患者さんが薬を正しく飲んでくれない原因は?
どれほど服薬指導を行っても、起こってしまうのが飲み忘れ。1日3回の処方薬では、昼の飲み忘れが圧倒的に多いようです。学生や会社員などは慌ただしい昼休みに、飲むタイミングを失ってしまうことも少なくありません。また薬に対する不信感があったり、副作用を恐れたりするあまり、薬を飲むことを拒否するケースもあり、アドヒアランスが下がってしまうこともあるでしょう。
特に気になるのが、小児の場合です。給食時の飲み忘れが多くなるだけでなく、薬の味を嫌がって飲まず、親が根負けしてやめてしまう場合もあります。小児では喘息や心臓病、糖尿病などの慢性疾患において長期的な服薬が必要になるケースが多く、本人にとっても家族にとっても負担が大きいのは事実。例えば1型糖尿病の小児で、インシュリン注射を学校でも打たなくてはならないとなると、自宅とは異なる状況からやりにくさを感じ、アドヒアランスが下がりがちになることもあります。
また高齢者の服薬状況も注視すべき課題です。高齢者は複数の疾患を抱えているケースが多く、処方される薬も多種にわたりがち。服薬方法は複雑になり、認知機能が低下傾向にもあることも影響して、どうしても飲み忘れが増えてしまいます。
アドヒアランスを向上させるために
服薬の徹底をはかるには、患者さんに合わせたアプローチが必要です。どうしても昼の飲み忘れが多い人の場合は、同成分で効果に持続性のある製剤に変え、朝夕だけの処方になるように医師に提案してみましょう。時間を問わず飲み忘れが起こる場合は、服薬スケジュール表を作って渡し、飲んだらチェックを入れてもらうようにします。
また、小児に対しては服用方法の指導が有効です。苦い抗生物質は甘みのあるアイスクリームやフルーツ味のゼリー状オブラートに包みこむなど、飲みやすい方法を指導してみましょう。
上述したインスリンの自己注射が必要になるような小児の場合、家庭と学校、薬剤師との連携が欠かせません。養護教諭のもと、安全に注射ができるよう学校側と話し合ったり、時間になったら無理なく集団から抜けられるように担任の教諭と打ち合わせをしたりして、フォローする体制づくりを進めましょう。窓口で本人に会えたときには、学校でのがんばりを褒めることも忘れずに。
薬の種類が多い高齢者には、一包化で対応するのがベスト。同じことを何度も聞いてくるなど、認知症の兆しが見える患者さんには薬の服用に対する家族の支援をお願いするのもひとつの手です。一人暮らしの方であれば、その地域の保健師やケアマネージャーと相談しながら、アドヒアランスが下がらないように薬剤師の立場から提案を行いましょう。
薬剤師のカウンセリングで患者さんを導こう
アドヒアランス向上のためには、患者さんとの信頼関係を築くことが大きなカギとなります。患者さんとのコミュニケーションを深めながら、患者さんが自分の状態を認識し、服薬の必要性を感じてもらえるような環境づくりを行いましょう。患者さん自身が自分の治療計画に参加することこそ、アドヒアランスの基本。薬を飲まなければ治療計画が進まないことを理解してもらい、「服薬を徹底する」という意識をもってもらうようにしましょう。時間をかけてきちんと説明し、こまめなコミュニケーションをとっていくことで、患者さんからの信頼感は高まります。
患者さん自らの意志で薬を飲んでもらえるように
ただ指示通りに薬を飲む「コンプライアンス」から、患者さんの意志で治療を進める「アドヒアランス」へ。服薬の必要性を感じ、自らの意志で服薬できるまで患者さんを導くことが、薬剤師の使命といえるのではないでしょうか。