国主導で認知症薬創出へ~探索から実用化を一貫支援
来年度最大300億円要求
政府は来年度、内閣府、厚生労働省、文部科学省をはじめとする省庁横断型の統合プロジェクトとして、国主導で認知症等の発症や進行抑制、治療法開発に乗り出す。エーザイが開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」が米国で正式承認されるなど、世界をリードする認知症創薬で標的の探索からシーズの創出、治験への橋渡し、国際共同治験体制の整備などを一気通貫で支援し、日本発の認知症治療薬創出を目指す。予算規模は来年度概算要求額で200億~300億円を想定している。
2040年には高齢者の4人に1人に当たる約950万人が認知症になると予測されている。政府は「新しい資本主義実行計画」の中で、他の先進国に先行して高齢化社会を迎えるとして、「認知症等の脳神経疾患に対する予防・治療や研究開発」を重要課題に位置づけている。認知症・脳神経疾患の研究開発を抜本的に強化するため、認知症・脳神経疾患研究開発イニシアティブをスタートさせることとなった。
これまでも認知症治療薬の研究開発を支援していたものの、バイオマーカー研究など限定された範囲にとどまっていた。今回、政府として認知症の治療薬創出に焦点を当て、時間軸を持って全体を見渡した取り組みは初めてとなる。具体的には、▽創薬の加速化▽脳科学応用▽将来に向けた研究開発――の中長期を見据えた3段構えの取り組みを想定している。
創薬の加速化では、数年かけて日本が世界で先行する創薬開発のリードを広げ、裾野を拡大することを目指す。厚労省を中心に、認知症の発症原因と考えられるアミロイドβなどの標的から創薬シーズの創出や治験に直結する研究開発支援、国際共同治験体制の整備を行う。
バイオマーカー開発についても、腰椎穿刺を主流とする髄液検査から簡便な血液検査への切り替えを目指すと共に、検査に用いる医療機器開発に力を入れる。
脳科学研究などの基礎研究成果も出始めていることを踏まえ、文科省を中心として5年をメドに次世代の認知症治療薬開発で競争力を獲得するための新たな標的治療開発にも着手する。
具体的に、認知症コホートやバイオバンクの生体資料、データ活用を通じて、疾患機序や創薬標的の特定を目指すほか、数理モデルを活用したデジタル脳・脳計測技術開発等を行う。脳機能の解明により、健康・医療分野のみならず、人工知能、量子技術など幅広い分野にイノベーションを波及させていく構想だ。
将来的には、認知症の克服に向け、内閣府の「ムーンショットプロジェクト」で神経回路の再生・修復等による回復治療法の研究開発などを行い、神経回路全体を対象とした未踏領域への挑戦を視野に入れる。現在は進行抑制にとどまる認知症の治療を、神経回路の修復に着目することで、可逆的な病状の改善につなげることを期待している。
来年度予算概算要求では、研究開発分野については認知症のほか、出口を見据えた創薬の製品化支援や新規モダリティの創薬、AIやITなどとの異分野連携、感染症対策にも取り組む方針を盛り込んでいる。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
2040年には高齢者の4人に1人(約950万人)が認知症になると予測される中、政府は2024年度、内閣府、厚生労働省、文部科学省をはじめとする省庁横断型の統合プロジェクトとして、国主導で認知症等の発症や進行抑制、治療法開発に乗り出します。予算規模は来年度概算要求額で200億~300億円を想定されています。