インタビュー 公開日:2022.11.24 インタビュー

とみざわ薬局・冨沢道俊さんの薬剤師人生と在宅医療【インタビュー】

地域包括ケアシステムが推進される中、薬剤師が在宅医療に参画する必要性がますます高まっています。前回、在宅医療に積極的に取り組まれている1日の様子を紹介した冨沢先生に、今回は波乱万丈な薬剤師人生についてお話を聞きました。

 

本記事は株式会社ネクスウェイが提供する「医療情報おまとめ便サービス」2016年9月号特集「薬剤師の在宅医療現場に迫る」P.3-4を再構成したものです。

お話を聞いたのは……
 

千葉県木更津市 とみざわ薬局 大和店
冨沢産業株式会社 統括部長
冨沢 道俊さん


http://www.tomizawa-ph-group.co.jp/

 

高校卒業後のアルバイト生活から一念発起

思えば私の薬剤師人生は、最初から波乱含みでした。高校を卒業後、やりたい仕事が見つからずにアルバイトをしては貯めたお金で遊び回っていた私は、21歳にして薬剤師を目指すことになります。
 
父が薬局を経営しており、その地盤を活かして何か大きな仕事ができるのではないかという漠然とした思いでした。受験勉強をして大学に入り、卒業後は製薬会社に入ります。ゆくゆくは実家の薬局に帰ってくるつもりでしたが、まずは製薬業界というものを見てみたいと思いました。
 
製薬会社では、MRとして大学病院や開業医さんを担当しました。実は、私は、大学卒業時の国試に失敗しており、MRをやりながら夜は国試の勉強をしていました。1年後、晴れて合格、薬剤師免許を取得しました。

 

薬局内での薬剤師の仕事にやりがいを見いだせない

製薬会社に3年間勤めた後、地元の薬剤師会が経営する薬局に戻ってきました。まずはそこで薬剤師としての修行をさせていただくつもりでした。しかし、薬局の中での薬剤師の仕事は私には向かなかったようで、毎日、医師から出た処方箋の通りに、次からつぎへと来院される患者さんにお薬を出し続ける仕事が楽しいと思えませんでした。

 

■冨沢さんの薬剤師人生とモチベーションの推移



 

在宅サービスとの出会い

そんな頃、薬剤師の在宅サービスという言葉を耳にするようになります。やりがいに飢えていた私は、藁にもすがる思いで、在宅サービスに飛びつきました。社長に相談し、お世話になっていた薬局に勤めながら、週に何日かは実家の薬局で在宅サービスを始めました
 
契約ゼロからのスタートだったので、最初はどこから手をつけてよいか分かりません。自分なりに営業資料をまとめて、関係があると思われるところをしらみつぶしに回りました。当時は、どこに行っても「在宅で薬剤師に何ができるの?」という雰囲気でした。

 
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試行錯誤の毎日でした

なかなか突破口が開けない中、ある日、門前薬局としてお世話になっていた先生が在宅への同行を許可してくださいました。先生には在宅のイロハを教わりました。



お薬を何回かに分けて運び込む冨沢さん。

 

特に、医師がどのようなことを考えながら診察をされ、薬を処方されるのかを生で学べたことは本当に大きかったです。正式に担当させていただいた最初の患者さんは末期がんの方で、病院から医療用麻薬が多めにでている処方内容を、在宅担当のその先生に報告するのが数時間遅れたことで怒られてしまったことを今でも覚えています。

 

在宅サービスが少しずつ開花

ここが頑張りどころだと思い、機会をいただいた患者さんに寄り添いながら、一人ひとりを大切に日々在宅サービスを続ける中で、この地域に新しくできた在宅診療所が薬剤師によるサービスを必要としてくれて活躍の場が一気に広がりました
 
3年前には、勤めていた薬局を辞め、完全にこちらの薬局に入りましたが、夜中の3時まで一包化の作業をして、朝6時に出発して3軒回ってから薬局のスタッフが集まって来る外来の時間までに一旦薬局に戻るというような日もありました。
 
この地域で在宅サービスにかかわられている他職種の方々にも少しずつ認めていただき、薬剤師としての職能を発揮しやすい環境も整ってきています。

 

知識よりも何よりも情熱です

これから在宅を始められるという薬剤師の方には、知識はあとからついて来るからまずは飛び込んでみてくださいと言いたいです。知識よりもコミュニケーション能力、そして何より情熱だと思います。



8:45の朝礼から1日が始まる冨沢さん。ようやく昼ご飯をとれるのは14:30頃。

 

在宅サービスの経験は、薬剤師のスキルアップにもつながります。外来では、一瞬しか患者さんを見ることができません。時にはご家族が薬を取りに来られることもあるでしょう。在宅では、患者さんのバイタルをとり、悩みを聞いて、病気だけではなく人としての患者さんを知ることができるのです。
 
私自身、以前は麻薬が処方された患者さんに対してどう声をかけていいか困ってしまっていましたが、在宅を始めてからは患者さんの立場に立って声をかけられるようになりました。

 
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街づくりに薬剤師が貢献する世の中に

最近は、市民支援薬剤師連絡会(通称PIG)というボランティア団体を設立し、地域の方々にお薬について知ってもらう活動を始めています。子供会に呼ばれて薬を使った簡単な実験を見せたり、老人会では薬局とうまく付き合う方法についてお話ししたりしています。街づくりというものに薬剤師が貢献していくような、そんな時代がくることを願っています。
 
これまで私の活動を見守ってくださった多職種の方々、患者さまやそのご家族、そしてご指導いただいた薬剤師の先輩方に感謝しています。

 
 

 

出典:株式会社ネクスウェイ「医療情報おまとめ便サービス」特集2016年9月号