1 皮膚科でよく処方される薬
まず、皮膚科からよく処方される薬剤についておさらいしてみましょう。皮膚科で治療される疾患として、アトピー性皮膚炎、かぶれ(接触性皮膚炎)、あせもなどの炎症性疾患、とびひ、ニキビ(痤瘡)や水虫(足白癬、爪白癬)、乾癬、単純疱疹、帯状疱疹などが挙げられます。こうした疾患の治療には、以下の薬が多く使用されます。
・ステロイド外用剤・内服剤
・保湿外用剤
・抗免疫抑制外用薬
・レチノイド様外用剤
・過酸化ベンゾイル製剤
・抗菌外用薬・内服薬
・抗真菌外用薬・内用薬
・活性型ビタミンD3外用薬
・抗ヘルペスウイルス薬
なかでも、代表的なものがステロイド外用剤でしょう。炎症性皮膚疾患の治療に多く処方される薬剤として、皮膚科の門前薬局であれば常時取り扱うことになります。
2 ステロイド外用剤の特徴
頻繁に見かけるステロイド外用剤ですが、実際に処方された際にはどのような点に注意をするべきでしょうか?
ステロイド外用剤は抗炎症作用を期待して使用されるものです。作用機序としては、「炎症が起こっている細胞の膜の安定化」「炎症細胞のサイトカイン、ケモカインの生成抑制」「リンパ球の機能抑制、細胞死の誘導」を介して炎症抑制作用を発揮します。皮膚で起こった炎症を火事に例えるなら、ステロイド外用剤は火消しの役割があります。
3 ステロイド外用剤の服薬指導をする際の注意点
・患者さんの主訴を確認
服薬指導は主訴の確認からはじまります。ステロイド外用剤を使用するということは、何らかの炎症性皮膚疾患があると推測できますが、実際にどの部位に、どんな症状(皮膚状態と重症度など)が、いつからあるのかをしっかり確認しましょう。
そのうえで、医師からどのように診断されたのかを聞き出すこと。先に診断名を聞いてしまうと主訴を聞き忘れてしまうことがあるので、注意が必要です。ステロイド外用剤がよく使用される疾患はアトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、手湿疹、虫刺され、あせも、脂漏性皮膚炎、異汗性湿疹、円形脱毛症などがあります。
患者さんの主訴と医師の診断から現状を把握して、ステロイド外用剤がどういう症状や病態を改善する目的で処方されているのかを見極めるとよいでしょう。患者さんにも途中で治療をやめてしまわないように、しっかりと処方意図を説明し、理解をしていただくことも大切です。
処方箋には塗布部位や塗布回数が記載されていますが、いつまで塗布を続けるのかまで明確に書かれていることはほとんどありません。医師からいつまで続けるという指示があったかを患者さんに確認し、具体的に指示がない場合は次の受診予定日を聞き出したうえで、それまではしっかり続けるように指導しましょう。
次回受診日が曖昧な場合には、疾患によって推測して、薬学的知識を持って説明しておくことも大切です。例えば、虫刺されやあせもといった急性の炎症疾患であれば、症状が改善するまで塗布し、その後中止できることを伝えます。アトピー性皮膚炎や手湿疹、脂漏性皮膚炎などの慢性炎症疾患であれば、塗布の継続を促します。それでも不安が残る場合は医師に疑義照会して、確認を取りましょう。
外用剤のアドヒアランスとして、塗布回数の提示はとても重要です。ミディアムクラスのステロイドは1日2回のほうが1日1回より効果があるため、ミディアムクラス以下の薬では1日2回以上塗ることをきちんと伝えましょう。
ストロングクラス以上のステロイドでは、開始後3週間以内では、1日2回塗る方が1回に比べて有意に炎症を抑えることが分かっていることから、特に急性増悪時は1日2回以上必ず塗るように指導するのがポイントです。
ただし、改善しても一気にやめると症状が悪化します。塗布回数を減らしたり、間欠塗布したり、ステロイドのランクを下げたりして、改善してきたら徐々に減薬する必要があるため、自己判断で急にやめないように指導することを忘れないようにしましょう。
4 ステロイド外用剤の副作用
外用ステロイドによる全身性副作用はほとんど起きません。ただし、塗布部位がまぶたの場合は、全身性の副作用の一つである眼圧上昇が起こる可能性があります。緑内障を罹患している患者さんが使用する場合は注意が必要です。
局所の副作用は、年齢によって発現しやすい副作用が異なります。皮膚が薄くなっている高齢者は、皮膚萎縮や紫斑、毛細血管拡張などがおこる可能性が高いため注意が必要です。事前に説明し、定期的な確認を行いましょう。なかでも、皮膚萎縮は若年層であれば回復しやすいものの、高齢者は症状が残りがちです。そうした場合には、ステロイドのランクを低くしたり、場合によっては休薬期間をもうけたりするといった提案のもと、疑義照会を行うとよいでしょう。
一方で若い人には、ステロイド痤瘡や皮膚萎縮線条が起こる可能性があります。ステロイド痤瘡は外用剤を中止すると治る場合がありますが、アトピー性皮膚炎などの慢性疾患では中止することはできません。そのため、内服・外用の抗菌剤などニキビ治療を追加で行う場合もあります。
皮膚萎縮線条は、皮膚上に線状の跡がのこる症状です。例えば妊娠線も皮膚萎縮線条のひとつ。皮膚委縮線条が一度発生してしまうと、通常ステロイド外用剤の中止後も治りません。特に女性では美観を損ねる可能性があるので、疾患治療とのバランスを考えて使用を継続するかどうかを判断する必要があります。一般的にステロイドのランクが強くなるほど局所副作用が起きやすいと言われているので、ランクを弱くするのも副作用を軽減させる選択肢のひとつと言えるでしょう。
小児の場合には多毛が起きることがありますが、ステロイド外用剤の中止によって次第に回復していきます。
そのほか、年齢を問わず起こりうる副作用として色素脱失や毛包炎などが挙げられます。色素脱失は患者さんからよく質問を受ける副作用ですが、使用を中止すると徐々に回復していきます。
5 ステロイド外用剤についてよくある質問と回答集
ステロイドについてはさまざまな情報があり、疑問を持つ患者さんも多い印象があります。患者さんからの質問に正確に答えるのも薬剤師の大切な仕事ですので、以下の内容を覚えておき対応する際に役立てましょう。
Q. ステロイドを塗っていると皮膚が黒くなる?
A. 炎症が治った後に色素沈着が起こり黒くなることがありますが、ステロイド外用剤によって皮膚が黒くなることはありません。色素沈着は時間とともに徐々に改善していきます。
Q. ステロイド外用剤を使うと、顔が丸くなったり、骨がもろくなったりする?
A. 満月様顔貌や骨粗鬆症はステロイドの全身性副作用のひとつです。通常の使用量ではまずなりません。とはいえ、強いステロイドを大量に、広範囲、長期的に使用することがあれば注意が必要です。満月様顔貌になっていないかを確認したり、高齢者の場合には骨密度が低下していないか、整形外科の受診勧奨を行うなど、副作用への注意を払いましょう。
Q. ステロイド外用剤は一度使うとやめられなくなるって本当?
A. 急性炎症疾患であれば、改善に合わせて使用を中止するケースがほとんど。ただし、一気に中止するとリバウンドで悪化する可能性があるため、徐々に回数を減らしたり、ランクを落としたりしながらゆっくりとやめていくことが大切です。
Q. ステロイドが皮膚に蓄積されるのですか?
A. 皮膚に蓄積することはありません。
6 患者さんによって服薬指導は変わる
皮膚科での治療において、ステロイド外用剤はよく使用される薬です。毎回同じように処方される薬でも、患者さんの病状、年齢、性別、不安に思う副作用など、指導の際に重点を置くべきポイントはさまざま。患者さんの話に耳を傾けることが、役に立つ服薬指導につながります。薬の知識を吸収するとともに、患者さんの疑問や不安を解消し、適切な治療ができるような指導をしていきたいですね。
執筆/加藤鉄也
薬剤師。研修認定薬剤師。JPALSレベル6。2児の父。
大学院卒業後、製薬会社の海外臨床開発業務に従事。その後、調剤薬局薬剤師として働き、現在は株式会社オーエスで薬剤師として勤務。小児、循環器、糖尿病、がんなどの幅広い領域の薬物治療に携わる。医療や薬など薬剤師として気になるトピックについて記事を執筆。趣味は子育てとペットのポメラニアン、ハムスターと遊ぶこと。