【厚労研究班調査】製薬企業の国内向け品目、薬価抜本改革で開発断念
新薬加算見直しが打撃
昨年4月に実施された薬価制度の抜本改革を受け、製薬企業の半数弱が開発中の品目で日本での開発を断念・保留する可能性があることが、厚生労働科学特別研究事業「薬価制度抜本改革に係る医薬品開発環境および流通環境の実態調査研究」(研究代表者:北里大学薬学部成川衛教授)の調査結果で明らかになった。
特に新薬創出等加算の見直しによって日本での開発自体を断念・保留したり、開発タイミングの遅延や開発戦略の大きな変更に迫られている実態が判明。大手企業ほど新薬研究開発や経営に与える影響を懸念する回答が目立つ一方、加算対象となる見込みが高い希少疾病用医薬品の開発を積極的に検討する企業も出ている。
調査は、新薬創出等加算の対象品目を持つ企業83社を対象に実施し、68社から回答を得た。回答企業の割合は、日本製薬工業協会が約68%、米国研究製薬工業協会が約91%、欧州製薬団体連合会が約61%。
薬価制度抜本改革の新薬研究開発や経営への影響について、59社が「影響を与える」と全体の約9割弱を占め、6社が「影響を与えない」、3社が「どちらとも言えない」と回答した。大手22社に限ると全社が「影響がある」と回答。選択や優先順位づけを行うことができる豊富な開発パイプラインを有している点から、予見性が難しい日本での事業計画に少なからず影響を与える可能性がある。
最も影響が大きい薬価算定ルールの変更事項としては、「新薬創出等加算の見直し」が挙げられた。新たに企業要件・品目要件が設けられ、特許期間中の新薬で多くの品目の薬価が引き下げられることになった。今回の調査では、製薬各社から、自社開発・販売中の医薬品が加算対象外となることへの直接的な影響や、開発中の薬剤が算定される際に最類似薬となることが想定される医薬品が加算対象外となる間接的な影響に対する懸念が示された。
抜本改革が影響し、計画段階を含む開発中の品目で日本での開発を断念、保留した企業は8社、近い将来それが起こる可能性があると回答した企業は22社に上り、「ない」は38社となった。また、開発タイミングを予定より遅らせた品目があるとした企業は5社、近い将来それが起こる可能性があると回答した企業は15社となった。
開発中の品目について開発戦略に大きな変更が生じたかどうかを尋ねたところ、「ある」が12社、近い将来開発戦略を見直す可能性がある企業を含めると37社に達し、「ない」と回答した31社を上回った。具体的な開発戦略の変更内容については、「国際共同治験から日本が外された」「日本ローカル開発は行わない方向に向かう可能性がある」など、既に日本での開発優先順位を低下させている企業もあった。
その一方、「先駆け指定や希少疾病用医薬品指定を受けることができる品目の日本開発について、より積極的に検討する必要があるという共通認識が生まれた」との意見に代表されるように、加算対象の見込みが高い品目を優先的に開発していく企業も出ている。有用性加算の取得を目指し、適応症を既存治療薬抵抗例としたり、既存治療で効果不十分な患者群の有効性を検証する試験を追加するなど、臨床試験デザインを変更する意向を示す企業もあった。
さらに社内で日本への投資優先度への変化が生じたかについては、「将来的に優先度が上がる可能性がある」が1社あった一方、「優先度が下がった」が9社、「将来的に優先度が下がる可能性がある」が25社、「大きな変化がない」が24社と投資優先度が下がると答えた企業が多かった。
また調査では、日本と欧米の承認申請、承認取得の時期が6カ月以内となっている品目の割合が、17年度には6割に達していることが明らかになった。
成川氏は、「これまでの薬価政策は、新薬の評価を厚くし、長期収載品の評価を下げ、企業の開発や申請を促進する一助になっていた」と評価する一方、「今回の抜本改革は日本市場の魅力を低下させる可能性がある」と指摘。「数字面での影響はまだ掴めていないが、意識的なところでは影響が出てきている」とドラッグ・ラグの再来につながる恐れがあると懸念を示している。
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出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
厚生労働科学特別研究事業「薬価制度抜本改革に係る医薬品開発環境および流通環境の実態調査研究」(研究代表者:北里大学薬学部成川衛教授)調査によると、薬創出等加算の見直しによって日本での開発自体を断念・保留したり、開発タイミングの遅延や開発戦略の大きな変更に迫られている実態が判明しました。