【帝京大・岸本氏ら調査】論文生産性に3倍の格差~私大薬学部で研究力停滞か
私立大学薬学部の論文生産性は国公立大学薬学部に比べて大幅に低く、3倍の格差があることが、岸本泰司氏(帝京大学薬学部物理化学研究室教授)らの調査で明らかになった。教員1人が2020年の1年間に発表した論文数の平均値を解析したところ、国公立大の3.13に対して私立大では1.15となり、私立大の研究環境が厳しいことが浮き彫りになった。私立大の間でも格差があり、新設薬学部の論文生産性は既設薬学部に比べて低いことも分かった。
岸本氏らは、全国薬学教員名簿から77薬学部(国立14、公立4、私立59)の常勤の教授、准教授、講師計3313人の教員を抽出。全学術分野をカバーするエルゼビアの文献データベースを用いて、各教員が20年の1年間に報告した論文数を計算した。同じ学部内での論文の重複は1報として数えた。論文数を教員数で割り、平均論文数を算出した。
その結果、20年の総論文数は5223本となった。教員1人当たりの平均論文数は、国公立大薬学部の3.13に対し、私立大薬学部では1.15となり、約3倍の格差があった。
私立大間の差も調べた。03年度以前に設立された既設私立大薬学部29校、同年度以降に設立された新設私立大薬学部30校を比較。教員1人当たりの平均論文数は、既設私立大薬学部の1.33に対し、新設私立大薬学部では0.98となり、有意に生産性が低かった。
別の研究者が以前に報告したデータをもとに、国公立大14薬学部、私立大7薬学部の平均論文数の変化も調べた。その結果、1993年時に1.14だった国公立大の平均論文数は2017年時には2.67まで伸びていた。これに対して、私立大の平均論文数を見ると、93年時は0.62、17年時は0.99で伸び幅は小さかった。
6年制課程が中心の私立大薬学部は、大学院として4年制博士課程を設けているものの、進学者の確保に苦労している。研究費も国公立大に比べて獲得しづらい。一方、4年制課程を中心とする国公立大は通常、大学院の博士前期課程と後期課程を持ち、私立大に比べれば研究のマンパワーは大きい。
こうした研究環境の差が論文の生産性に影響している可能性がある。今回の調査からは、私立大薬学部における基礎科学研究力の停滞が示唆されたという。
岸本氏らは、約3年前に同様の調査結果を発表している。今回は、より包括的な論文のデータベースを用いて、20年の数値をもとに再解析した。研究結果は、日本薬学会の学術誌「薬学雑誌」のオンラインで公開された。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
全国薬学教員名簿から77薬学部(国立14、公立4、私立59)の常勤の教授、准教授、講師計3313人の教員を抽出したうえで調査したところ、私立大学薬学部の論文生産性は国公立大学薬学部に比べて大幅に低く、3倍の格差があることが判明し、私立大の研究環境が厳しいことが浮き彫りとなりました。その私立大の間でも格差が生じており、新設薬学部の論文生産性は既設薬学部に比べて低いことも分かりました。