薬剤師国家試験は薬剤師なら誰もが必ず通った道。毎年、試験の難易度や合格率が話題になりますが、国試は“現役薬剤師”として基本的な知識を再確認するチャンス。橋村先生の解説で、国家試験の過去問を「おさらい」しましょう!
高額な薬価を付加した薬剤をめぐり、費用対効果、偽造品流通など薬の値段に対して社会の注目が集まりはじめている昨今。後発医薬品への注目も自然と生まれてきています。そのような状況のなか近年、バイオシミラーというカテゴリーの薬剤が発売されるようになってきました。「後発」「後続」という単語が含まれていますが、似ているようで実は同じ定義ではありません。2017年春に行われた第102回の国家試験問題で確認しましょう。
【過去問題】
病院でバイオシミラーの採用を検討することになり、医師よりバイオシミラーの特性について薬剤部に問い合わせがあった。
問214(実務)
バイオシミラーに関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
- 1先行バイオ医薬品と品質、安全性、有効性に関して、同等/同質であることが確認されている。
- 2先行バイオ医薬品と構造が同一の有効成分を同一量含み、同一経路から投与される。
- 3先行バイオ医薬品と産生細胞や製法(培養法や精製法)が同一である。
- 4製造販売後調査が義務付けられている。
問215(物理・化学・生物)
バイオ医薬品として用いられる組換えタンパク質に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
- 1宿主として大腸菌とほ乳動物由来細胞を用いた場合、同一の遺伝子から発現させた組換えタンパク質では、同一の糖鎖が付与される。
- 2ほ乳類動物由来細胞を宿主とした場合、O結合型の糖鎖は、タンパク質のセリンまたはトレオニン残基に付加される。
- 3バイオ医薬品として組換えタンパク質を生産させる際には、そのmRNAを化学合成して宿主細胞に導入する。
- 4バイオ医薬品のなかには、CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞)を用いて生産されるものがある。
問214:1、4
問215:2、4
解説
問214
- 2:後発医薬品は先発医薬品に対して同一性が必要ですが、一方バイオシミラーは、先行バイオ医薬品に対して品質特性がまったく同一ということは求められていません。類似性が高く、品質特性の差異を有していても、薬剤の安全性や有効性に影響しない薬剤であれば問題ないのです。剤形と投与経路は同一でなくてはなりませんので、選択肢文章の「同一経路から投与される」という部分のみ正しいといえます。
- 3:先行バイオ医薬品と同一の製剤方法を確立することは不可能に近いため、独自の製法を開発・確立する必要があります。
問215
- 1:糖タンパク質医薬品では元来糖鎖の均一性がとれません。宿主細胞が同一の場合であっても遺伝子発現構成体の挿入部位や培養条件など、さまざまな要因で変化します。
- 3:組換えタンパク質の合成はmRNAを化学合成するのではなく、組換えた「DNA」を宿主に導入して産生されます。
– 実務での活かし方 –
まずは以下で、バイオ医薬品とバイオシミラーの定義を確認しましょう。
バイオ医薬品
遺伝子組換え技術や細胞培養技術などを応用。微生物や細胞が持つタンパク質(ホルモン、酵素、抗体など)を作る力を利用して製造される医薬品。
バイオシミラー
国内ですでに新有効成分含有医薬品として承認されたバイオ医薬品と同等/同質の品質、安全性及び有効性を有する医薬品として、異なる製造販売業者により開発された医薬品。
続いて表1でバイオシミラーの開発対象となる製品・成分などについて確認します。
非対象薬剤 | 従来型ワクチン、ヘパリンなどの多糖類 |
---|---|
日本における審査経験/使用実績の無い製品 | |
バイオシミラーに対するバイオシミラー |
後発医薬品とバイオシミラーはともに先発品(先行品)の特許期間、再審査期間終了後に発売され、薬価も抑えられている、という点では同じです。注目すべきは、表2にも記載してある「同等性・同質性」と「同一性」の違いです。
バイオシミラー | 後発医薬品 | |
---|---|---|
特徴 | 細胞技術による高分子化合物 | 化学合成による低分子化合物 |
求められる条件 | 先行品との同等性・同質性 | 先発品との同一性 |
申請可能時期 | 先行バイオ医薬品の特許期間、再審査期間終了後 | 先発医薬品に特許期間、再審査終了後 |
必要試験 | 品質特性の同等性・同質性比較 非臨床試験での比較・安全性確認 臨床試験での比較・安全性確認 製造販売後調査 |
生物学的同等性試験 |
薬価 | 通常、先行品の7割 | 通常、先発品の5割 |
代替調剤 | 一連の治療期間中の併用は避ける | 可 |
「同等性・同質性」「同一性」など、一見言葉の言いまわしが異なるだけのように思えます。しかし、ここでいう「同等性・同質性」とは、先行品に対して品質特性がまったく「同一」であるということではありません。品質特性上類似性が高く、かつ品質特性に何らかの差異があった場合でも、最終製品の安全性や有効性に有害な影響を及ぼさないということを指しています。
後発医薬品の試験が生物学的同等性試験のみであるのに対して、バイオシミラーは開発段階より、バイオ医薬品と比較して品質、有効性、安全性において同等・同質を証明する試験が課せられています。バイオシミラーは後発医薬品よりも、厳しい試験をクリアしているのです。
事例
バイオ医薬品の開発及び設備費用は1,000億円前後で、それに対してバイオシミラーにかかる費用は200億~300億円程度といわれています。この価格差以上に注目すべき点は、表2にも記載している「申請可能時期」に関してです。
一般的な医薬品と後発品の場合、先発品が複数の効能・効果を有するときには、後発品は先発品のそれぞれの効能・効果の特許切れを待つ必要があります。
それに比べバイオシミラーの開発では、物理的化学的特性や生物学的特性などの品質特性解析をクリアすれば、特許切れを待つ必要はありません。バイオシミラーは先行バイオ医薬品との同等性・同質性を検証し、臨床試験でも先行バイオ医薬品と差異がないことが確認されています。そのため、先行バイオ医薬品が複数の効能・効果を有していたとしても、薬理学的に同様の作用が期待できることが説明できれば、他の疾患への適応が認められるのです。
ただ、良い点ばかりではなく、このバイオシミラーが処方されるにあたっては、表3のように先発医薬品から後発医薬品への変更のようにはいきません。
後発医薬品への変更 | バイオシミラーへの変更 | |
---|---|---|
先発医薬品 | 可 | ― |
後発医薬品 | 可(剤形変更含めて) | ― |
バイオ医薬品 | ― | 不可 |
バイオシミラー | ― | 不可 |
通常、後発医薬品同士の変更は調剤後の薬剤料が変更前のものと比較して同額以下であれば、変更可能です。しかしバイオシミラーはバイオ医薬品と比べていくら薬価が低い場合でも、薬剤師による変更はできません。バイオシミラーを処方するためには、医師による銘柄指定の処方箋が必要になります。
表4で、バイオシミラーへの変更不可薬剤の一例を挙げましたので、見ていきましょう。
処方箋記載薬剤 | 薬価 | バイオシミラーへの変更に関して |
---|---|---|
ランタス注ソロスター | ¥2,069 | 患者希望があっても不可 |
インスリングラルギンBS注ミリオペン 「リリー」 |
¥1,612(※) | 「リリー」製剤以外への変更不可かつ 「FFP」銘柄への変更不可 |
インスリングラルギンBS注キット「FFP」 | ¥1,582(※) | 「FFP」製剤以外への変更不可 |
先発医薬品から後発医薬品への変更規則に沿ってみると、「リリー」製剤から「FFP」製剤への変更は可能と考えがちです。しかし、バイオシミラーでは残念ながらその規則が適用されません。またバイオシミラー同士の変更も不可です。
バイオシミラーに対する認知度はまだ高いとは言えず、普及にあたっては医療関係者の情報不足も課題とされています。バイオシミラーの変更規則については、医師でも理解していない場合があるため、薬剤師からも働きかけていく必要があると思われます。増え続ける医療費の抑制を担っている薬剤師としては、積極的な取り組みが必要な分野といえるのではないでしょうか。