薬剤師会

薬局でフレイルチェック‐薬剤師主導で要介護回避

薬+読 編集部からのコメント

神戸市薬剤師会は、市内の薬局で「フレイルチェック」を実施。フレイルとは「健康と要介護の間の虚弱な状態」のこと。薬剤師が中心となり、ふくらはぎの筋肉量のチェック、口腔機能やそしゃく力のチェックなどを無料で行っています。
市と薬剤師会が提携するのは全国初となり、チェック1件あたり1500円の報酬が薬局に支払われる仕組みです。

市から事業受託

薬局でふくらはぎの筋肉量をチェック(実習生を対象に実演)
薬局でふくらはぎの筋肉量をチェック(実習生を対象に実演)

 

神戸市薬剤師会は要介護に陥りやすい状態かどうかを評価する「フレイルチェック」を市内の各薬局で実施している。2017年9月に市から事業を受託して始めた。薬局薬剤師が、地域住民の心身機能や栄養状態を各店舗で調べて、生活習慣の見直しや運動不足の解消を助言する。年齢相応よりも筋肉量や活力が低下している“フレイル”状態に、いち早く気付いて対処すれば健常な状態に回復することもあるからだ。薬剤師がアドバイザーとしての役割を担い、薬局を健康サポートの窓口として活用してもらいたい考えだ。

 


「両手の親指と人差し指を使って、ふくらはぎの一番太い部分を囲んでください」

 

神戸市兵庫区の薬局レオファーマシーで管理薬剤師を務める安田理恵子氏は、フレイルチェックに訪れた住民にこう声をかける。

 

親指と人差し指でつくった輪とふくらはぎの間に隙間が生まれる場合、サルコペニア(加齢性筋肉減少症)が疑われる。そうした人には「階段を使う機会を増やして、もう少し筋肉を付けましょう」などと運動を促す。

 

筋肉量は、椅子から立ち上がって再び座る動作を反復する15秒間のテストや、握力測定でも評価する。

 

特に、全身の筋力量と比例する握力は、身体機能を把握するための分かりやすい指標の一つ。弱まるとペットボトルや瓶の蓋が開けられなくなるなど日常生活に直結する支障が出るため、筋力回復に取り組むきっかけになるという。

 

併せて、栄養摂取を支える口腔機能をチェックする。強くかむと緑から赤に色が変わるガムを使って咀嚼力を調べたり、30秒間に唾液を飲み込むペースを数えて嚥下機能を評価したりして、食べる力が低下していないかを確かめる。

 

店頭にステッカーを貼り付けてチェックを呼びかけている
店頭にステッカーを貼り付けてチェックを呼びかけている

 

このほか、社会との関わりや精神状態を聞く事前質問票の内容も踏まえて、その人の全体像を把握する。所要時間は約15分で、狭くても椅子があれば実施できる。テストの内容は、その人の健康状態に合わせて調整する。チェックは無料で受けられる。

 

薬局薬剤師が評価した内容は共通のフォーマットに記入して神戸市に送付。市は提携する企業に解析を依頼し、約3週間後にはその結果を各薬局か、チェックを受けた住民に返却する。薬剤師は解析結果から健康状態を読み解き、生活習慣の見直しや運動不足の解消を助言する。

 

主な対象者は、神戸市国民健康保険加入者のうち65歳の人。市が送付する特定健診の通知に、案内状と事前質問票を同封してフレイルチェックを促す。このほか、共通のステッカーを店頭に貼り付けたり、処方箋応需時に薬局薬剤師が患者に声をかけたりして周知する。希望者は近隣の薬局を予約の上、質問票を持参してチェックを受ける。

 

現在、神戸市薬の会員薬局の半数以上を占める380軒でチェックを実施。今春までの半年間で、1888人の地域住民が参加した。特定健診会場での参加者を合わせると、この期間に3000人以上がチェックを受けた。

 

存在感示す足掛かりに

フレイルとは、健康と要介護の間の虚弱な状態を指す。病気ではないものの、加齢に伴って筋力や心身の活力が低下しているため、要介護状態に陥りやすい。日本老年医学会が14年5月にその概念を提唱した。

自身がフレイルであることに早めに気付き、食習慣の改善や口腔ケア、運動、社会参加などに取り組めば、元の健康な状態に戻ることもある。

 

神戸市は、フレイルの早期発見と薬局薬剤師の介入が健康寿命の延伸につながるとして、17年9月からフレイルチェック事業を始めた。介護や入院が必要になる期間を短くして、医療費の抑制につなげたい考えだ。市と薬剤師会が提携するのは全国で初めて。チェック1件あたり1500円の報酬を薬局に支払う。

 

「65歳でフレイルに気付けば回復できるのでは」と語る桂木氏
「65歳でフレイルに気付けば回復できるのでは」と語る桂木氏

 

事業の企画に携わった神戸市薬副会長の桂木聡子氏(兵庫医療大学薬学部准教授)は「65歳時点でフレイルを意識する風土をつくりたい」と語る。一度、要介護状態に陥ると、福祉の積極的な介入が必要になる。その事前でくい止めて70歳までにフレイルから脱出できれば、健康的に過ごせる期間を長く維持できる。

 

この事業は「地域住民の間で薬局薬剤師の存在感を高めるチャンスにもなる」と桂木氏。

 

参加した薬局では、チェック中に患者との会話が広がり、従来の処方箋応需や服薬指導では十分に把握できなかった生活習慣や体調不良が分かるようになった。地域住民の間には「薬局は、処方箋の薬をもらうだけの場所ではないと感じた」という声もあるという。桂木氏は「薬局を訪れる機会を増やしたい」と抱負を語る。

 

調剤以外にも視野広げて

幅広い領域で住民に接することは「薬局薬剤師が調剤報酬に関わる業務以外の仕事に取り組む足掛かりになる」と桂木氏は期待を寄せる。調剤報酬点数の高低は必ずしも健康への貢献度と比例していない。現行の制度に縛られず「ADLやQOLの向上という大きな視野で薬剤師の業務を捉えてほしい」と呼びかける。

 

安田氏も「その人の人生、全体に目を向けていきたい」と話す。フレイルは、運動機能や口腔機能の衰え、精神状態の悪化、生活リズムの乱れなど、複合的な要因が重なっており、どれか一つを解消すれば脱出できるものではない。定年後のライフプランの相談に乗ったり、社会貢献の場を紹介したりして「暮らしを充実させるきっかけをつくれたら」と思いを語る。

 

このほか、多職種との連携モデルを薬剤師会が主導してつくり、各薬局に浸透させるという狙いもある。

 

例えば「咀嚼チェックガム」テスト。義歯のズレや口腔乾燥といった異常に薬剤師がいち早く気付けば、歯科検診を勧めたり、副作用が疑われる薬の変更を医師に提案したりできる。

 

また、フレイルチェックの解析結果を印字したシールを用意。お薬手帳に貼り付ければ、多職種間の情報共有のためのツールになるという。

 

>>ワークライフバランスを考えて働きたい薬剤師求人特集を見てみる

  • 薬剤師のための休日転職相談会
  • 薬剤師の転職・求人・募集はマイナビ薬剤師/5年連続満足度NO.1

出典:薬事日報

ページトップへ