【2022年話題の焦点】リフィル導入で薬局間競争激化~さらなる薬剤師業務の発展も視野
職能発揮する絶好の機会
今春の診療報酬改定で、リフィル処方箋の導入が決まった。医師の診察を効率化し医療費を抑えることが主な狙いだが、薬剤師にとっては職能を発揮する絶好の機会になり得る。薬剤師のフォローアップ等によって、医師の診察を必要最小限に抑えつつ医療の質は維持できることを具体的なエビデンス等で示していけば、さらなる薬剤師業務の発展も見えてくる。しかし、十分な成果が認められなければ、発展には限りがあるかもしれない。リフィル処方箋制度が今後どこまで大きく育つかは、現場の薬剤師の手腕にかかっている。
リフィル処方箋とは、一定の期間内であれば医療機関を受診しなくても繰り返し利用できる処方箋のこと。医師が処方箋に利用できる回数や投薬日数を記入する。日本では、状態が安定した患者でも、薬をもらうためだけに医療機関に出向き受診する必要があるが、リフィル処方箋の導入によって患者は受診せずに薬局で薬を受け取ることができる。
リフィル処方箋は、患者や医師の負担を減らすだけでなく、財政健全化にも役立つとしてこれまで何度も政府の提言等に盛り込まれてきた。厚生労働省の「チーム医療の推進に関する検討会」は2010年にまとめた報告書で、薬剤師の業務範囲についてリフィル処方箋の導入を検討するよう求めた。14年の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)にも、リフィル処方箋の検討が盛り込まれた。
その後、リフィル処方箋は時期尚早として、分割調剤の推進から取り組むことになったが、医療現場には定着しなかった。その間、17年に続き、21年の骨太方針にも再度リフィル処方箋の検討が盛り込まれた。
昨年夏以降本格化した22年度診療報酬改定に向けた中央社会保険医療協議会での議論で大きく取り上げられることはなかったが、最終局面となった昨年12月下旬の来年度予算案をめぐる閣僚折衝で急きょリフィル処方箋の導入が決まった。
財源を捻出する手段として財務省主導で決まった側面が強い。これを受け厚労省は、現在急ピッチで具体的な制度設計を進めている。リフィル処方箋導入による医療費削減額は、改定率に換算して0.1%(国費ベース約110億円分)と見込まれていることから考えると、まずは限られた範囲で始まる模様だ。対象疾患や医薬品を限定した制度としてスタートすることになるのかもしれない。
医療の質保つ要の役割を
現場の薬剤師は、リフィル処方箋の導入をどう受け止めているのか。
ある男性薬局薬剤師は「リフィルが進めば薬局間の競争が激化する。門前と面の立地の差がなくなるのではないか」と指摘する。リフィル処方箋を交付された患者は、医療機関を受診する必要はなく薬局で薬を受け取れる。受診のついでに医療機関の近隣薬局で薬をもらうという患者の行動が変化し、自宅近くの薬局や気に入った薬局へ向かう可能性がある。処方箋が面全体に流れやすくなると見られる。
立地で薬局が選ばれる傾向が弱まった場合、患者は何を基準に薬局を選ぶのだろうか。リフィル処方箋では、医師の診察がない分、薬剤師がしっかり患者と話して状況を把握したり、フォローアップを実施したり、必要に応じて受診を促したりするなど、医療の質を保つ要の役割を担う。薬学的管理をいかに実践するかが今まで以上に問われる。そのようなアプローチを行える薬剤師が、患者から選ばれるようになる可能性がある。
ある女性薬局薬剤師は「例えば高血圧患者に対して血圧手帳を必ず確認したり、患者の状態の変遷や変化、薬剤の効果を見極めたりすることが必須になる。薬剤師としての職能がますます問われる」と強調。医師の診察時と同じように薬局で話をするという意識を患者に持ってもらえるように「制度施行時の初動が重要」と語る。
薬剤師資格を持つ大学教員も「患者が薬局で話す機会が増え、薬局を活用する場面が増加する。これまで薬局で薬剤師に話すことに意義を感じなかった患者も、メリットを感じ必要性があれば薬局を活用するだろう」と言及。「今回の制度で、薬局で相談する必要性が増すことにより、薬剤師の潜在的な能力の高さが認知される可能性がある」と期待を示す。
一方、同教員は、実のある制度として育てるために「リフィル処方箋導入に伴うアドヒアランスや患者の利便性の変化を調べ、普及しなかった場合にはその要因を追求する必要がある」と指摘する。先の女性薬剤師も懸念事項として「分割調剤では基本的に主治医への連絡が必要となり手間がかかるのに対し、それに見合った調剤報酬になっていないため、実践している薬局は少ない。リフィルではそうならない制度設計にしてほしい」と語る。
医師の理解を得ることも重要なカギになりそうだ。別の男性薬局薬剤師は「診察なしで処方箋のみを発行している医療機関が決して少なくない数存在していることは、多くの薬剤師が知るところ。医師側の利益減少という点においては圧倒的にネガティブな内容であり、しばらくの間反発は免れない」と言及。「処方元の医師との信頼関係が全てであり、連携が必要になる」と話す。課題も多く、現時点では未知数のリフィル処方箋制度だが、将来は薬局間の健全な競争を生み出し、薬剤師の職能を発展させる可能性を秘めている。
立地で薬局が選ばれる傾向が弱まると指摘した男性薬剤師は「次の改定までの2年間が薬剤師にとって勝負になる。単純な繰り返し処方となるのか、リフィルを含め薬学的なフォローアップを薬剤師の主業務として認識してもらえるようになるのか、大事な2年になる」と語る。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
2022年春の診療報酬改定で、一定の期間内であれば医療機関を受診しなくても繰り返し利用できる「リフィル処方箋」の導入が決定。医師による診察を効率化し医療費を抑えることが主な狙いですが、薬剤師にとっては職能を発揮する絶好の機会になり得ます。しかし、十分な成果が認められなければ、その発展には限界があるかもしれません。リフィル処方箋制度が今後どこまで大きく育つかは、現場の薬剤師の手腕にかかっていると言えるでしよう。