インタビュー 更新日:2023.05.30公開日:2022.05.31 インタビュー

ジェネリック医薬品の普及で薬剤師の役割はどう変わる?

国の医療費削減目標を背景に、着々と普及シェアを拡大してきたジェネリック医薬品。今後、ますます高齢化が加速し、セルフメディケーションや地域医療連携などが重要視されていく中、薬剤師にはどのような役割や薬剤選択の考え方が求められるのか、長年ジェネリック医薬品の普及に尽力されてきた日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会の有山氏と横浜市立大学附属病院の小池氏にお話を伺いました。

 

本記事は株式会社ネクスウェイが提供する「医療情報おまとめ便サービス」2017年6月号特集「ジェネリック医薬品の普及が急がれる今患者さんに最適な薬剤選択とは?」P.1ー4を再構成したものです。なお、記事内に登場する経歴や肩書きはすべて同特集掲載時のものです。

 

お話を聞いたのは……
 

(画像左)
一般社団法人 日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会
理事 有山良一氏

昭和47年日本大学理工学部 薬学科(現薬学部)卒業
同年横浜市役所入庁
横浜市立大学医学部附属病院 市民病院薬剤部薬局長
横浜市立大学附属病院薬剤部 担当部長などを経て平成27年より横浜市総合医療保健センター診療部非常勤兼現職

(画像右)
公立大学法人 横浜市立大学附属病院
薬剤部副薬剤部長 小池博文氏

平成7年東京理科大学薬学部卒業
同年横浜市役所入庁
横浜市立市民病院薬剤部
横浜市立大学附属病院医療安全管理室などを経て平成29年4月より現職

病院への普及が進む中、今後は開業医への拡大を視野に

−−ジェネリック医薬品の認知度がここまで向上してきた経緯とともに、現在の普及シェアや課題についてお聞かせください。

有山 ジェネリック医薬品学会(2017年4月に「日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会」へ名称変更)をスタートさせたのは、今から十数年前。後に小池先生にも協力をいただき、医薬分業の発展に従事しながらジェネリック医薬品の普及促進に努めてきました。薬剤師としてより良い薬を選択するだけでなく、その中でより患者さんのためになる製剤まで追求し、少しでも優れたものはドクターにすすめたり薬事委員会などで主張してきました。



 

また、ドクターや看護師、事務方の人々に対して講演を行ったり、実際に患者さんやドクターに利用していただくなどの試みを通じ、ジェネリック医薬品の利点をご理解いただくことで少しずつ普及してきたのです。薬価的なメリットをアピールするだけではここまで広がることはなかったと思います。

 

小池 現在、DPC対象病院では、数量ベースですでに医薬品の70%以上をジェネリック医薬品に切り替えているところがほとんどです(「平成28年度第4回診療報酬調査専門組織・DPC評価分科会」資料より)。
 
当院でも政府の掲げる目標80%(国は2018年度から2020年度のなるべく早い時期にジェネリック医薬品の数量シェアを80%以上にする数量シェア目標を設定。厚生労働省「後発医薬品(ジェネリック医薬品)の使用促進について」より)を数年前に達成しています。



 

ただ、調剤薬局の薬剤師さんたちにヒアリングをすると、やはり開業医における普及にはまだ時間がかかる印象はあります。今の保険制度では開業医のドクターがジェネリック医薬品を使用するメリットが少ないこともありますし、ジェネリック医薬品はここ10年ほどで普及が進んだものですのでベテランのドクターですと効果を実感する機会も少ないためと考えられます。さらに普及率を上げていくためにはそのあたりが課題となりそうです。

製剤技術の進化とともに、新たな付加価値を創出

−−ジェネリック医薬品における魅力や優位性はどのようなところにあるのでしょうか?

有山 私がジェネリック医薬品において最も注目しているのは製剤としての付加価値です。見た目の分かりやすさ、間違えにくさといった識別性や安全性、飲みやすく工夫された味や形状など、さまざまな工夫がなされています。



 

特に日本の場合は製剤技術が非常に優れており、常に進化を続けていますので新薬よりジェネリック医薬品の方が製剤として新しいものを提供できます。新薬は、成分は新しいですが、製剤としては古いのです。今でこそ新薬でも印字錠が増えていますが、不朽のきっかけはジェネリック医薬品の製剤の進歩です。

 

小池 入院患者さんへのアンケートでも印字錠は好評ですし、当院薬剤部における一包化サンプルでの鑑査テストでも識別性や効率性の高さがうかがえました。機械による分包であっても錠剤が間違って混入する可能性はゼロではありません。やはり目で見て確認する必要がありますから、効率化、安全性という面からも印字錠はスタンダードになっています。
 
またここ数年、品質を理由にジェネリック医薬品への切り替えを否定されたことはありません。効き目の問題やアレルギーの報告などもありませんので、品質の面においても先発品との違いはもはやないと考えています。

 

患者さんが飲みやすく、薬剤師が扱いやすい

−−ジェネリック医薬品として工夫・改良されたことによる具体的なメリットとは何でしょうか?

小池 患者さんの中には薬代が高いので飲み続けられないとか、間引きして飲んでいたといった報告もあると聞きます。ジェネリック医薬品なら金額的に抑えられるだけでなく、例えば、元々の先発品がOD錠(口腔内崩壊錠)に改良されることで、飲みやすく、分かりやすくなりますし、在宅診療などは一包化製剤のケースが多いので、刻印錠から印字錠にすることで患者さんにも薬剤師にも間違えにくいというメリットがあります。
 
最近では、注射剤のバイアル瓶も小型化されたり、バイアルリングに製品名を印字することで過誤防止に役立つものも開発されています。

 

有山 特にOD錠の需要はこれからも伸びていくと思います。同じ薬でも、散剤や錠剤で飲んでいただくのは量も多くなり間違える可能性もあるので、看護師さんにとってもOD錠は有り難いはずです。
 
何より飲みやすいので高齢者向けとして大きく貢献できるでしょう。また、配合剤についても統一ブランド名称を使用することにより識別性が格段に高くなっています。実はこれを可能にしたのは当学会なのです。



 

厚生労働省の担当者たちと侃々諤々の議論の末に実現しました。これによって表記がコンパクトになり、名称を錠剤に印字することも可能になりました。印字錠は配合剤に対しても進化していくことと思います。

製剤として優れていて、かつ安価なものを選択すること

−−ジェネリック医薬品の現状を踏まえ、最適な薬剤選択のために薬剤師・薬局にはどのような役割が求められるでしょう?

有山 これまでも医薬分業の進展の中で、あるべき薬剤師・薬局の姿とは何かを問い続けてきました。やはり一番大切なのは、飲みやすさや分かりやすさ、管理のしやすさなどを製剤としてきちんと比較しながら、患者さんの身になって少しでも優れた薬剤を選択・提供すること
 
それこそが薬剤師としての矜持であり、原点ではないでしょうか。安いということも患者さんのメリットですが、より良い製剤を調べて判断する努力は不可欠です。

 

小池 積極的にドクターとコミュニケーションをはかったり、勉強会や懇親会に一緒に参加するなどして、自ら良い薬剤を提案するように心がけることも大事です。ドクターのニーズを薬剤師・薬局が吸い上げ、製薬メーカーに製剤改良を依頼していく、あるいは、処方箋が「変更不可」であっても患者さんの支払状況を理由に変更を要請してみる……など、一歩踏み出す姿勢が求められているのではないでしょうか。
 
そのため、地域に根ざした薬剤師会の先生たちが中心となって、ドクターとのより対等な関係づくりにつながるような活動を展開していくこともジェネリック医薬品の普及には必要かもしれません。

 
 

ジェネリック医薬品という世界的な医薬産業の発展へ

−−今後ジェネリック医薬品において期待されている展望や可能性とはどのようなことでしょうか?

有山 現在、ジェネリック医薬品の国内普及シェアは67%程度(協会けんぽ[一般分]の調剤レセプト[電子レセプトに限る]について集計したもの[算定ベース])。まだ地域によってばらつきはあるものの、このままいけば着実に普及は進んでいくはずです。
 
製剤においても各製薬メーカーの競争の中でより安全で使いやすいものが生まれてきています。先発品とジェネリック医薬品との間でも競争が進めば、相乗的な進展が望めますし、薬価・製剤共に国民のために貢献していけると信じています。
 
特に日本の製剤技術は産業として大きく発展していく可能性があります。中国や東南アジアをはじめ世界の市場に発信し、認知されることで製薬メーカーも含め、皆が豊かになれるのではと考えています。そんなジェネリック医薬品の普及に携われるのは薬剤師冥利に尽きますね。

 
 

小池 薬局の先生の中には、患者さんの自己負担分以外の医療費には保険や税金が投入されていることをきちんと説明する方もいらっしゃいます。それがきっかけで切り替えに同意する患者さんもいるそうですので、政府の掲げる普及目標を達成していくためには、そうした切り口も重要かもしれません。
 
ジェネリックメーカーはMRが積極的に訪問してくれるわけではないので、良いものは薬剤師が紹介していくしかありません。メーカーのパンフレットなどを有効に利用し、情報を提供していったり、時間があるときは我々も市民公開講座などで講演させていただいたりしていますので、そうした地道な取り組みを続けていくことが大切だと思います。

 

 

出典:株式会社ネクスウェイ「医療情報おまとめ便サービス」特集2017年6月号