置づけ、いずれも優先審査などの対象となることを法律で明確化する。
また、医療用医薬品の最新情報を迅速に現場に届けることを目指し、添付文書情報の電子的な方法による提供も法律に盛り込んだ。
具体的には、外箱に添付文書情報にアクセスできるQRコードを製造販売業者が表示。紙媒体の同梱をやめる代わりに、初回納品時に薬局・医療機関に紙媒体の添付文書を届け、改訂時も紙媒体を提供して改訂後情報を速やかに提供するとした。
個人輸入に対する規制も見直す。未承認薬の個人輸入や偽造品流通による不正事案や健康被害の発生・拡大を防ぐため、現状の輸入監視の仕組みを明確にし、手続違反に対する取り締まりや保健衛生上の観点から特に必要と認める場合に輸入制限を可能とするなど、個人輸入に関する指導・取締りを法令に基づき適切に実施できるようにする。
また、これらの事案の認知から取り締まりまで迅速に対処する必要があることから、捜査権限を厚労省と都道府県の麻薬取締官・麻薬取締員に付与する。
改正薬機法の施行時期は、公布から1~3年以内の経過措置をそれぞれ定めている。1年以内は服薬期間中の患者フォロー義務化やオンライン服薬指導の実施、2年以内は薬局機能認定制度やガバナンス強化策の導入、3年以内が医薬品包装へのバーコード表示の義務化などとなっている。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
国会提出された薬機法改正案をまとめると…
▶服薬期間中の継続的な患者フォローの義務化
▶薬局の機能別都道府県知事認定制度(名称独占)の導入
▶非薬剤師業務を整理‐対人業務への集中後押し
▶オンライン服薬指導、かかりつけに限定
▶虚偽・誇大広告に課徴金‐対象商品売上額の4.5% など。