薬剤師の在宅は高度な知識が身に着く
薬剤師の転職に役立つ在宅のスキルを、具体的に見ていきましょう。
国が2025年までの完成を目指す地域包括ケアにおいて、薬剤師の在宅業務は重要な役割に。高齢化が進む中で病床数が不足し、自宅や施設でも質の高い治療ができる体制を整えることが急務とされています。
在宅治療を望む患者さんは、がん、認知症、脳血管疾患、慢性閉塞性肺疾患、骨折などが多いようです。患者さんにより症状はさまざまですが、寝たきり、会話ができない、嚥下困難といった要介護のレベルが異なるだけでなく、医師の訪問頻度の違いや老老介護中、独居中といった環境も異なります。
つまり、在宅医療に関わる薬剤師は、基本的な薬物療法の知識に加えて、麻薬を含めた疼痛緩和治療薬、高カロリー輸液などの知識を身につけることができます。
中心静脈栄養を行うための無菌調剤、患者さんの嚥下能力に合わせて簡易懸濁法、粉砕、とろみ添加などの調剤スキル、副作用管理のためのバイタルチェックも磨くことができるでしょう。
また、医師、看護師、ケアマネジャー、ヘルパー、患者さんや家族と連携を取りながら治療を進めていく機会も多いため、コミュニケーションスキルの向上にもつながります。
在宅医療への知識と経験を高めることは、治療そのものだけでなく、個々の患者さんに対するOQL向上に向けて、柔軟で幅広い対応力が習得できるものといえるでしょう。
地域医療貢献は薬局の価値
病床数の不足によって、在宅医療が今後ますます必要になり、対応できる薬剤師の増加が求められています。一方で、在宅医療は患者さんやご家族が自宅で治療を続けたいという願いを叶えるものであり、そこに関わる薬剤師は地域医療に貢献する大切な役割もあります。
在宅スキルをもった薬剤師は、高齢社会のニーズに応えると同時に、患者さんの願いをかなえながら、地域に根ざす薬局を目指すことができます。
転職時においても、患者さんから選ばれる薬局を作っていく上で重要なスキルであることをアピールできるでしょう。
在宅ができる薬剤師は利益を生む
在宅指導は、診療報酬上の点数も高く、勤務先での収益向上につながる点も重要なアピール要素といえます。
平成30年の診療報酬・介護報酬同時改定では、薬剤師による在宅指導の評価項目である「在宅患者訪問薬剤管理指導料(医療保険)」や「居宅療養管理指導費(介護保険)」が見直されています。
在宅における薬剤師の指導を評価し、個人宅を中心に点数が上昇していることにも注目です。個人宅に対して薬局薬剤師が訪問薬剤管理指導を行った場合、1回の訪問で医療保険では650点、介護保険では507単位が算定できます。
また、地域支援体制加算の算定要件にも在宅実績が入っており、算定可能になった場合は処方受付1回当たり35点を算定することができます。在宅指導が行える高いスキルと経験があれば、転職先の利益に貢献できる人材として、アピールできるでしょう。
在宅は薬剤師として経験の幅が広がる
在宅医療は薬物療法の専門的知識に加えて、問題解決スキル、他医療職種・患者や家族とのコミュニケーションスキルなど、薬局内の業務だけでは磨くことが難しいスキルを高める良い機会です。
調剤薬局の薬剤師だけでなく、病院薬剤師も在宅医療を行っていて、個人宅に指導を行った場合、介護保険で558単位が算定できます。
今後も国が在宅業務を推進していくなかで、在宅に強い薬剤師は経営者側にとっても確保したい人材です。選ばれる薬剤師になるために、積極的に在宅医療に携わってみてはいかがでしょうか。
執筆/加藤鉄也
薬剤師。研修認定薬剤師。JPALSレベル6。2児の父。
大学院卒業後、製薬会社の海外臨床開発業務に従事。その後、調剤薬局薬剤師として働き、現在は株式会社オーエスで薬剤師として勤務。小児、循環器、糖尿病、がんなどの幅広い領域の薬物治療に携わる。医療や薬など薬剤師として気になるトピックについて記事を執筆。趣味は子育てとペットのポメラニアン、ハムスターと遊ぶこと。