オンライン服薬指導、実現へ動き加速‐特区で先行、19年度に解禁視野
全国3区域で薬局登録相次ぐ
インターネットやテレビなどの情報通信機器を用いたオンライン服薬指導の実現に向けた動きが急速に加速している。政府の規制改革推進会議が、4月から医師のオンライン診療が解禁され、薬を処方された患者が「服薬指導だけ対面が原則というのはおかしいのではないか」と問題意識を示したことから一気に進んだ。政府の方針では、オンライン服薬指導の実現が盛り込まれ、今年度中に検討、結論を得て、2019年度に措置することが明記された。これに歩調を合わせる形で、国家戦略特区でのオンライン服薬指導事業が全国3区域でスタート。早速、各地で登録薬局が相次いでおり、特区の事業が来年度のオンライン服薬指導の解禁を占うことになりそうだ。まずは在宅医療など、移動が難しい高齢患者にオンライン服薬指導後、薬を郵送するといった仕組みの実現が想定されるが、都市部での生活習慣病患者など患者数が多い疾患に対象が拡大する可能性もある。
一気通貫の在宅医療を提言‐規制改革会議、処方箋完全電子化も
オンライン服薬指導の解禁を求めていた規制改革推進会議は4月20日、オンライン診療から服薬指導、医薬品の受け取りまで一気通貫の在宅医療を実現するため、オンライン服薬指導の仕組み作りを早急に行うべきとの見解をまとめた。対面の原則を求めている規制を見直すことにより、対面と組み合わせたオンライン服薬指導を実現し、国家戦略特区以外の地域でも特例的に認めるよう求めた。さらに、「電子処方箋の運用ガイドライン」を見直して処方箋の完全電子化を実現することも求めたのである。
オンライン医療をめぐっては、診療でオンラインの活用が認められている一方で、服薬指導については医薬品医療機器等法で対面による実施を義務づけられているのが現状。厚労省は、特区でオンラインによる服薬指導の実証実験を行うとしているものの、4月時点で実際に実証実験を行った地域はなかった。
同会議は、こうした現状を問題視した格好だ。オンラインで受診できても、医師が院外処方した薬を受け取るために薬局に出向き、服薬指導を受けなければならない負担は通院と同じであると主張。オンライン服薬指導と処方箋の完全電子化を実現させ、移動が難しい一気通貫の在宅医療を受けられるようにすべきと提言した。
具体的には、初回は対面原則とされた医師によるオンライン診療と同様に、薬剤師によるオンライン服薬指導も対面と適切に組み合わせることで認められると指摘。対面原則で求めている副作用に関する情報提供や多剤併用の防止、残薬管理などについて、スマートフォン、タブレットを活用した服薬指導も可能との考えを表明した。
同会議が示したのは、特区に指定されていない福島県南相馬市の小高地区で特例的にオンライン服薬指導が実施されている事例。高齢化により、在宅医療の需要拡大が予想されることから、必要性に迫られた地域や患者に関しては、オンライン服薬指導と訪問薬剤管理指導を組み合わせられるよう早急に制度を見直すべきとした。
実証待たず薬機法改正も‐厚労省案、実施地域限定には批判
これに対して、厚生労働省が回答したオンライン服薬指導に対する見解は、オンライン服薬指導について、国家戦略特区での実証実験の結果を待たずに、薬機法の改正に向けて必要な議論を進めると前向きな考えだった。ただ、厚労省案はオンライン服薬指導の対象となる患者の居住地域を「医療資源の乏しい地域」に限定したもの。
具体的に厚労省が示した見解では、対面による服薬指導を原則としつつ、ICT技術の活用も重要との考えも示した。その上で、これらICT技術の活用の検討は、特区におけるオンライン服薬指導の実証実験を並行して進め、現在進められている薬機法の見直し議論にオンライン服薬指導の導入も含めていくという前向きなものである。
ただ、制度の見直しに前向きな姿勢を示したものの、対象患者の居住地域を「医療資源の乏しい地域」に限定した案となっていたことから、同会議の委員からは「医療資源が乏しい地域だけを対象にすることは意見書と趣旨が異なる」「医療資源が乏しくない地域であっても薬局へのアクセスが困難なことは同じ」などと反対する意見が相次いだ。
また、委員が「来年度に薬機法が改正される場合、国家戦略特区での実証実験の結果を踏まえることが前提なのか」と質したのに対して、厚労省は「結果が完全に出ることは前提ではなく、並行して行うとしている。結果が完全に出るまでは法改正をはじめとした制度改正に踏み込まないわけではない」と回答していた。
対面とオンライン、組み合わせ実現を‐規制改革会議答申
これらを踏まえ、同会議は6月4日、規制改革推進に関する答申をまとめ、安倍晋三首相に提出した。医療・介護分野では、診療から薬の受け取りまで一貫してオンラインで完結できるよう、19年度上期をメドに対面による服薬指導とオンラインによる服薬指導の組み合わせを実現させること、今年度中に処方箋の完全電子化導入までの工程表を作成・公表することなどを求めた。
医療・介護分野でテーマとして取り上げられた「一気通貫の在宅医療実現」は、患者が受診から服薬指導、薬の受け取りまで一貫して、オンラインで完結できるようにすることを目的としたもの。
現在のオンライン医療では、診療は「非対面」が認められているものの、薬剤師による服薬指導は対面が義務づけられているほか、オンライン診療を受けた場合でも、薬を受け取るには、郵送された処方箋か電子処方箋引換証を薬局に持参する必要がある。
これらの現状を踏まえ、答申では、今年度中に「薬剤師による対面服薬指導とオンライン服薬指導を柔軟に組み合わせて行うことについて検討し、結論を得る」ことを求め、検討の期限を「19年度上期に措置」とした。
処方箋の完全電子化の実現に関しては、16年3月に策定した「電子処方箋の運用ガイドライン」を今年度中に改定し、「19年度上期に措置」することを求めると共に、電子処方箋のスキームを完全に実現するまでの具体的な工程表を作成・公表すべきとしている。
政府方針に実現明記‐19年度に措置が決定
そして政府は6月15日、18年度の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)、「未来投資戦略」「規制改革実施計画」を閣議決定した。いずれの方針でもオンライン服薬指導の検討が盛り込まれ、成長戦略では国家戦略特区の実証等も踏まえつつ、薬機法の時期改正に盛り込むことも視野に検討すると明記した。同戦略の実行計画と規制改革実施計画では、今年度中の検討、結論を得て、来年度上半期に実施すると踏み込んだ。
骨太方針では、フラッグシッププロジェクトに次世代ヘルスケアシステムの構築プロジェクトを位置づけ、その中で服薬指導を含めたオンライン医療に言及。次期以降の診療報酬改定における有効性・安全性を踏まえた評価、薬機法改正の検討などの制度的対応も含め、さらに前進させる取り組みを進めるとした。
また成長戦略では、オンライン服薬指導について、国家戦略特区の実証等を踏まえつつ、薬機法の次期改正に盛り込むことも視野に検討するとし、規制改革実施計画でも薬剤師による対面服薬指導とオンライン服薬指導を柔軟に組み合わせて行うことについて今年度中に検討、結論を得るとし、来年度から実施する方向性を明記した。
方針決定で一気に動き出す‐愛知・福岡・兵庫で始動
政府方針の決定を受け、大きな変化がなかった国家戦略特区でのオンライン服薬指導の取り組みが一気に動き出した。早速、国家戦略特区を活用し、薬局薬剤師が処方薬のオンライン服薬指導を行う事業が全国3区域でスタートした。政府は6月14日に開いた国家戦略特別区域諮問会議で、兵庫県養父市、福岡県福岡市、愛知県が提案した遠隔服薬指導の事業計画を承認したことから、3区域で薬局登録申請の受付が始まった。
調剤薬局チェーンのアインホールディングスが6月18日、愛知県への事業登録の事前相談を開始したと発表。全国初の取り組みとなる遠隔服薬指導がスタートした。
国家戦略特区を活用したオンライン服薬指導事業は、薬局薬剤師が特区内の一定地域に居住する人に限定し、オンライン診療が行われた場合に、対面ではなくテレビ電話を使って服薬指導を行えるようにするもの。愛知県は「県薬剤遠隔指導事業」とし、県医薬安全課が窓口となって登録申請の受付、事前相談の対応を始めた。申請対象は、県知事の許可を受けた薬局開設者(名古屋市、豊橋市、岡崎市、豊田市は除く)
特定地域は、西尾市一色町佐久島、新城市、知多郡南知多町日間賀島、知多郡南知多町篠島、北設楽郡設楽町、北設楽郡東栄町、北設楽郡豊根町村。特定区域内でも薬局が近くにある場合は、事業の対象としていない。
21日には、愛知県が国家戦略特別区域の処方箋薬剤遠隔指導事業(オンライン服薬指導)の登録薬局を認定し、公示した。登録されたのは、調剤薬局チェーンのアインホールディングス100%子会社のアインメディオが運営するアイン薬局稲沢店(稲沢市長束町観音寺田)。国内初の認定薬局として、準備が整い次第、オンライン服薬指導の取り組みを開始する。アインホールディングスは、愛知県岡崎市内でオンライン診療を行う「りゅう市役所北内科・リハビリ科」と連携し、オンライン服薬指導を行う計画で、早ければ今月から取り組みをスタートさせる予定という。
福岡市は6月15日から募集を開始した。実施地域は、東区(勝馬校区、志賀島校区)、早良区(曲渕校区、脇山校区の一部[大字板屋、大字椎原])、西区(小呂校区、玄界校区、能古校区)。市保健福祉局健康医療部地域医療課が窓口となり申請書を受付け、市の審査を経て登録となる。遠隔服薬指導の登録は福岡市内の薬局を対象としている。
福岡市も21日現在で、ヒューガファーマシーが運営する「きらり薬局名島店」(福岡市東区名島)、「きらり薬局重留店(福岡市早良区重留)の2店舗の登録が完了したことを公表している。福岡市の「たろうクリニック」をかかりつけ医としてオンライン診療を行う特定地域内に居住する患者に対し、オンライン診療システムを活用したオンライン診療を行った後、きらり薬局の薬剤師がオンライン服薬指導を実施するというもの。
兵庫県養父市は、市内十数軒の薬局を対象に遠隔服薬指導を行う薬局を募集。兵庫県薬務課が窓口となり申請を受け付ける。申請に当たっては、対象薬局向けの事前説明会も開く予定という。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
2018年4月から医師のオンライン診療が解禁されました。それにともなって、服薬指導のオンライン化の解禁を望む声も強くなり、現在準備が進められています。すでに国家戦略特区でのオンライン服薬指導事業がスタートしており、今年度中に検討段階を終えて2019年に実質的措置をとる予定です。