リーダーとなる薬剤師を支援~日本薬剤師研修センターが30周年【豊島聰理事長インタビュー】
薬剤師の生涯学習を支援する日本薬剤師研修センターは、6月に設立30周年を迎えた。2016年からかかりつけ薬剤師指導料の算定要件として研修認定を取得することが必須となるなど、生涯学習への関心や重要性が増している。提供する研修内容の充実も求められる中、豊島聰理事長は、生涯学習を通じて目指す薬剤師像について「地域住民の健康管理の中核を担い、次世代の薬剤師の育成もできるリーダーを見出し、支援したい」と語る。豊島氏に、30年間での生涯学習をめぐる環境の変化、事業を進める上での課題、今後の研修センターの方針などを語ってもらった。
■豊島 聰理事長に聞く
――設立30周年を迎えた感想をお聞かせください。
30年間で医薬分業がかなり進展したこと、薬学部の6年制への移行、健康サポート薬局・かかりつけ薬局として地域医療の一翼を担うことが明確になったことなど、薬剤師を取り巻く環境は大きく変化した。
この変化に対応するには、求められる職能を薬剤師一人ひとりがリアルタイムで身につける必要があり、自己研鑽としての生涯学習が必須だ。研修センターは薬剤師の生涯学習支援を目的に設置されたので、30年間で役割が非常に重要になってきたと考えている。
――研修センターの事業内容を教えてください。
これまで、基幹業務である研修認定薬剤師制度に最も注力してきた。日本薬剤師会や薬科大学など、多数の団体に研修実施機関になってもらい、研修会を提供している。研修実施機関は約2000、研修会は年に約1万8000に達する。この制度を薬剤師にとって、より有用なものとするためには、医学・薬学の進歩に合わせた質の高い研修を提供しないといけない。まだ質にばらつきが見られるものの、薬剤師にしっかりと学習してもらえる内容にしている。研修会に参加しにくい地域に居住する人や多忙な人などに向け、eラーニングで参加できるシステムも提供しており、受講者の利便性を高めている。
研修認定薬剤師制度は一般の薬剤師向けだが、専門性の高い薬剤師を求める社会的要請に応えるため、00年に漢方薬・生薬認定薬剤師制度、12年には小児薬物療法認定薬剤師制度をスタートさせるなど、時代の流れに即して必要なものを取り入れてきた。また、6年制薬学教育に対応するため、認定実務実習指導薬剤師制度も実施しており、新卒の薬剤師を育てるためにも非常に重要な事業と考えている。
■認定取得後も研鑽が必要‐大学で生涯学習の意識づけを
――事業を進める上で、困難に感じたことは何ですか。
生涯学習に取り組む薬剤師を増やすことだ。日本では免許更新制ではなく、研修も義務化されていない。さらに、医薬分業の進展で薬剤師が多忙になっており、休みが少ない人に研修に来てもらうことは難しいことから、設立後しばらくは認定取得者は年間2000人程度だった。
薬学部の6年制移行後は、4年制で卒業した人が6年制と同等の知識を持ち合わせている必要があるため、認定を取得する薬剤師が大幅に増加したが、全薬剤師数から考えるとまだ多くはなかった。しかし、かかりつけ薬剤師になるには研修認定を取得することが要件となったこともあり、16、17年には年間約4万2000人に急増し、現在、研修認定薬剤師の総数は10万人を超えた。
認定を取得すること自体は自己研鑽に励む人が増えたので喜ばしいことだ。ただ、取得後もしっかりと学習に取り組んでもらわないと、認定薬剤師なのに実力が伴わないということになるため、認定取得後の取り組みが非常に重要となる。
――生涯学習に関する課題を教えてください。
現場の薬剤師が実務実習指導を行っていることを考えると、大学との連携が非常に重要だと思う。大学のコアカリキュラムには「薬剤師として求められる10の基本的資質」が記されているが、これらの資質は、決して大学で教育が完成するのではなく、生涯学習と関係がある。薬剤師の資質を生涯にわたって伸ばし続けるという考えを大学でも教えてほしい。
ただ、大学の生涯学習に対する学生への意識づけが弱いと感じる。実務実習の指導に関しては、臨床系の教授・教員を採用するなど、大学も頑張っている。しかし、薬学の伝統として研究が主体で実務を軽視する傾向がある。国公立大学はもう少し実務のことを考えても良いと思う。一方、薬剤師も「物から人へ」と変化が必要となり、患者と対話して良い医療を提供することを考えると、コミュニケーション力が重要だ。私立大学では、国家試験の合格を至上命題としているが、薬剤師の現場では知識だけでは対応できない話も出てくるため、研究マインドが役立つ。私大は研究マインドを学生にうまく植え付けてほしい。
■自己診断表の提出を義務化‐受講から認定までシステム化
――現在、注力している事業とこれから注力したい事業を教えてください。
薬剤師が自己研鑽により生涯学習の成果を確実なものとし、薬剤師職能を高めていくためには、自己研鑽結果について自己診断することが必須だ。この自己診断のために薬剤師研修センターでは、生涯研修自己診断表(薬剤師生涯研修の指標項目)を薬剤師研修手帳に記載し、学習の充足度などを各項目で診断し、バランス良く学習することでレベルを高めることを薦めてきたが、ほとんどの人が利用していない現状だった。そのため、4月からこの自己診断表を認定申請の際に提出することを義務づけた。個々の薬剤師が成果を積み上げることに利用するだけでなく、研修センターとして生涯学習の支援・推進にこれを利用する。
研修受講から認定証の発行までを一貫してシステム化する計画もある。現在は、単位の不正がないかどうかを職員が1件ごとに確認しているが、受講者数が急増したことで職員の負担も増した。システム化はこの状況を改善するためのもので、例えば、受講する薬剤師にIDカードを交付し、研修会でカードをかざせば自動的に登録され、終了時もカードをかざすことで単位数が把握できるような仕組みにすれば、リアルタイムで受講した人、取得単位数などを研修センターで直接管理できるようになる。既にシステムの構築を担う企業が決まっており、来年度の早期を目標に導入したいと考えている。
――研修受講シールが不正に売買されていたとの報道について、不正防止策をお聞かせください。
オークションサイト等に出品を防止するよう要請した。生涯学習は自己研鑽なので、不正に受講シールを取得したとしても、受講していない人がかかりつけ薬剤師として患者に対応できるかは非常に疑問だ。長い目で見れば、薬剤師の職能を十分に果たせない事態に陥る。ただ、そのような薬剤師が出てくると、薬剤師全体の信頼を損ねることになる。不正をなくすため、長期的には受講から認定証発行までのシステム化でシールの売買防止を図りたいが、まずは研修会の実施者に受講者名簿を整理してセンターに提出し、シール受領者の本人確認を必ず行ってもらう。今月から、全ての研修会実施者にこの対策を行ってもらうよう要請している。業務量が増えて申し訳なく思うが、薬剤師全体を考え、対策に取り組んでもらいたい。
――研修センターの今後の方針を教えてください。
令和の時代も、薬剤師を取り巻く環境に大きな変化があると予想する。これに対応するには、やはり自己研鑽にしっかりと取り組まないといけないが、研修センターも時代に応じた支援を行うことで役割を果たしていきたい。具体的には、地域住民の健康管理の中核を担い、次世代の薬剤師の育成もできるリーダーを見出し、支援したい。そのため、16年から薬剤師生涯学習達成度確認試験を実施しているが、合格者はリーダーの資質がある薬剤師と見ているので、この人たちの支援を考えていきたい。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
2019年6月、薬剤師の生涯学習を支援する日本薬剤師研修センターは設立30周年を迎えました。本稿では、薬事日報(2019年7月8日)に掲載された、同センターの豊島聰理事長へのインタビューを紹介します。薬剤師の生涯学習に役立つヒントが満載ですので、ぜひチェックしましょう。