地域薬学ケア専門薬剤師は、地域包括ケアなどの地域医療・介護に参画し、幅広い領域の薬物療法に関して高度な知識やスキルを持つ薬剤師を認定する資格です。2020年に新設され、2021年1月から認定が開始されました。本記事では、地域薬学ケア専門薬剤師の概要や地域薬学ケア専門薬剤師(がん)・地域薬学ケア指導薬剤師との違いについて解説するとともに、認定申請するための要件や資格取得のメリット、過渡的措置(暫定認定)についてお伝えします。
1.地域薬学ケア専門薬剤師とは?
地域薬学ケア専門薬剤師とは、日本医療薬学会が実施する認定制度です。地域の医療や介護における薬物治療のスペシャリストとして他職種と協働することに加え、研究活動を行う薬剤師を認定します。
2025年4月時点で、地域薬学ケア専門薬剤師の暫定認定者は58名です。認定者一覧は日本医療薬学会のホームページから確認できます。
参照:地域薬学ケア専門薬剤師制度|一般社団法人日本医療薬学会
地域薬学ケア専門薬剤師と関連する認定資格に、地域薬学ケア専門薬剤師(がん)と地域薬学ケア指導薬剤師があります。ここでは、それぞれについてお伝えします。
1-1.地域薬学ケア専門薬剤師(がん)とは?
地域薬学ケア専門薬剤師には、副領域として上乗せ資格の「地域薬学ケア専門薬剤師(がん)」が設けられています。地域医療に必要となる薬物療法の知見に加えて、がん領域の専門性があると認められる薬剤師は、地域薬学ケア専門薬剤師(がん)として認定されます。
参照:地域薬学ケア専門薬剤師 Q&A ver.9|一般社団法人日本医療薬学会
また、地域薬学ケア専門薬剤師(がん)を薬局に配置することは、専門医療機関連携薬局の基準要件のひとつです。専門医療機関連携薬局とは、がんなどの専門的な薬学管理が求められる疾患について、関連する医療機関と連携して対応できると認められた薬局のことです。
専門医療機関連携薬局には高い専門性が求められるため、地域薬学ケア専門薬剤師(がん)または外来がん治療専門薬剤師の認定資格を持つ薬剤師を配置するといった認定要件が設けられています。
参照:専門医療機関連携薬局について|厚生労働省
🔽 専門医療機関連携薬局について解説した記事はこちら
🔽 外来がん治療認定(専門)薬剤師について解説した記事はこちら
1-2.地域薬学ケア指導薬剤師とは?
地域薬学ケア指導薬剤師とは、地域薬学ケア専門薬剤師の上位資格です。地域薬学ケア専門薬剤師としての知見や技術に加え、薬剤師に対して指導的な役割を果たせると認められた薬剤師が認定されます。
地域薬学ケア指導薬剤師には、薬剤師への指導的能力と積極的な研究活動が求められます。
参照:地域薬学ケア専門薬剤師制度|一般社団法人日本医療薬学会
2.地域薬学ケア専門薬剤師になるには
続いて、地域薬学ケア専門薬剤師になるための手順についてお伝えします。
2-1.申請資格
地域薬学ケア専門薬剤師になるには、以下の申請資格を満たす必要があります。
資格 | ● 日本国の薬剤師免許を有すること ● 薬剤師として優れた人格と見識を備えていること ● 薬剤師としての実務経験:5年以上 ※薬局での実務経験:1年以上 ※申請時に薬局の常勤薬剤師であること ● 申請時において、引き続き5年以上継続して日本医療薬学会の会員であること ● 認定薬剤師のいずれかの認定を受けていること 1.日本薬剤師研修センター研修認定薬剤師 2.日本病院薬剤師会日病薬病院薬学認定薬剤師 3.日本薬剤師会・生涯学習支援システム(JPALS)クリニカルラダー5以上 4.その他日本医療薬学会が認めた認定制度 ● 日本医療薬学会が実施する専門薬剤師認定試験に合格すること |
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研修・学会への参加 | ● 地域薬学ケア専門薬剤師研修施設において、日本医療薬学会が定めた研修ガイドライン(カンファレンスへの参加を含む)に従って、地域薬学ケアに関する5年以上の研修歴を有すること ● 専門薬剤師認定取得のための薬物療法集中講義に1回以上参加 ● 日本医療薬学会の年会に1回以上参加 |
クレジット(研修単位) | 5年で50単位以上 |
症例報告 | 自ら実施した5年の薬学的管理を行った症例報告50症例 ● 4領域以上の疾患 ● 1領域につき5症例以上の指導の要約を含める |
研究活動 | 以下の研究活動のうち、発表あるいは論文の条件のどちらか一方を満たすこと ● 学会発表 1.医療薬学に関する全国学会、国際学会あるいは地区大会での発表が2回以上あること 2.日本医療薬学会が主催する年会において本人が筆頭発表者となった発表を含んでいること ● 論文 1.本人が筆頭著者である医療薬学に関する学術論文を1報以上有すること 2.学術論文は、国際的あるいは全国的学会誌・学術雑誌に複数査読制による審査を経て掲載された医療薬学に関する学術論文あるいは症例報告であること ※編集委員以外の複数の専門家による査読を経ていない論文や商業誌の掲載論文は対象外 |
参照:一般社団法人日本医療薬学会地域薬学ケア専門薬剤師認定制度規程|一般社団法人日本医療薬学会
参照:一般社団法人日本医療薬学会地域薬学ケア専門薬剤師認定制度規程細則|一般社団法人日本医療薬学会
申請のためには、日本医療薬学会が定める研修施設で、5年以上研修を受けなければなりません。研修を受けるためには、「地域薬学ケア専門薬剤師 基幹施設調整依頼(マッチング)申請」を行う必要があります。
2-2.申請方法
2024年度時点で(暫定)認定申請をするためには、以下の書類を指定されたファイル形式で作成し、データで提出します。
● 薬剤師免許証の写し
● 認定資格を証明する認定証の写し
● 年会、薬物療法集中講義、がん専門薬剤師集中教育講座の参加証明書
● 学会発表または論文の審査に係る書類
● クレジット(単位)の認定に係る参加証や要旨集該当ページ等の写し
認定審査料は1万1,000円(税込)、認定料は2万2,000円(税込)です。不認定や自己都合による申請の取り下げなどの場合は、返金対応がされません。
参照:地域薬学ケア専門薬剤師 暫定認定申請|一般社団法人日本医療薬学会
2-3.試験内容
地域薬学ケア専門薬剤師の認定を取得するには、日本医療薬学会が実施する「専門薬剤師認定試験」または日本薬剤師研修センターが実施する「生涯学習達成度確認試験」に合格する必要があります。
地域薬学ケア専門薬剤師の暫定認定期間中(2027年度の申請分まで)は、日本薬剤師研修センターが実施する「生涯学習達成度確認試験」が認定試験となります。
試験の出題形式は、択一問題や複数選択問題などの選択式で、全100問です。出題範囲の詳細や例題、参考図書が日本医療薬学会のホームページで公表されているため、受験前に確認しておきましょう。
参照:薬剤師生涯学習達成度確認試験について|日本薬剤師研修センター
参照:認定試験|一般社団法人日本医療薬学会
参照:地域薬学ケア専門薬剤師(暫定認定)Q&A (ver.3)|一般社団日本医療薬学会
2-4.更新方法
地域薬学ケア専門薬剤師は5年ごとに更新しなければなりません。更新要件は、以下のとおりです。
資格 | 認定期間中に継続して日本医療薬学会の会員であること |
クレジット(研修単位) | 認定期間中に、50単位以上取得していること |
研修・学会への参加 | ● 認定期間中に、専門薬剤師認定取得のための薬物療法集中講義に1回以上参加すること ● 認定期間中に、日本医療薬学会の年会に1回以上参加すること |
症例報告 | 認定期間中に、自ら実施した薬学的管理を行った症例報告20症例を提出すること |
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参照:一般社団法人日本医療薬学会地域薬学ケア専門薬剤師認定制度規程|一般社団法人日本医療薬学会
更新申請をする場合は、上記の更新要件を満たした上で、申請書類や証明書を提出して更新審査を受けなければなりません。

3.地域薬学ケア専門薬剤師(がん)になるには
地域薬学ケア専門薬剤師(がん)になるには、地域薬学ケア専門薬剤師の要件を満たした上で、以下の要件をクリアする必要があります。
研修への参加 | ●地域薬学ケア専門薬剤師研修施設において、日本医療薬学会が定めた副領域(がん)の研修ガイドライン(カンファレンスへの参加を含む) に従って、地域薬学ケアに関する5年以上の研修歴を有すること ● がん専門薬剤師集中教育講座に1回以上参加すること |
症例報告 | 悪性腫瘍領域における薬学管理指導の実績20症例を提出すること |
研究活動 | 発表や論文のテーマはがんに関係したものを含むこと |
参照:一般社団法人日本医療薬学会地域薬学ケア専門薬剤師認定制度規程|一般社団法人日本医療薬学会
地域薬学ケア専門薬剤師(がん)の認定申請では、申請資格を満たし、申請書類や証明書を提出して認定審査を受けます。
4.地域薬学ケア指導薬剤師になるには
地域薬学ケア指導薬剤師になるには、以下の要件を満たす必要があります。
資格 | ●地域薬学ケア専門薬剤師として5年以上医療現場で活動していること ● 5年継続して日本医療薬学会の会員であること ● 他の医学系学会の会員であることが望ましい |
研修単位 | 5年で50単位以上取得 |
研修への参加 | 地域薬学ケア専門薬剤師である期間に、専門薬剤師認定取得のための薬物療法集中講義 に1回以上参加 |
論文発表 | 以下のいずれかに該当すること ● 複数査読制のある国際的あるいは全国的学会誌・学術雑誌に掲載された医療薬学に関する学術論文が3報以上 ※少なくとも1報は筆頭著者 ● 医療薬学領域の英文論文筆頭著者1報以上 ※症例報告を含む ※編集委員以外の複数の専門家による査読を経ていない論 文や商業誌の掲載論文は対象外 |
学会発表 | 以下のいずれかに該当すること ● 国際学会、全国学会、あるいは別に定める地区大会における医療薬学に関する学会発表が3回以上 ※うち、少なくとも1回は筆頭発表者 ● 国際学会筆頭発表者1回以上 |
参照:一般社団法人日本医療薬学会地域薬学ケア専門薬剤師認定制度規程|一般社団法人日本医療薬学会
地域薬学ケア指導薬剤師についても、要件を満たした上で、書類や証明書を提出し審査を受けます。
5.地域薬学ケア専門薬剤師の過渡的措置(暫定認定)
地域薬学ケア専門薬剤師には、過渡的措置が講じられています。暫定認定とも呼ばれており、過渡的措置による認定を受ける場合は、「地域薬学ケア専門薬剤師(暫定)」と標榜します。
暫定認定の申請をするためには、以下のすべての要件を満たさなければなりません。
● 勤務する薬局が、地域薬学ケア専門薬剤師研修施設(連携施設)または今年中に申請予定であること
※ただし、審査の結果、同年度内に申請された連携施設が不認定となった場合、当該申請資格を満たさないため暫定認定は不認定となる
● 申請時点で地域薬学ケア専門薬剤師暫定認定の要件を満たしていること
参照:地域薬学ケア専門薬剤師 暫定認定申請|一般社団法人日本医療薬学会
過渡的措置が講じられている理由は、地域薬学ケア専門薬剤師制度が2021年1月から開始されているためです。研修施設での研修歴5年以上が要件のため、通常であれば最初に認定者が出るのは2026年以降となります。制度はあるものの認定者を出せない状態が続くため、暫定認定では「研修施設での研修歴5年以上」などの要件が外れています。
参照:地域薬学ケア専門薬剤師(暫定認定)Q&A (ver.3)|一般社団日本医療薬学会

6.地域薬学ケア専門薬剤師の資格を取得するメリット
地域薬学ケア専門薬剤師の資格を取得するメリットについてお伝えします。
6-1.幅広い知識が身に付く
地域薬学ケア専門薬剤師は、地域医療で質の高い薬物治療を実践するために、幅広い領域について学びます。症例報告50症例では4領域以上が求められ、認定試験の範囲は領域に偏りがありません。そのため、資格取得を通してさまざまな知識を身に付けることができるでしょう。
6-2.専門医療機関連携薬局の基準要件の一つを満たせる
専門医療機関連携薬局の基準要件には、地域薬学ケア専門薬剤師の副領域(がん)の資格を持つ薬剤師の配置があります。そのため、資格を取得すると、自身が勤める薬局がその他の要件を満たすことで、専門医療機関連携薬局の認定を受けることができます。
6-3.薬局にとって欠かせない存在となれる
地域薬学ケア専門薬剤師の資格を取得した薬剤師は、周りの薬剤師の見本となり、指導的な役割を担うでしょう。また、個々の患者さんに合わせた対応や指導ができるため、患者さんとの信頼関係の構築も期待できます。薬局のスタッフや患者さんから頼りにされる機会が増えるため、薬局にとって欠かせない存在となるはずです。

7.地域薬学ケア専門薬剤師を目指そう
超高齢化社会において、地域の医療・介護の需要は高まっています。そのため、地域薬学ケア専門薬剤師の活躍の場は広がるでしょう。また、地域薬学ケア専門薬剤師の資格取得は、幅広い知識や経験が得られることに加え、専門医療機関連携薬局の認定にもつながります。薬局の機能を明確にして地域医療に貢献するためにも、要件を満たせる環境にいる薬剤師は資格取得を目指してみてはいかがでしょうか。
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薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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