日本発新薬の上市続く‐連続的に生み出していく創薬プラットフォームが鍵に
国内製薬企業は自社創製品で浮上できるか。中外製薬が独自の抗体技術で開発した二重特異性抗体の血友病A治療薬「ヘムライブラ皮下注」、塩野義製薬が開発した1回のみの服用で治療する抗インフルエンザ治療薬「ゾフルーザ錠」が国内で承認された。さらに、協和発酵キリンは小児X染色体遺伝性低リン血症くる病(XLH)の適応で抗FGF23抗体「ブロスマブ」の欧州承認を取得。どれもが自社研究所から創出した薬剤ばかり。グローバル開発競争の中で、欧米製薬大手との企業体力勝負ではなく、企業規模の小ささを逆手に取って、連続的に新薬を創出していく自社創薬プラットフォームから生み出した成功事例だ。
抗体医薬、抗インフル‐独自技術で実用化へ
スイス・ロシュグループの中外製薬は、抗体改変プロジェクトによる新薬の連続創出に取り組んできた。抗原に繰り返し結合する“リサイクリング抗体”、抗原を血漿中から除去する“スイーピング抗体”、左右の抗原結合部位で異なる抗原に結合する“バイスペシフィック抗体(二重特異性抗体)”が代表例だが、二重特異性抗体では、ヘムライブラが世界で初めて承認を取得した。
ヘムライブラは、活性型第IX因子とX因子に結合し、血友病Aで欠損、または機能異常となっている第VIII因子の補因子機能を代替する。重症型血友病Aの25~30%で、標準療法の血液凝固第VIII因子製剤に対するインヒビターの発現で治療が困難となっており、新たな治療選択肢を提供できる。抗IL-6抗体「アクテムラ」に続く待望の自社抗体医薬品となった。
協和発酵キリンも、自社創製で世界初の抗FGF23抗体「ブロスマブ」について、欧州委員会から条件付き医薬品販売承認を取得した。国内では、販売している血液癌適応の抗CCR4抗体「ポテリジオ」に続く自社抗体医薬第2号製品となる。この2剤でグローバル展開を本格化させる計画。
両社は、日本が出遅れた抗体医薬で世界初上市を成し遂げた。
感染症に強い塩野義製薬が、低分子の新規インフルエンザ薬「ゾフルーザ」の承認を2月に取得し、3月14日に緊急薬価収載され、同日に販売を開始した。もともと、2015年10月に先駆け審査指定制度の対象品目に選ばれており、早期承認を達成した。キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤という既存の薬剤とは異なる新しい作用機序で、インフルエンザウイルスの増殖を抑制することが可能。1回のみの錠剤の服用で治療が完結できる。
塩野義は、各社が開発にしのぎを削る癌の創薬では、あえて勝負しない道を選ぶ。売上3000億円規模の製薬企業として創薬の生産性を追求し、感染症領域でのβラクタム創薬、抗HIV薬の研究基盤を生かし、ゾフルーザの創出を実現した成功体験から、自社が勝負する土俵を絞り込む。一つの研究アセットで継続的に新薬を生み出していく創薬プラットフォームを武器に世界で戦う。
癌で勝負する日本企業‐自社創薬から好循環
癌領域で創薬を行う第一三共では、抗体薬物複合体(ADC)フランチャイズが自社基盤だ。最も先行する抗HER2ADC「DS-8201」が米FDAからブレークスルーセラピー、3月には日本でも先駆け審査指定制度の対象品目に選ばれた。癌では新参者の同社だが、こうした製品・技術に惹かれた優秀な研究者が集まり、社内では“この革新的な開発薬を早く上市させたい”という共通意識から個々の高いモチベーションにもつながっているという。
エーザイも「ハラヴェン」「レンビマ」と自社抗癌剤を上市させているが、3月には米メルクとの間で、抗PD-1抗体「キイトルーダ」と「レンビマ」の併用療法に関する戦略的提携を結んだ。一時金で最大9億5000万ドル(約1010億円)、開発・販売マイルストンを含めると、最大総額57億6000万ドル(約6140億円)に達する大型契約だ。
中枢神経系と癌に選択と集中を図るエーザイにとって、メルクとの契約は癌のプラットフォーム構築に向けた重要な一歩。これまでは2次療法、3次療法でしか使えなかった自社薬剤を1次療法で使える可能性が出てくるからだ。グローバル製薬企業との大型契約は、経済的な対価を得るだけではなく、研究者に自信を与え、新たなビジネスチャンスを生むきっかけにもなる。アルツハイマー病という難敵に挑む中、癌の自社創薬で流れをつかんだ格好だ。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
塩野義のゾフルーザ、中外のヘムライブラ、協和発酵キリンのブロスマブなど、日本発の新薬が相次いで承認されています。どれも自前の研究所で開発されました。
全世界規模となった創薬競争の中で、規模で勝負せず自社の得意とする集中分野などで連続的に新薬を生み出す方法が実を結んでいるようです。