遺伝子治療薬の国内治験開始‐悪性中皮腫が対象
岡山大学発のバイオベンチャー「桃太郎源」は、悪性中皮腫を対象とした遺伝子治療用製剤「Ad-SGE-REIC」の国内治験を開始する。昨年4月に杏林製薬に導出し、この1年間で治験薬製造プロセスの構築や毒性試験、当局への治験届提出などの準備を終えた段階にあるという。公文裕己研究担当取締役(CSO)は、「Ad-REICは癌細胞だけを攻撃し、抗がん免疫の活性化を担う新たな世代の癌ワクチンとして、全ての固形癌で提供できる」と述べ、肝臓癌の開発も視野に入れる。
「Ad-REIC」は、不死化細胞の研究から、岡山大学で独自に単離・同定された癌抑制遺伝子「REIC」をもとに開発した、遺伝子治療による次世代癌ワクチン療法。REICは、正常細胞では高発現しているが、前立腺癌をはじめ各種の癌細胞では高頻度で発現が抑制されていることが分かっている。
REICを導入したアデノウイルスベクターを癌局所に注入した実験では、小胞体で折り畳まれていない異常なREIC蛋白質が産生され、その蓄積によって「小胞体ストレス」が生じ、アポトーシスが起こることや、細胞傷害性T細胞の誘導とNK細胞の活性化が認められている。第1世代製剤を用いた前立腺癌対象の臨床研究でも、有効性が確認されている。
導出先の杏林製薬が科学技術振興機構の産学協同実用化開発事業に採択され、9月から悪性中皮腫を対象とした治験を開始する。国内3施設18例を対象に第I相試験を実施し、第II相試験を行った後で再生医療等製品の条件付・期限付承認制度を用いて申請を行う予定。次の適応症としては、日本人の罹患率や死亡率が高い肝臓癌での開発を計画する。
米国では、前立腺癌の第I/II相試験で良好な結果が得られたことから、昨年12月に設立され、桃太郎源が全体の30%を出資するMTGバイオセラピューティクスが次相開発を行う。中国では、CROのイーピーエス中国法人が開発を担っており、肝臓癌をターゲットに治験申請の準備を開始した。
公文氏は、「癌免疫チェックポイント阻害剤で免疫に対する考え方がクリアになり、遺伝子治療が今後進展してくる。その意味では、Ad-REICはいい線をいっているのではないか」と今後の開発に意欲を示す。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
岡山大学発のバイオベンチャー企業「桃太郎源」が悪性中皮腫を対象とした遺伝子治療用製剤の国内治験を開始するというニュース。次世代のがんワクチンとして、肝臓がんに対する開発も視野に入れているとのことです。